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プレスリリース 発行No.1229 令和4年9月2日

組織染色用蛍光消光装置TiYOの開発
~ 自家蛍光の消光や複数回の蛍光染色を実現 ~

 東邦大学医学部解剖学講座の恒岡洋右准教授、船戸弘正教授、ネッパジーン株式会社の渥美優介研究員らの研究グループは、組織標本上での蛍光を消光するLED式蛍光消光装置TiYO™を開発しました。

 この装置は組織においてノイズとなる自家蛍光を短時間で効率的に消光することが可能であり、ノイズを大幅に低減させることが出来ます。さらに蛍光色素で染色した組織を脱色することも可能であるため、1枚のスライドガラスを複数回染め直すことで、これまでよりも多くの情報を組織切片から得ることが可能となります。
この装置により、今後組織学におけるイメージング技術の発展はもとより、臨床現場における貴重な検体での検出などにも応用されることが期待されます。

 この成果は2022年9月2日にFrontiers in Molecular Neuroscience誌にて発表されました。

発表者名

恒岡 洋右(東邦大学医学部 解剖学講座微細形態学分野 准教授)
渥美 優介(ネッパジーン株式会社 商品開発研究センター 研究員)
蒔苗 亜紀(ネッパジーン株式会社 商品開発研究センター センター長)
屋代 充(ネッパジーン株式会社 商品開発研究センター 研究員)
船戸 弘正(東邦大学医学部 解剖学講座微細形態学分野 教授)

発表のポイント

  • 組織標本でノイズとなる自家蛍光を消光することが可能な蛍光消光装置を開発
  • 気化熱冷却システムを装備することで高出力LEDによる高効率な消光の実現と、強い光照射による組織へのダメージを最小限に抑えることに成功
  • 一度染色した標本の蛍光シグナルを消光することが可能なため、1枚のスライドガラスからの複数回の生体物質の検出を実現

発表概要

 組織における様々な生体物質は蛍光色素で検出することが可能であり、生命現象を理解する上で必要不可欠な手法です。しかし、生体内には蛍光を発するノイズとなる物質があり、人工的に標識された蛍光とノイズを区別できないという問題がありました。近年の検出技術の進歩により蛍光検出の高感度・高解像度化が進む一方で、ノイズとなる自家蛍光への対応はほとんど進歩しておらず、新たな消光技術が待ち望まれていました。

 研究グループは、これまで主に用いられてきた試薬ベースの消光技術とは全く異なるアプローチである「光照射による消光技術」の研究開発を進め、短時間での実用的な自家蛍光の消光に成功しました。蛍光染色を行う前にこの装置を用いることで、標識した蛍光シグナルを落とすことなく組織由来の自家蛍光ノイズだけを消すことが可能になります。また、蛍光染色作業後にこの装置を用いることで、一度染色した蛍光を消して染色前の状態に戻すこともできるため、同じ組織サンプルを複数回蛍光染色することが可能になりました。

発表内容

 蛍光色素を用いて組織における様々な遺伝子の発現やタンパク質量をモニターすることは生命現象を理解するために必須のアプローチであり、日々進歩しています。例えば、研究グループが以前開発したISH-HCR法では、動物やヒト組織中に含まれるmRNAを蛍光色素を用いて可視化し、1分子レベルの感度で定量することを可能にしました (Tsuneoka and Funato, 2020)。このような生体物質の組織における検出においては、シグナルを強くする「高感度化」も重要ですが、ノイズを減らす「低ノイズ化」も同様に重要です。組織の観察におけるノイズは様々な要因で生じます。そのうちの一つが自家蛍光を発する物質であり、老化などによって細胞内に蓄積されるリポフスチン顆粒や、エラスチン線維、ビタミンAなどが蛍光を発することが知られています。このような物質から生じる自家蛍光は、染色によって人為的に標識された蛍光と区別をつけることが難しいため(図1)、研究者を悩ませてきました。

