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プレスリリース 発行No.1223 令和4年8月16日

エイコサペンタエン酸(EPA)が循環器系疾患を予防するメカニズムの一端を解明
-EPAが冠動脈・脳動脈のプロスタノイドTP受容体を介した収縮を抑制する-

 東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、魚油に含有されるエイコサペンタエン酸(EPA)が冠動脈・脳動脈のプロスタノイドTP受容体(注1)を介した収縮反応を即時的かつ強力に抑制することを見出しました。冠動脈や脳動脈のTP受容体の活性化は、狭心症や脳血管れん縮(注2)などの循環器系疾患に関与することが知られていることから、EPAの摂取がTP受容体抑制作用を介して循環器系疾患に対する予防効果を発揮する可能性があります。この研究成果は2022年7月27日に雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

発表者名

吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 助教)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • EPAは、魚油に含有されるn-3系多価不飽和脂肪酸で、循環器系疾患による死亡リスクを低下させることが知られています。しかしながら、死亡リスクに直結する冠動脈や脳動脈の収縮機能に対するEPAの即時的な効果は不明なままでした。
  • 本研究では、EPAがブタ冠動脈および脳底動脈のプロスタノイドTP受容体を介した収縮反応を選択的かつ強力に抑制することを見出し、ヒト細胞においてもEPAがTP受容体を介した細胞応答を選択的に抑制することが再現されました。
  • 冠動脈や脳動脈のTP受容体の活性化は、狭心症や脳血管れん縮などの循環器系疾患の発症に関与する可能性が指摘されています。本研究結果は、EPAがTP受容体を即時的かつ選択的に抑制することで、TP受容体刺激を契機として発生する循環器系疾患を予防できる可能性を示しています。

発表概要

 エイコサペンタエン酸(EPA)は、魚油に豊富に含有されるn-3多価不飽和脂肪酸であり、ドコサヘキサエン酸(DHA)とともに健康食品やサプリメントの成分としても比較的認知度の高いものです。また、EPAのエチルエステル体は医薬品としても承認されており、閉塞性動脈硬化症や脂質異常症を改善することが明らかになっています。さらに、EPAなどのn-3多価不飽和脂肪酸の長期摂取は、狭心症、脳血管れん縮、高血圧症等の循環器系疾患に対して予防効果を示し、死亡リスクを低下させることが多くの臨床研究から示されています。循環器系疾患に対するEPAの予防効果はEPAの長期摂取によりもたらされる抗炎症作用によりもたらされると一般に考えられており、循環器系組織に対する即時的な効果に関する検討はほとんど行われていませんでした。そこで、東邦大学薬学部薬理学教室の吉岡健人助教、小原圭将講師、田中芳夫教授らの研究グループは狭心症や脳血管れん縮などの循環器系疾患の好発部位であり、異常収縮の発生が死亡リスクに直結する冠動脈および脳底動脈の収縮機能に対するEPAの即時的な効果を検討しました。その結果、EPAがプロスタノイドTP受容体を介した冠動脈および脳底動脈の収縮反応を選択的かつ強力に抑制することを見出し、EPAの血管収縮抑制作用には、TP受容体に対する抑制作用が関与することを明らかにしました。冠動脈や脳動脈のTP受容体の活性化は狭心症や脳血管れん縮の発症に関与することが臨床研究から示唆されており、今回の研究結果は、EPAの摂取がTP受容体を即時的かつ選択的に抑制することで、TP受容体刺激を契機として発生する循環器系疾患に対して予防効果を発揮する可能性を示すものです。

発表内容

 研究グループは、マグヌス法(注3)を用いて、ブタの心臓および脳から単離した冠動脈・脳底動脈の収縮反応に対するEPAの抑制効果を検討しました。EPAは、冠動脈・脳底動脈において、U46619(プロスタノイドの一つであるトロンボキサンA2の合成類似体)及びプロスタグランジン(PG)Fにより誘発される収縮反応を濃度依存的に抑制することを見出しました。一方、EPAは脱分極性刺激(注4)による冠動脈・脳底動脈の収縮反応やアセチルコリン、ヒスタミン、セロトニンによる冠動脈の収縮反応に対してはほとんど抑制効果を示しませんでした。また、冠動脈・脳底動脈のU46619とPGFによる収縮反応は選択的TP受容体拮抗薬であるSQ 29,548によって大部分が抑制されました。従って、EPAはTP受容体を介した冠動脈・脳底動脈の収縮反応を選択的に抑制する可能性が示されました。ブタ冠動脈・脳底動脈で明らかになった、EPAによるTP受容体を介した収縮反応に対する抑制作用がヒトTP受容体でも発揮される可能性を検討するため、遺伝子組み換え技術により作製したヒトTP受容体強制発現細胞を用いて、EPAの抑制効果を細胞内Ca2+の濃度変化を指標として検討しました。その結果、ヒトのTP受容体強制発現細胞においても、U46619及びPGFによって引き起こされる細胞内Ca2+濃度の上昇をEPAが強力に抑制することを明らかにしました。一方、ヒトのプロスタノイドFP受容体(注5)を強制発現させた細胞では、EPAはPGFによって引き起こされる細胞内Ca2+濃度の上昇をほとんど抑制しませんでした。以上の結果から、EPAの血管収縮抑制作用の標的はTP受容体であることが示されました。したがって、本研究結果は、EPAがトロンボキサンA2やPGFにより生じる冠動脈や脳動脈の異常収縮を抑制することで、狭心症や脳血管れん縮などの循環器系疾患を予防する可能性を示すものです。

発表雑誌

    雑誌名
    「Scientific Reports」(2022年7月27日)
    12巻、12829

    論文タイトル
    Eicosapentaenoic acid (EPA)-induced inhibitory effects on porcine coronary and cerebral arteries involve inhibition of prostanoid TP receptors

    著者
    Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Shunya Oikawa, Kohei Uemura, Akina Yamaguchi, Kazuki Fujisawa, Hitomi Hanazawa,Miki Fujiwara, Taison Endoh, Taichi Suzuki, Montserrat De Dios Regadera,Daichi Ito, Noboru Saitoh, Yutaka Nakagome, Toma Yamashita,Mayu Kiguchi, Yuka Saito, Yuri Nakao, Hinako Miyaji, Guanghan Ou,Keyue Xu, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1038/s41598-022-16917-6

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1038/s41598-022-16917-6

用語解説

(注1)プロスタノイドTP受容体
プロスタノイドのうち、トロンボキサンA2に対して高い親和性を示す受容体。プロスタノイドと結合することで細胞に様々な変化をもたらす。

(注2)脳血管れん縮
様々な刺激により一過性に脳血管が異常収縮をおこし、脳組織の血流が低下すること。最悪の場合は脳梗塞を引き起こす。

(注3)マグヌス法
生体と類似した環境を維持するために、加温・通気した生理緩衝液中で平滑筋の収縮反応を記録する方法。

(注4)脱分極性刺激
生理緩衝液中のカリウム濃度を高めることで、膜電位を脱分極させる刺激。電位依存性Ca2+チャネルを活性化させることができる。

(注5)プロスタノイドFP受容体
プロスタノイドのうち、プロスタグランジンFに対して比較的高い親和性を示す受容体。

添付資料

図1. 本研究成果の概要
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学薬学部薬理学教室 助教 吉岡 健人

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL・FAX: 047-472-1435
E-mail: kento.yoshioka[@]phar.toho-u.ac.jp

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