プレスリリース 発行No.1426 令和6年11月22日
ジンチョウゲ科薬用植物Daphne ponticaに含まれる
ダフナン型ジテルペノイドを解明
ダフナン型ジテルペノイドを解明
東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、トルコのアンカラ大学薬学部およびアンカラメディポール大学薬学部との国際共同研究により、ジンチョウゲ科薬用植物Daphne ponticaに多様な化学構造を有するダフナン型ジテルペノイドが含まれることを明らかにしました。ダフナン型ジテルペノイドは抗がんや抗HIV、鎮痛作用を有することが報告されており、今後Daphne ponticaが新たな創薬植物資源となることが期待されます。
この研究成果は、2024年11月7日に学術論文誌「Phytochemical Analysis」にて公開されました。
この研究成果は、2024年11月7日に学術論文誌「Phytochemical Analysis」にて公開されました。
発表者名
大月 興春(東邦大学薬学部生薬学教室 助教)
張 米(東邦大学薬学部生薬学教室 博士研究員)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
Alev Onder(アンカラ大学薬学部)
Eda Avci(アンカラメディポール大学薬学部)
張 米(東邦大学薬学部生薬学教室 博士研究員)
菊地 崇(東邦大学薬学部生薬学教室 准教授)
李 巍(東邦大学薬学部生薬学教室 教授)
Alev Onder(アンカラ大学薬学部)
Eda Avci(アンカラメディポール大学薬学部)
発表のポイント
- 高速液体クロマトグラフ -質量分析計を用いた分析により、ジンチョウゲ科薬用植物Daphne ponticaに多様な化学構造を有するダフナン型ジテルペノイドが含まれることを明らかにしました。
- Daphne ponticaより検出したダフナン型ジテルペノイドには、これまでに植物からの単離が報告されていない化合物も含まれていました。また、茎、葉および果実の各部位に含まれるジテルペノイド成分について比較を行ない、茎に最も豊富に含まれていることを明らかにしました。
- 今後、ダフナン型ジテルペノイドの生物活性のさらなる解明により、Daphne ponticaが新たな創薬植物資源となることが期待されます。
発表概要
ジンチョウゲ科植物は約50属800種以上が寒帯を除く全世界に広く分布しており、抗がんや抗HIV、鎮痛作用などの優れた生物活性を有するジテルペノイド(注1)が特徴的に含まれています。Daphne ponticaは主にトルコ北部、ブルガリア南東部、イラン北部、コーカサス地方に自生するジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木です。トルコやイランにおいては下痢止めや痛み止めとして薬用されてきました。今回、東邦大学薬学部生薬学教室の大月興春助教、李巍教授らの研究グループは、Daphne ponticaの茎、葉および果実について分析を行い、3つの部位より計33種のダフナン型ジテルペノイドが含まれることを明らかにしました。本植物に含まれるダフナン型ジテルペノイドが網羅的に明らかにされたのは今回が初めてであり、これまでに植物からの単離が報告されていない化合物も含まれることも発見しました。
発表内容
ダフナン型ジテルペノイドは5/7/6-炭素縮合三環系構造に加え、高度に酸化された官能基を持つ複雑な化学構造を有し、ジンチョウゲ科およびトウダイグサ科植物に特徴的に分布しています。また、抗がん、抗HIV、鎮痛作用など多彩な生物活性を示すことから、天然物創薬において魅力的なターゲットとして注目されています。Daphne ponticaはジンチョウゲ科ジンチョウゲ属に分類される高さ0.4~1メートル程度の常緑低木です。火山岩や石灰岩の斜面に生育し、やや芳香のある黄色の花を咲かせ、ブラックベリーに似た形の果実をつけます。主にトルコ北部、ブルガリア南東部、イラン北部、コーカサス地方に自生し、トルコの伝統医療においては下痢止めとして薬用されてきました。また、イランの民間薬としても、葉の煎じ液が腰痛や腹痛、下痢、腎臓の感染症の治療に用いられてきました。これまでの成分研究では、フェノール、フラボノイド、クマリン、リグナン、ステロイド、ジテルペノイド、トリテルペノイドの単離が報告されています。本研究はジンチョウゲ科植物由来の生物活性ジテルペノイドの探索研究の一環として、高速液体クロマトグラフ -質量分析計(注2)を用いてDaphne ponticaの茎、葉および果実に含まれるジテルペノイド成分の解析を行いました。