 これまでの自家蛍光への対処法としては、主に試薬による消光というアプローチが用いられてきました。しかしながら自家蛍光を消光する試薬のほとんどは、本来検出したい蛍光色素由来の蛍光シグナルまでも減弱させてしまったり、特定の蛍光波長でノイズを増やしてしまうなどの欠点がありました(図2)。試薬を用いないアプローチの一つとして、強力な光照射による消光も試みられてきました。しかし、これまでの報告ではスライドガラス1枚を全て消光するまでに数時間から数日を必要とする、光による熱発生で組織が変性してしまうなどの欠点があり、実用化には多くの障壁がありました。研究グループは照射する光の波長、光源の種類、光の当て方を最適化することで消光までに必要な時間を短縮することを試みました。数回の試作を経て、高効率LEDを用いることで短時間での消光を実現する光条件の最適化に成功したものの、消光効率を上げるために光照射量を増やすことで生じる熱の量は非常に多く、無視できない量になりました。実際、氷やペルチェ素子などを用いた通常の冷却手段では冷却が間に合わず、組織が変性してしまうことが問題として残りました。その問題を解決するために採用したのが、水分が蒸発する際に周囲から熱を奪う気化熱を用いた冷却システムです。この冷却システムを装置に組み込むことで組織標本の温度上昇はほぼ完全に抑制できることがわかり、蛍光消光装置TiYO™が完成しました(特許出願済み)。

 マウス脳切片ではリポフスチン顆粒と呼ばれる自家蛍光物質が頻繁に観察されますが、TiYO™を用いてマウス脳切片を消光したところ約60分でほとんどの自家蛍光が見えなくなりました。これまで用いられてきたような試薬を用いた消光技術では、蛍光色素の種類によっては自家蛍光だけでなく本来検出したいシグナルも減弱することがありましたが、TiYO™を用いて消光処理を行った蛍光染色ではシグナル強度は保持されていました(図2)。これまでのところ、TiYO™による消光処理によって組織切片の変性や染色シグナルの低下などは確認されていないことから、TiYO™は既存の様々な蛍光染色に適用可能であることが示唆されます。

 さらに研究グループは一度蛍光染色を行った組織切片に対してTiYO™による消光処理を行うことで、緑色から近赤外の波長を持つ蛍光色素であれば消光が出来ることも明らかにしました。つまり、TiYO™による消光処理によって、組織切片上の蛍光シグナルを染色前の状態に戻すことが出来るということになります。この性質を利用して、研究グループは複数回のin situ hybridization法と免疫染色法(注1)を行うことで同一の組織切片から9種類の分子を検出できることも示しました(図3)。
これらの性質により、TiYO™による消光処理はよりコントラストの高いイメージングの実現と、臨床現場で得られた貴重な検体からこれまで以上に多くの情報を抽出できるようになることも期待されます。TiYO™は現在ネッパジーン株式会社において事業化が進められており、来年度販売予定です。

発表雑誌

    雑誌名
    「Frontiers in Molecular Neuroscience」(2022年9月2日)

    論文タイトル
    Fluorescence quenching by high-power LEDs for highly sensitive fluorescence in situ hybridization.

    著者
    Yousuke Tsuneoka*, Yusuke Atsumi, Aki Makanae, Mitsuru Yashiro, Hiromasa Funato*
    (* 責任著者)

    DOI番号
    10.3389/fnmol.2022.976349

    アブストラクトURL
    https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnmol.2022.976349/abstract

用語解説

(注1)in situ hybridization法と免疫染色法
それぞれ、組織切片中のmRNAとタンパク質を検出するための手法。

添付資料

図1. マウス脳組織切片上での自家蛍光の例とTiYO™による消光処理
全ての画像は撮影およびコントラスト調整を同一の条件で行った。
図2. 消光処理の染色結果への影響
A社の消光処理剤では自家蛍光は消えるものの、色素のシグナルも減弱してしまう。
図3. TiYO™を用いた複数回蛍光染色のフロー
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学医学部解剖学講座微細形態学分野
准教授 恒岡 洋右
教授  船戸 弘正

〒143-8540 東京都大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151  FAX: 03-5493-5437
E-mail: yousuke.tsuneoka[@]med.toho-u.ac.jp(恒岡)
E-mail: hiromasa.funato[@]med.toho-u.ac.jp  (船戸)
URL:https://www.toho-funatolab.jp/

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