プレスリリース 発行No.1455 令和7年2月27日
日本産ジンチョウゲ科植物オニシバリから抗HIV活性物質を発見
東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、東邦大学薬学部付属薬用植物園にて栽培したジンチョウゲ科ジンチョウゲ属植物のオニシバリ(鬼縛り、Daphne pseudomezereum)がヒト免疫不全ウイルス(HIV)の複製を阻害する物質を含むことを初めて発見しました。今後さらなる研究の遂行により、優れた抗HIV活性をもつ新規HIV感染症治療薬の創製に活用できる創薬シーズの発見が期待されます。
この研究成果は、2024年12月16日に学術論文誌「Phytochemistry」にて公開されました。
この研究成果は、2024年12月16日に学術論文誌「Phytochemistry」にて公開されました。
発表者名
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
細矢 千尋(東邦大学薬学部 2023年度卒)
髙宮 璃子(東邦大学薬学部6年)
木村 真悠(東邦大学薬学部6年)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
Li Huang(デューク大学メディカルセンター)
Chin-Ho Chen(デューク大学メディカルセンター)
細矢 千尋(東邦大学薬学部 2023年度卒)
髙宮 璃子(東邦大学薬学部6年)
木村 真悠(東邦大学薬学部6年)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
Li Huang(デューク大学メディカルセンター)
Chin-Ho Chen(デューク大学メディカルセンター)
発表のポイント
- ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属植物オニシバリにダフナン型ジテルペノイドが含まれることを発見し、それらが強い抗HIV活性を有することを明らかにしました。
- オニシバリに抗HIV活性ジテルペノイドが含まれることを初めて報告しました。
- 今後植物に含まれる生物活性ジテルペノイドの更なる探索により、新しいHIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。
発表概要
ジンチョウゲ科植物は53属800種以上が寒帯や砂漠を除く全世界に広く分布しており、抗がんや抗HIV、鎮痛作用などの優れた生物活性を有するジテルペノイド(注1)が特徴的に含まれています。オニシバリ(鬼縛り、Daphne pseudomezereum)は別名ナツボウズ(夏坊主)とも呼ばれ、日本、中国(吉林省、遼寧省)および韓国に分布するジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の落葉低木です。樹皮は消腫の目的で慢性皮膚病やリウマチなどに薬用されるほか、繊維に富むため、和紙の製造補助剤としても使用されていました。今回、東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、米国のデューク大学メディカルセンターとの国際共同研究により、オニシバリの果実から新規化合物3種を含む計10種のダフナン型ジテルペノイドを単離精製し、それらの抗HIV活性を明らかにしました。今回得られた研究成果により、ジンチョウゲ科植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドと抗HIV活性の構造活性相関に関する知見が深まり、新しいHIV感染症治療薬の創薬につながることが期待されます。
発表内容
ジンチョウゲ科植物は日本ではジンチョウゲ(Daphne)属、ガンピ(Diplomorpha)属、アオガンピ(Wikstroemia)属、ミツマタ(Edgeworthia)属の約4属15種の自生が確認されています。多くは低木で、鑑賞用や薬用の他、強力な繊維を含む樹皮は製紙の原料に用いられてきました。ジンチョウゲ科植物に特徴的に含まれるダフナン型ジテルペノイドは5/7/6-炭素縮合三環系構造に加え、高度に酸化された官能基を持つ複雑な化学構造を有しています。また、抗がん、抗HIV、鎮痛作用など多彩な生物活性を示すことから、天然物創薬において魅力的な化合物として注目されています。本研究はジンチョウゲ科植物由来の生物活性ジテルペノイドの探索研究の一環として、日本に自生するオニシバリに着目してその果実について成分研究を行いました。
オニシバリ(鬼縛り、Daphne pseudomezereum)は、日本では特に本州(福島県以西)、四国、九州中部以北に自生しています。3~4月を花期とし、5~7月に実る赤い果実の誤食によって下痢・嘔吐などの症状が現れることが知られています。樹皮は繊維に富むため、和紙の製造補助剤として使用されていました。これまでに葉のみが成分研究されており、クマリン、フラボノイド、リグナン及びそれらの配糖体についての単離が報告されていますが、本植物に含まれる抗HIV活性ジテルペノイドに着目した研究は初めてのものとなります。