本研究はDaphne ponticaの茎、葉および果実を植物材料として、乾燥した各部位をそれぞれジエチルエーテルで抽出しました。得られた各部位のジエチルエーテル抽出物は水と酢酸エチルで分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分はさらにSep-Pak C18固相抽出カートリッジで前処理後、Q Exactive四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計を用いて分析しました。検出したピークについて、精密質量による組成式推定およびMS/MSフラグメンテーションの解析による構造推定を行い、3つの部位より計33種のダフナン型ジテルペノイドを同定しました。同定したダフナン型ジテルペノイドのうち、6種はこれまでに植物からの単離が報告されていない化合物でした。また、茎からは同定した33種全てが、葉からは29種、果実からは14種のダフナン型ジテルペノイドが検出されました。さらに、茎の主要成分はwikstroelide Aとsimplexinであり、葉ではwikstroelide A、果実ではhuratoxinが主要成分であることがわかりました(図1)。
今回の研究により、高速液体クロマトグラフ -質量分析計を用いた植物の分析が、ダフナン型ジテルペノイドの迅速な同定に有用であることが示されました。今後ダフナン型ジテルペノイドの生物活性のさらなる解明により、Daphne ponticaが新たな創薬植物資源となることが期待されます。
本研究はDaphne ponticaの茎、葉および果実を植物材料として、乾燥した各部位をそれぞれジエチルエーテルで抽出しました。得られた各部位のジエチルエーテル抽出物は水と酢酸エチルで分配操作を行い、酢酸エチル可溶画分はさらにSep-Pak C18固相抽出カートリッジで前処理後、Q Exactive四重極-Orbitrapハイブリッド質量分析計を用いて分析しました。検出したピークについて、精密質量による組成式推定およびMS/MSフラグメンテーションの解析による構造推定を行い、3つの部位より計33種のダフナン型ジテルペノイドを同定しました。同定したダフナン型ジテルペノイドのうち、6種はこれまでに植物からの単離が報告されていない化合物でした。また、茎からは同定した33種全てが、葉からは29種、果実からは14種のダフナン型ジテルペノイドが検出されました。さらに、茎の主要成分はwikstroelide Aとsimplexinであり、葉ではwikstroelide A、果実ではhuratoxinが主要成分であることがわかりました(図1)。
今回の研究により、高速液体クロマトグラフ -質量分析計を用いた植物の分析が、ダフナン型ジテルペノイドの迅速な同定に有用であることが示されました。今後ダフナン型ジテルペノイドの生物活性のさらなる解明により、Daphne ponticaが新たな創薬植物資源となることが期待されます。
発表雑誌
-
雑誌名
「Phytochemical Analysis」(2024年11月7日)
論文タイトル
Qualitative Analysis of Daphnane Diterpenoids in Various Parts of Daphne pontica L. by UHPLC-Q-Exactive-Orbitrap MS
著者
Alev Onder, Kouharu Otsuki, Mi Zhang, Eda Avci, Takashi Kikuchi, Wei Li
DOI番号
10.1002/pca.3469
アブストラクトURL
https://doi.org/10.1002/pca.3469
用語解説
(注1)ジテルペノイド
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。
(注2)高速液体クロマトグラフ -質量分析計(LC-MS)
液体中の成分を固定相と移動相の相互作用の差を利用し分離する装置である液体クロマトグラフ(LC)と分子等の化学物質をイオン化し、生成したイオンをその質量によって分離・測定する装置である質量分析計(MS)を接続した機器である。高感度かつ幅広い種類の化合物の分析に対応できるなどの利点から、近年植物成分の分析に広く活用されている。
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される炭素数20(4つのイソプレン単位)のイソプレノイドである。ジテルペン(diterpene)は正式には炭化水素と定義されているため、ヘテロ原子を含む官能基を有するジテルペンをジテルペノイド(diterpenoid)と称する。
(注2)高速液体クロマトグラフ -質量分析計(LC-MS)
液体中の成分を固定相と移動相の相互作用の差を利用し分離する装置である液体クロマトグラフ(LC)と分子等の化学物質をイオン化し、生成したイオンをその質量によって分離・測定する装置である質量分析計(MS)を接続した機器である。高感度かつ幅広い種類の化合物の分析に対応できるなどの利点から、近年植物成分の分析に広く活用されている。
添付資料
図1.Daphne ponticaとその主要ダフナン型ジテルペノイド成分
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
教授 李 巍
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1161 FAX: 047-472-1404
E-mail: liwei[@]phar.toho-u.ac.jp
URL:www.lab.toho-u.ac.jp/phar/npcnm/
【本ニュースリリースの発信元】
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