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プレスリリース 発行No.1222 令和4年8月2日

P2X4受容体拮抗薬が気管・気管支平滑筋の収縮反応を強力に抑制することを発見
—P2X4受容体拮抗薬は新たな気管支喘息治療薬となる可能性がある—

 東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、選択的P2X4受容体拮抗薬であるNP-1815-PX(注1)がP2X4受容体での拮抗作用の結果、プロスタノイドの産生促進を介した気管平滑筋の収縮反応を抑制することを明らかにしました。この研究成果は、雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」にてHighlighted paper selected by Editor-in-Chief及びFeatured Articleとして推薦され、2022年8月1日に掲載されました。また、本成果は、掲載号(45巻8号)の表紙カバーイラストにも選出されています。

発表者名

小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 助教)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • P2X4受容体拮抗薬は、過剰な免疫を抑制する作用により、気管支喘息モデルマウスの喘息症状を改善することから、新たな気管支喘息治療薬となる可能性が示唆されていますが、気管・気管支平滑筋の収縮反応に対する効果はこれまでのところ、検討されていませんでした。
  • 本研究では、P2X4受容体拮抗薬であるNP-1815-PXがP2X4受容体での拮抗作用の結果、プロスタノイドの産生促進を介した気管平滑筋の収縮反応を抑制することを明らかにするとともに、プロスタノイドTP受容体を介した気管・気管支平滑筋の収縮反応を抑制する作用を併せ持つことを見出しました。
  • 本結果は、NP-1815-PXが過剰な免疫を抑制する作用に加えて、気管・気管支平滑筋の収縮反応を抑制することにより、気管支喘息に対する改善効果を発揮する可能性を示唆しています。

発表概要

 P2X4受容体は、生体のエネルギー貯蔵物質としても機能するATP(アデノシン三リン酸)が作用する受容体の1つです。P2X4受容体の活性化は、気管支喘息の気道炎症、神経因性疼痛、虚血後炎症、関節リウマチ、神経変性疾患、メタボリックシンドロームなどの多くの病態に関与している可能性が指摘されています。呼吸器系においては、P2X4受容体の活性化は、気道粘液の免疫系も活性化し、気管の炎症と気管支過敏症を引き起こすことが明らかとなっており、1)気管支喘息患者では、気管支肺胞洗浄液(BALF)、血中単球、血中好中球におけるP2X4受容体のメッセンジャーRNA(mRNA)(注2)の発現レベルが上昇していること、2)アレルゲンに感作された軽度アレルギー性喘息患者では、P2X4受容体を刺激する生理活性物質であるATPのBALF中の濃度が増加することが報告されています。これらに加えて、気管支喘息モデルマウスを用いた検討では、P2X4受容体拮抗薬の投与は、免疫細胞の活性化を抑制し、喘息症状を改善することが報告されており、P2X4受容体拮抗薬は、過剰な免疫抑制作用により気管支喘息を改善する可能性が指摘されています。また、ATPは呼吸器系の免疫反応に関わるだけでなく、気管・気管支平滑筋を収縮させ、気管支痙れんの原因物質となることが知られています。ただし、ATPによる気管・気管支平滑筋の収縮反応に対するP2X4受容体拮抗薬の影響はこれまでのところ、検討されていませんでした。そこで、東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、ATPにより誘発される気管平滑筋の収縮反応に対するP2X4受容体拮抗薬、NP-1815-PXの効果とATPにより誘発される気管平滑筋の収縮反応のメカニズムについて検討しました。さらに、気管・気管支平滑筋に対するNP-1815-PXのP2X4受容体拮抗作用以外の効果についても検討を行いました。その結果、NP-1815-PXがP2X4受容体での拮抗作用の結果、プロスタノイドの産生を抑制することで、プロスタノイドEP1受容体(注3)を介した気管平滑筋の収縮反応を抑制することを明らかにするとともに、プロスタノイドTP受容体(注4)を直接拮抗することにより、TP受容体を介した気管・気管支平滑筋の収縮反応を抑制する作用を併せ持つことを見出しました(図1)。これらの知見は、NP-1815-PXなどP2X4受容体拮抗薬が過剰な免疫を抑制する作用に加えて、気管・気管支平滑筋の収縮反応を抑制することにより、気管支喘息に対する改善効果を発揮する可能性を示唆しています。

