プレスリリース 発行No.1479 令和7年4月30日
抗真菌薬ボリコナゾールの有害事象を防ぐための
最適な血中濃度モニタリング実施時期を解明
最適な血中濃度モニタリング実施時期を解明
東邦大学薬学部の花井雄貴講師らのグループは、抗真菌薬ボリコナゾールの日本人における有害事象を防ぐための最適な血中濃度モニタリングの実施時期を明らかにしました。
この研究成果は、真菌性疾患の国際雑誌「Mycoses」に2023年8月16日に掲載され、同誌において2023年に最も閲覧された論文として、2025年4月に「Top Viewed Article Award」を受賞しました。
この研究成果は、真菌性疾患の国際雑誌「Mycoses」に2023年8月16日に掲載され、同誌において2023年に最も閲覧された論文として、2025年4月に「Top Viewed Article Award」を受賞しました。
発表者名
花井 雄貴(東邦大学薬学部臨床薬学研究室 講師)
植田 貴史(兵庫医科大学病院 感染制御部 助教)
浜田 幸宏(高知大学医学部附属病院 薬剤部 部長/教授)
尾田 一貴(熊本大学病院薬剤部/感染制御部 薬剤師)
高橋 佳子(兵庫医科大学病院 薬剤部 係長)
中嶋 一彦(兵庫医科大学病院 感染制御部 部長/准教授)
宮﨑 義継(国立感染症研究所 真菌部 部長)
桐山 望音(東邦大学薬学部 2023年度卒)
植草 秀介(東邦大学薬学部臨床薬学研究室 講師)
松尾 和廣(東邦大学薬学部臨床薬学研究室 教授)
松元 一明(慶應義塾大学薬学部薬効解析学講座 教授)
木村 利美(順天堂大学医学部附属順天堂医院 薬剤部 部長/客員教授)
竹末 芳生(兵庫医科大学医学部 特別招聘教授、知多半島りんくう病院 感染症科 部長)
植田 貴史(兵庫医科大学病院 感染制御部 助教)
浜田 幸宏(高知大学医学部附属病院 薬剤部 部長/教授)
尾田 一貴(熊本大学病院薬剤部/感染制御部 薬剤師)
高橋 佳子(兵庫医科大学病院 薬剤部 係長)
中嶋 一彦(兵庫医科大学病院 感染制御部 部長/准教授)
宮﨑 義継(国立感染症研究所 真菌部 部長)
桐山 望音(東邦大学薬学部 2023年度卒)
植草 秀介(東邦大学薬学部臨床薬学研究室 講師)
松尾 和廣(東邦大学薬学部臨床薬学研究室 教授)
松元 一明(慶應義塾大学薬学部薬効解析学講座 教授)
木村 利美(順天堂大学医学部附属順天堂医院 薬剤部 部長/客員教授)
竹末 芳生(兵庫医科大学医学部 特別招聘教授、知多半島りんくう病院 感染症科 部長)
発表のポイント
- ボリコナゾール(以下、VRCZ)(注1)は治療薬物モニタリング(以下、TDM)(注2)が推奨される唯一の抗真菌薬ですが、日本人における適切な実施時期は不明でした。
- 本研究により、TDMの遅れにより血中濃度(Cmin)が上昇し、副作用のリスクが高まること、初回TDMの早期の実施が副作用の予防に有用であることが明らかになりました。
- CYP2C19(注3)の遺伝子多型(注4)を考慮し、日本人では投与3~5日目のTDM実施が推奨されます。また、必要に応じて2回目のTDMの実施も検討が必要です。
- 本研究は、VRCZの適正使用に大きく貢献するものと期待されます。
発表内容
VRCZはCYP2C19の遺伝子多型の影響を受けやすく、特に日本人では代謝機能が低いpoor metabolizer(注5)の割合が高いため、血中濃度の上昇が問題となっています。そのため、日常診療においてTDMの実施が推奨されていますが、これまで初回TDMの最適なタイミングは明らかになっていませんでした。
研究グループは、日本人を対象に、TDMの実施時期別にVRCZの投与直前の血中濃度と副作用の発現を後ろ向きコホート研究で検討しました。対象は18歳以上で標準用量のVRCZを3日間以上経口または静注で投与された症例とし、TDMのタイミングによる血中濃度と安全性(主に肝機能障害と視覚障害)を比較しました。
その結果、TDMのタイミングが遅くなると血中濃度が上昇し、有効治療域を超える症例の割合が増加しました。特に投与開始3~5日目にTDMを実施していた群では、6日目以降に実施していた群と比べて肝機能障害の発現率が有意に低く、早期TDMが副作用の予防に有用であることが示されました。多変量解析でも、TDMの遅延とCmin >4 μg/mLの両方が肝障害の独立した予測因子であることが明らかになりました。
以上から、日本人においてはVRCZ投与開始から3~5日目に初回TDMを行うことが望ましく、必要に応じて追加のTDMも検討すべきであり、この知見は抗真菌薬の適正使用の実践に寄与すると考えられます。
研究グループは、日本人を対象に、TDMの実施時期別にVRCZの投与直前の血中濃度と副作用の発現を後ろ向きコホート研究で検討しました。対象は18歳以上で標準用量のVRCZを3日間以上経口または静注で投与された症例とし、TDMのタイミングによる血中濃度と安全性(主に肝機能障害と視覚障害)を比較しました。
その結果、TDMのタイミングが遅くなると血中濃度が上昇し、有効治療域を超える症例の割合が増加しました。特に投与開始3~5日目にTDMを実施していた群では、6日目以降に実施していた群と比べて肝機能障害の発現率が有意に低く、早期TDMが副作用の予防に有用であることが示されました。多変量解析でも、TDMの遅延とCmin >4 μg/mLの両方が肝障害の独立した予測因子であることが明らかになりました。
以上から、日本人においてはVRCZ投与開始から3~5日目に初回TDMを行うことが望ましく、必要に応じて追加のTDMも検討すべきであり、この知見は抗真菌薬の適正使用の実践に寄与すると考えられます。
発表雑誌
雑誌名
「Mycoses」(2023年8月16日)
論文タイトル
Optimal timing for therapeutic drug monitoring of voriconazole to prevent adverse effects in Japanese patients
著者
