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プレスリリース 発行No.1309 令和5年9月15日

難病患者の災害への備えの対策が急務である
~ 筋萎縮性側索硬化症患者へのアンケート調査より ~

 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野の平山剛久講師と狩野修教授らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者会においてアンケート調査を行い、ALS患者の災害の備えの現状について報告しました。
 これまでにALS患者の災害対策についての報告はなく、これにより今後人工呼吸器などを使用している難病患者の災害対策について議論が加速することが期待されます。

 この研究成果は2023年8月31日に雑誌「Journal of Clinical Neuroscience」のオンライン版にて発表されました。

発表者名

平山 剛久(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 講師)
渋川 茉莉(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 助教(任期))
森岡 治美(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 助教)
穗積 正迪(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 院内助教)
津田 浩史(東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 客員教授)
熱田 直樹(愛知医科大学医学部内科学講座神経内科 准教授)
和泉 唯信(徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床神経科学分野 教授)
中山 優季(東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センター 難病ケア看護ユニット ユニットリーダー)
清水 俊夫(東京都立神経病院 副院長)
井上 治久(京都大学iPS細胞研究所 教授)
漆谷 真 (滋賀医科大学医学部内科学講座脳神経内科 教授)
山中 宏二(名古屋大学環境医学研究所病態神経科学分野 教授)
青木 正志(東北大学大学院医学研究科神経・感覚器病態学講座神経内科学分野 教授)
海老原 覚(東北大学大学院医学研究科内部障害学分野 教授)
武田 篤 (仙台西多賀病院脳神経内科 院長)
狩野 修 (東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 教授)

発表のポイント

  • 難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)(注1)患者における災害時の停電、移動、連絡手段などの災害への備えが不十分であることが明らかとなり、それらの課題点などを指摘・考察して、災害対策の前進に貢献する。
  • これまでにALS患者の災害対策に焦点を当てた論文はなく、ALS患者への介護環境 調整に新たな視点を加えた。

発表概要

 ALSは、現在の医学では根本的な治療法がない運動ニューロンの難病です。歩行能力が低下し、侵襲的または非侵襲的人工呼吸器が必要になる場合があります。したがって、災害により交通手段が失われたり停電したりすると、ALS患者は深刻な問題に直面することになります。進行したALS患者は生命を維持するために電気機器が必要であり、避難所への搬送が困難で、災害への備えは特に重要な課題です。しかし、これまでALS患者の災害への備えを調査した報告はほとんどありませんでした。今回、研究グループがALSの患者会(ALS Café)(注2)においてアンケート調査を行い、ALS患者及び家族の災害に対する備えについて調査をしたところ、様々な課題が見えてきました。本研究によりALS患者に対する災害への備えに関するさらなる議論を引き起こし、災害対策を前進させる可能性があると考えられます。

発表内容

 近年、日本では、1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越沖地震、2016年の熊本地震など、大きな地震が相次いで発生しており、特に2011年の東日本大震災は多くの人の記憶に深く刻まれています。これらの災害では在宅呼吸器ケアの支援を受けている多くの ALS 患者が影響を受けたとされています。電力供給の障害は、これらの患者に深刻な合併症を引き起こします。東日本大震災後、人工呼吸器を使用しているALS患者の防災意識が高まったという報告もありますが、ALS 患者の災害への備えを調査した報告はほとんどありません。
 本研究では、日本における ALS 患者とその介護者の災害への備えを調査しました。それによると、回答者の70%以上が「災害への備えができていない」と回答しました。携帯電話が故障した際、回答者の86% は代替通信手段を利用する予定がありませんでした。搬送のための人員を確保している人は人工呼吸器使用者も含めて30%未満で、回答者の25%は食料や飲料を備蓄しておらず、人工呼吸器使用者の12%は地方自治体が推奨するバッグバルブマスク(注3)や外部バッテリーなどの人工呼吸器準備機器を持っていませんでした。また、仮にそれらを持っていたとしても、75%の人はバッグバルブマスクの使い方を知らず、約40%の人は外部バッテリーの充電が不十分でした。停電時は人工呼吸器を使用している患者の約70%の方が24時間以内に電源を喪失し、困難に陥る可能性がありました。一方、東日本大震災以降、自治体や学会も災害に対する備えを進め、2016年の熊本地震の際などに対応しています。
 本研究は、特に人工呼吸器を使用していないALS 患者とその家族の防災意識が弱く、人工呼吸器を装着しているALS患者とその家族も災害に対する備えが不十分であることを示しました。これらの取り組みには自治体や学会の支援が不可欠であり、現在進められている学会などの災害対策活動を活用して、防災意識の更なる向上を図るべきであると考えられました。

発表雑誌

    雑誌名
    「Journal of Clinical Neuroscience」(2023年8月31日)

    論文タイトル
    The necessity to improve disaster preparedness among patients with amyotrophic lateral sclerosis and their families

    著者
    Takehisa Hirayama, Mari Shibukawa, Harumi Morioka, Masamichi Hozumi, Hiroshi Tsuda,
    Naoki Atsuta, Yuishin Izumi, Yuki Nakayama, Toshio Shimizu, Haruhisa Inoue, Makoto Urushitani, Koji Yamanaka, Masashi Aoki, Satoru Ebihara, Atsushi Takeda, Osamu Kano

    DOI番号
    10.1016/j.jocn.2023.08.002.

    アブストラクトURL
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37659173/

用語解説

(注1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALS は発症機序が解明されていない原因不明の神経難病であり、主な症状として手足の筋力低下や構音障害、嚥下障害、呼吸機能障害などが出現します。予後は 3~5 年と非常に短く、症状の進行に伴い経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)、リハビリテーション、栄養管理、在宅医療サービス、生活環境の調整など様々な医療介入を必要とします。

(注2)ALS Café
ALS Caféは、2017年より東邦大学医療センター大森病院 脳神経内科において年に1回程度開催しているALSの患者会で、ALS患者や家族、介護をされている方、またALSに関する様々な情報を共有するとともに、毎年ALS診療の最先端の現状について医師から説明を行ったり、患者自身の体験や経験をプレゼンテーションすることで、交流を図っています。

(注3)バッグバルブマスク
呼吸をしていない、または呼吸が不十分な患者に陽圧換気を行うために一般的に用いられる手持ち式の装置。
手動蘇生器(manual resuscitator) や自己膨張式バッグ(self-inflating bag) という一般的な名称でも知られています。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
講師 平山 剛久

〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151 FAX: 03-3768-2566
E-mail: neurology-oomori[@]ml.toho-u.jp
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/neurology/

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