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プレスリリース 発行No.1456 令和7年2月28日

LC-MSによりダフナン型ジテルペノイドの構造異性体を区別
~ 植物における化合物同定の精度向上に向けて ~

 東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、中国の瀋陽薬科大学との国際共同研究により、高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)(注1)を用いた分析により、構造異性体の関係にあるダフナン型ジテルペノイド同士を正確に区別できる方法を発見しました。ダフナン型ジテルペノイドはジンチョウゲ科やトウダイグサ科植物に特徴的に含まれるジテルペノイドであり、抗がんや抗HIV、鎮痛作用を有することが報告されています。今後LC-MSを用いた分析が、植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドの迅速同定に活用されることが期待されます。

 この研究成果は、2024年12月19日に学術論文誌「Phytochemical Analysis」にて公開されました。

発表者名

大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
張 米(東邦大学薬学部生薬学教室 博士研究員)
譚 霊剣(東邦大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 博士課程3年)
小牧 正佳(東邦大学薬学部 2023年度卒)
島田 茜(東邦大学薬学部 2022年度卒)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
Di Zhou(瀋陽薬科大学中薬学院)
Ning Li(瀋陽薬科大学中薬学院)

発表のポイント

  • LC-MSを用いた分析により、分子式は同じだが異なる官能基を有する官能基異性体の関係にあるダフナン型ジテルペノイドを正確に区別できる方法を発見しました。
  • 薬用植物Daphne tanguticaの地上部の抽出物について成分分析を行ったところ、これまでに植物からの単離が報告されていない7種の化合物を含む計28種のダフナン型ジテルペノイドを同定しました。
  • 今後LC-MSを用いた分析が、植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドの迅速同定に活用されることが期待されます。

発表概要

 ダフナン型ジテルペノイドは5/7/6-炭素縮合三環系構造に加え、高度に酸化された官能基を持つ複雑な化学構造を有し、ジンチョウゲ科およびトウダイグサ科植物に特徴的に分布しています。ダフナン型ジテルペノイドにおいては、分子式は同じだが異なる官能基を有する官能基異性体が、当該植物中に複数存在しています。今回、研究グループは、LC-MSを用いた分析によりダフナン型ジテルペノイドの構造異性体を正確に区別する方法を発見しました。さらに、発見した方法を用いてジンチョウゲ科薬用植物Daphne tanguticaに含まれるダフナン型ジテルペノイドについて分析を行い、28種のダフナン型ジテルペノイドの化学構造を明らかにしました。

発表内容

 ダフナン型ジテルペノイドは、抗がん、抗HIV、鎮痛作用など多彩な生物活性を示すことから、天然物創薬において魅力的な化合物として注目されています。ダフナン型ジテルペノイドのうち、yuanhuajineとgniditrinのように分子式は同じだが異なる官能基を有する官能基異性体が、当該植物中に存在しています(図1)。これまでのLC-MSを用いたダフナン型ジテルペノイドの分析に関する研究では、これらの官能基異性体は明確には区別されていませんでした。本研究はLC-MS分析によるダフナン型ジテルペノイドの官能基異性体の区別について検討し、ジンチョウゲ科薬用植物Daphne tanguticaに含まれるダフナン型ジテルペノイドの解析を行いました。

 これまでの先行研究で植物より単離されたダフナン型ジテルペノイドをモデル化合物として、Q Exactive四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計に搭載されているCID(Collision Induced Dissociation;衝突誘起解離)とHCD(Higher energy Collisional Dissociation;高エネルギー衝突解離)の2種類の解離手法を用いて構造異性体が区別できる分析条件について検討を行いました。その結果、いずれの開裂手法においてもネガティブイオンモードの特定の電圧条件下で、yuanhuajineとgniditrinのような構造異性体を正確に区別できることが示されました。そこで、最適化した測定条件を用いてDaphne tanguticaの地上部の抽出物について成分分析を行ったところ、28種のダフナン型ジテルペノイドを同定しました。同定したダフナン型ジテルペノイドのうち、7種はこれまでに植物からの単離が報告されていない化合物でした。今回の研究により構造異性体の関係にあるダフナン型ジテルペノイドを正確に区別できる手法を確立し、植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドの化学構造を高い精度で同定することが可能となりました。今後LC-MSを用いた分析が、植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドの迅速同定に活用されることが期待されます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Phytochemical Analysis」(2024年12月19日)

    論文タイトル
    Isomer Differentiation by UHPLC-Q-Exactive-Orbitrap MS led to Enhanced Identification of Daphnane Diterpenoids in Daphne tangutica

    著者
    Kouharu Otsuki, Mi Zhang, Lingjian Tan, Masayoshi Komaki, Akane Shimada, Takashi Kikuchi,
    Di Zhou, Ning Li, Wei Li

    DOI番号
    10.1002/pca.3491

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1002/pca.3491

用語解説

(注1)高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)
液体中の成分を固定相と移動相の相互作用の差を利用し分離する装置である液体クロマトグラフ(LC)と分子等の化学物質をイオン化し、生成したイオンをその質量によって分離・測定する装置である質量分析計(MS)を接続した機器である。高感度かつ幅広い種類の化合物の分析に対応できるなどの利点から、近年植物成分の分析に広く活用されています。

添付資料

yuanhuajine(左)とgniditrin(右)の化学構造
図1.yuanhuajine(左)とgniditrin(右)の化学構造


以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
教授 李 巍

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TEL: 047-472-1161 FAX: 047-472-1404
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