Yuki Hanai*, Takashi Ueda, Yukihiro Hamada, Kazutaka Oda, Yoshiko Takahashi, Kazuhiko Nakajima, Yoshitsugu Miyazaki, Mone Kiriyama, Shusuke Uekusa, Kazuhiro Matsuo, Kazuaki Matsumoto, Toshimi Kimura, and Yoshio Takesue
DOI番号
10.1111/myc.13639
論文URL
https://doi.org/10.1111/myc.13639
「Mycoses」(2023年8月16日)
論文タイトル
Optimal timing for therapeutic drug monitoring of voriconazole to prevent adverse effects in Japanese patients
著者
Yuki Hanai*, Takashi Ueda, Yukihiro Hamada, Kazutaka Oda, Yoshiko Takahashi, Kazuhiko Nakajima, Yoshitsugu Miyazaki, Mone Kiriyama, Shusuke Uekusa, Kazuhiro Matsuo, Kazuaki Matsumoto, Toshimi Kimura, and Yoshio Takesue
DOI番号
10.1111/myc.13639
論文URL
https://doi.org/10.1111/myc.13639
用語解説
(注1)ボリコナゾール(VRCZ)
広範囲に作用するトリアゾール系抗真菌薬で、アスペルギルス症やカンジダ症などに用いられます。用法用量は、体重や投与経路により異なりますが、経口投与では初日(導入期)に1日2回300 mg(体重40 kg未満では150 mg)を投与し、その後(維持期)は150~200 mgを1日2回(同100 mg)とするのが一般的です。ボリコナゾールは代謝酵素CYP2C19の活性の影響を強く受けるため、個人差が大きく、治療薬物モニタリング(TDM)が必須とされています。
(注2)治療薬物モニタリング(TDM)
薬を使っている患者さんの血液を採って、薬の濃度を測定し、その結果に応じて薬の量を調整する方法です。一定の範囲に薬の濃度を保つことで、薬が適切に効果を発揮し、かつ副作用を防ぐことができます。
(注3)CYP2C19(シップ・ツーシーナインティーン)
体内で薬を分解する酵素の一つで、肝臓で働いています。
(注4)遺伝子多型
同じ種の中で遺伝子の配列に個人差があることを指します。これらの違いは主に一塩基多型(SNP)という形で現れ、全ゲノム中の約1,000塩基に1つの割合で存在します。多くの多型は無害ですが、中には薬物の代謝酵素や受容体、輸送体などの遺伝子に影響を及ぼし、薬の効き方や副作用の出やすさに個人差を生じさせることがあります。
(注5)poor metabolizer
薬を体の中で分解する力が弱い体質の人のことを指します。これは主に遺伝子の違いによって起こります。
poor metabolizerは、通常の量の薬でも体内で分解が遅くなり、薬の濃度が高くなりやすいため、副作用が出やすくなります。ボリコナゾールのような薬では、poor metabolizerかどうかを把握しておくと、より安全な使い方ができます。
広範囲に作用するトリアゾール系抗真菌薬で、アスペルギルス症やカンジダ症などに用いられます。用法用量は、体重や投与経路により異なりますが、経口投与では初日(導入期)に1日2回300 mg(体重40 kg未満では150 mg)を投与し、その後(維持期)は150~200 mgを1日2回(同100 mg)とするのが一般的です。ボリコナゾールは代謝酵素CYP2C19の活性の影響を強く受けるため、個人差が大きく、治療薬物モニタリング(TDM)が必須とされています。
(注2)治療薬物モニタリング(TDM)
薬を使っている患者さんの血液を採って、薬の濃度を測定し、その結果に応じて薬の量を調整する方法です。一定の範囲に薬の濃度を保つことで、薬が適切に効果を発揮し、かつ副作用を防ぐことができます。
(注3)CYP2C19(シップ・ツーシーナインティーン)
体内で薬を分解する酵素の一つで、肝臓で働いています。
(注4)遺伝子多型
同じ種の中で遺伝子の配列に個人差があることを指します。これらの違いは主に一塩基多型(SNP)という形で現れ、全ゲノム中の約1,000塩基に1つの割合で存在します。多くの多型は無害ですが、中には薬物の代謝酵素や受容体、輸送体などの遺伝子に影響を及ぼし、薬の効き方や副作用の出やすさに個人差を生じさせることがあります。
(注5)poor metabolizer
薬を体の中で分解する力が弱い体質の人のことを指します。これは主に遺伝子の違いによって起こります。
poor metabolizerは、通常の量の薬でも体内で分解が遅くなり、薬の濃度が高くなりやすいため、副作用が出やすくなります。ボリコナゾールのような薬では、poor metabolizerかどうかを把握しておくと、より安全な使い方ができます。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部臨床薬学研究室
講師 花井 雄貴
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL&FAX: 047-472-5314
E-mail: yuki.hanai[@]phar.toho-u.ac.jp
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-5763-6583 FAX: 03-3768-0660
E-mail: press[@]toho-u.ac.jp
URL: www.toho-u.ac.jp
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