発表内容

 研究グループは、マグヌス法(注5)を用いて、モルモットから摘出した上皮保持気管平滑筋のATPによる収縮反応に対するNP-1815-PXの効果と、ATPによる気管平滑筋の収縮反応のメカニズムについて検討しました。NP-1815-PXは、ATPによる上皮保持気管標本の収縮反応を強力に抑制しました。ATPによる収縮反応は、プロスタノイドの産生酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害薬であるインドメタシンやプロスタノイドEP1受容体拮抗薬(ONO-8130)により、強力かつ有意に抑制されましたが、プロスタノイドTP受容体拮抗薬(SQ 29,548)、プロスタノイドFP受容体拮抗薬(AL 8810)、プロスタノイドEP3受容体拮抗薬(L-798,106)では有意には抑制されませんでした。よって、NP-1815-PXは、P2X4受容体での拮抗作用の結果、プロスタノイドの産生を抑制することで、主としてプロスタノイドEP1受容体を介した気管平滑筋の収縮反応を抑制することが示されました。さらに、NP-1815-PXのP2X4受容体拮抗作用以外の効果を明らかにするため、上皮細胞を剥離した気管・気管支平滑筋に対するNP-1815-PXの効果の検討を行いました。NP-1815-PXは、プロスタノイドTP受容体刺激薬であるU46619及びプロスタグランジンF(PGF)による上皮剥離気管・気管支標本の収縮反応を濃度依存的に抑制しましたが、カルバコール、ヒスタミン、ニューロキニンA、50 mM KClにより誘発される収縮反応に対しては強力な抑制効果を示しませんでした。U46619及びPGFによる収縮反応は、いずれもプロスタノイドTP受容体拮抗薬(SQ 29,548)により強力に抑制されました。また、NP-1815-PXは、ヒトのプロスタノイドTP受容体を強制発現させた細胞でのU46619による細胞内Ca2+濃度の増加を濃度依存的に抑制しました。よって、NP-1815-PXはプロスタノイドTP受容体に対する直接的な拮抗効果も併せ持つ可能性が示されました。これらの結果は、NP-1815-PXは、1)P2X4受容体での拮抗作用の結果、プロスタノイドの産生促進を介した気管平滑筋の収縮反応を抑制する、2)プロスタノイドTP受容体を介した気管平滑筋の収縮反応を抑制する、ことにより喘息改善効果を発揮する可能性を示唆しています。

発表雑誌

    雑誌名
    「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(2022年8月1日)
    45巻8号、1158–1165

    論文タイトル
    Effects of NP-1815-PX, a P2X4 receptor antagonist, on contractions in guinea pig tracheal and bronchial smooth muscles

    著者
    Keisuke Obara, Rikako Inaba, Mirai Kawakita, Azusa Murata,Kento Yoshioka, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1248/bpb.b22-00234

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1248/bpb.b22-00234

用語解説

(注1)NP-1815-PX
日本ケミファ株式会社が開発保有する選択的P2X4受容体拮抗薬。今回の試験では同社から化合物の提供を受けた。

(注2)メッセンジャーRNA(mRNA)
生体のタンパク質はDNAから転写されたmRNAを基に合成される。mRNAの発現レベルが上昇すると、mRNAにコードされるタンパク質の合成が促進される。

(注3)プロスタノイドEP1受容体
炎症時に増加するプロスタノイドのうち、プロスタグランジン(PG)E2に対して高い親和性を示す受容体。

(注4)プロスタノイドTP受容体
炎症時に増加するプロスタノイドのうち、トロンボキサン(TX)A2に対して高い親和性を示す受容体。PGFにも親和性を示す。喘息患者ではTXA2が増加しており、プロスタノイドTP受容体に対する拮抗薬が喘息治療薬として臨床適応されている。

(注5)マグヌス法
生体と類似した環境を維持するために、加温・通気した生理緩衝液中で平滑筋の収縮反応を記録する方法。

添付資料

図1. 本研究成果の概要
図2. 掲載号(45巻8号)表紙カバー
以上

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学薬学部薬理学教室 講師 小原 圭将

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1331
FAX: 047-472-1435
E-mail: keisuke.obara[@]phar.toho-u.ac.jp

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【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部

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