本研究では東邦大学薬学部付属薬用植物園にて採取したオニシバリの果実を使用し、乾燥した果実についてメタノールを用いて成分を抽出しました。得られたメタノール抽出物を水と酢酸エチルにて分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分をさらにオクタデシルシリル(ODS)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた単離精製により、3種の新規化合物(図1)を含む計10種のダフナン型ジテルペノイドを単離しました。単離した化合物は高分解能質量分析および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの解析により化学構造を決定しました。さらに、単離した化合物はHIV-1 NL4-3株を感染させたヒトTリンパ球系細胞株のMT4細胞にて、抗HIV複製活性を評価しました。その結果、4種の化合物が強い抗HIV活性を示し、ダフナン骨格の12位水酸基にシンナミリデンアセチル基が結合することが、強力な抗HIV活性の発現に必要であることが示されました。HIV感染症は発見から30年以上経った今でも依然として世界における公衆衛生上の大きな問題となっています。既存の抗HIV薬による多剤併用療法(ART)では潜伏期のHIVを体内から完全に駆除出来ないため、生涯にわたって抗ウイルス薬の継続服用が必要となります。そのため、HIV感染症の根治を目指した新規抗HIV薬の創製は急務とされています。今回の研究で得られた知見をさらに発展させることで、新しい天然資源由来創薬シーズの発見を通じて、新規HIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。
オニシバリ(鬼縛り、Daphne pseudomezereum)は、日本では特に本州(福島県以西)、四国、九州中部以北に自生しています。3~4月を花期とし、5~7月に実る赤い果実の誤食によって下痢・嘔吐などの症状が現れることが知られています。樹皮は繊維に富むため、和紙の製造補助剤として使用されていました。これまでに葉のみが成分研究されており、クマリン、フラボノイド、リグナン及びそれらの配糖体についての単離が報告されていますが、本植物に含まれる抗HIV活性ジテルペノイドに着目した研究は初めてのものとなります。
本研究では東邦大学薬学部付属薬用植物園にて採取したオニシバリの果実を使用し、乾燥した果実についてメタノールを用いて成分を抽出しました。得られたメタノール抽出物を水と酢酸エチルにて分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分をさらにオクタデシルシリル(ODS)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相および順相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた単離精製により、3種の新規化合物(図1)を含む計10種のダフナン型ジテルペノイドを単離しました。単離した化合物は高分解能質量分析および核磁気共鳴(NMR)スペクトルの解析により化学構造を決定しました。さらに、単離した化合物はHIV-1 NL4-3株を感染させたヒトTリンパ球系細胞株のMT4細胞にて、抗HIV複製活性を評価しました。その結果、4種の化合物が強い抗HIV活性を示し、ダフナン骨格の12位水酸基にシンナミリデンアセチル基が結合することが、強力な抗HIV活性の発現に必要であることが示されました。HIV感染症は発見から30年以上経った今でも依然として世界における公衆衛生上の大きな問題となっています。既存の抗HIV薬による多剤併用療法(ART)では潜伏期のHIVを体内から完全に駆除出来ないため、生涯にわたって抗ウイルス薬の継続服用が必要となります。そのため、HIV感染症の根治を目指した新規抗HIV薬の創製は急務とされています。今回の研究で得られた知見をさらに発展させることで、新しい天然資源由来創薬シーズの発見を通じて、新規HIV感染症治療薬の創製に貢献できることが期待されます。
発表雑誌
-
雑誌名
「Phytochemistry」(2024年12月16日)
論文タイトル
Anti-HIV diterpenoids from Daphne pseudomezereum
著者
Kouharu Otsuki, Chihiro Hosoya, Riko Takamiya, Mayu Kimura, Takashi Kikuchi, Li Huang,
Chin-Ho Chen, Wei Li
DOI番号
10.1016/j.phytochem.2024.114366
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1016/j.phytochem.2024.114366
用語解説
(注1)ジテルペノイド
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。
添付資料

図1.オニシバリとオニシバリ果実より単離した新規ダフナン型ジテルペノイド
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
教授 李 巍
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1161 FAX: 047-472-1404
E-mail: liwei[@]phar.toho-u.ac.jp
URL:www.lab.toho-u.ac.jp/phar/npcnm/
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