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プレスリリース 発行No.1175 令和3年12月7日

生理活性脂質であるプロスタノイドが膀胱収縮活動を増強するメカニズムを解明
—プロスタノイドTP受容体と複数のCa2+チャネルは過活動膀胱治療の新たなターゲットとなる可能性がある—

 東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授らの研究グループは、複数のプロスタノイド(注1)が膀胱平滑筋のプロスタノイドTP受容体(注2)を刺激することで膀胱の収縮活動を強力に増強することを明らかにし、その増強反応に複数のCa2+チャネルの活性化が関与することを見出しました。この研究成果は、雑誌「Life Sciences」に2021年12月15日に掲載されます。なお、オンライン版は2021年11月10日に先行公開されています。

発表者名

欧 光瀚(東邦大学大学院薬学研究科 医療薬学専攻 博士課程2年)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 助教)
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

発表のポイント

  • プロスタノイドは過活動膀胱(OAB)(注3)などの膀胱平滑筋の収縮異常の原因となる可能性がこれまで指摘されていましたが、膀胱平滑筋に対する各種プロスタノイドの作用やそれらの作用メカニズムに関する情報は不足していました。
  • 本研究では、複数のプロスタノイドが膀胱平滑筋のプロスタノイドTP受容体を刺激することを明らかにし、その刺激は複数のCa2+チャネル(電位依存性Ca2+チャネル及びストア作動性Ca2+チャネル)の活性化を介して膀胱の収縮機能を亢進することを見出しました。
  • 本結果は、プロスタノイドが膀胱平滑筋の収縮異常の誘発因子となる可能性を提示するとともに、TP受容体及びTP受容体の刺激により活性化される複数のCa2+チャネルがOABの治療の新たなターゲットとなる可能性を示唆しています。

発表概要

 過活動膀胱(OAB)などの排尿障害は、加齢とともに罹患率が増加することが知られており、超高齢社会に突入した日本では、これらの排尿障害を抱える患者が増加しています。OABの薬物治療には、自律神経系に作用する薬物が用いられていますが、副作用や有効性の観点から、新たな治療薬の登場が望まれています。プロスタノイドはOABの原因となる可能性がこれまで指摘されており、プロスタノイドの標的となる受容体の拮抗薬は、新たなOAB治療薬となる可能性を秘めています。ただし、膀胱平滑筋に対する各種プロスタノイドの作用やそれらの作用メカニズムに関する情報は不足していました。そこで、東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授、小原圭将講師、吉岡健人助教らの研究グループは、モルモットから摘出した膀胱平滑筋の収縮活動に対する各種プロスタノイドの作用を検討し、それらの作用機序を薬理学的・生化学的に検討しました。その結果、各種プロスタノイドが膀胱平滑筋の収縮活動を増加させることを明らかにし、膀胱平滑筋のプロスタノイドTP受容体がこれらのターゲットの1つとなることを明らかにしました。また、TP受容体の刺激は複数のCa2+チャネル(電位依存性Ca2+チャネル及びストア作動性Ca2+チャネル)の活性化を介して膀胱の収縮機能を亢進することを見出しました。これらの知見は、プロスタノイドが膀胱平滑筋の収縮異常の誘発因子となる可能性を提示するとともに、TP受容体及びTP受容体の刺激により活性化される複数のCa2+チャネルがOABの治療の新たなターゲットとなる可能性を示唆しています。

発表内容

 研究グループは、マグヌス法(注4)を用いてモルモットから摘出した膀胱平滑筋の基礎張力及び自発性収縮活動に対するU46619(トロンボキサン(TX)A2安定誘導体)及び5つのプロスタノイドの増強効果を検討しました。その結果、検討した薬物のうち、U46619及びプロスタグランジン(PG)E2、PGF、PGA2が膀胱平滑筋の基礎張力及び自発性収縮活動を増強することを見出しました。これらの作用点を推定するため、RT-qPCR法(注5)を用いて、膀胱に発現する9種類のプロスタノイド受容体(TP、FP、EP1、EP2、EP3、EP4、DP1、DP2、IP)のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を比較したところ、プロスタノイドTP受容体のmRNAの発現量が最も多いことを見出しました。また、免疫染色(注6)によりTP受容体が膀胱平滑筋に存在することを確認しました。U46619、PGE2、PGF、PGA2が膀胱平滑筋のTP受容体を刺激することを確認するため、これらの増強反応に対する選択的TP受容体拮抗薬(SQ 29,548)の効果を検討したところ、U46619による増強反応は完全に消失し、PGE2、PGF、PGA2の増強反応は部分的に抑制されました。TP受容体の活性化によりもたらされる膀胱平滑筋の収縮活動の増加のメカニズムを細胞内Ca2+流入経路に着目し、検討を行ったところ、U46619による増強反応は細胞外液からCa2+を除くことで完全に消失しました。また、U46619による基礎張力の上昇反応及び自発性収縮活動の頻度の増加反応は、電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)抑制薬であるベラパミルによって完全に抑制されましたが、ベラパミルは、U46619により増強された自発性収縮活動の振幅には影響を与えませんでした。ベラパミルの存在下で残存した自発的収縮活動は、受容体作動性Ca2+チャネル(ROCC)の抑制薬であるLOE-908では抑制されませんでしたが、ROCC及びストア作動性Ca2+チャネル(SOCC)の抑制薬であるSKF-96365によって完全に抑制されました。さらに、膀胱平滑筋におけるSOCCの本体を推定するために、SOCCの本体と考えられているOraiチャネル(Orai1、Orai2、Orai3)とOraiチャネルの活性化を引き起こす小胞体Ca2+センサータンパク質であるSTIM(stromal interaction molecule)(STIM1、STIM2)のmRNAの発現量をRT-qPCR法により比較したところ、Orai1とSTIM2のmRNAの発現量が最も多く、次いでOrai3のmRNAの発現量が多いことが明らかとなりました。これらの結果は、TXA2、PGE2、PGF、PGA2などのプロスタノイドがTP受容体を刺激することにより膀胱平滑筋の収縮異常をもたらす可能性を提示するとともに、TP受容体の刺激が、VDCC及びSOCC(Orai1/Orai3)を介した細胞内Ca2+流入を促進することで、膀胱平滑筋の基礎張力の上昇と自発性収縮活動の増加をもたらすことを示しています。以上のことから、TP受容体及びTP受容体の刺激により活性化されるCa2+チャネル(VDCC/SOCC)は、膀胱平滑筋の収縮異常によりもたらされるOABなどの排尿障害の治療の新たなターゲットとなる可能性が高いと考えられます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Life Sciences」(2021年12月15日) 287巻、120130

    論文タイトル
    Prostanoid TP receptor stimulation enhances contractile activities in guinea pig urinary bladder smooth muscle through activation of Ca2+ entry channels: Potential targets in the treatment of urinary bladder contractile dysfunction

    著者
    Guanghan Ou, Miki Fujisawa, Ayano Yashiro, Keyue Xu, Kento Yoshioka, Keisuke Obara, Yoshio Tanaka

    DOI番号
    10.1016/j.lfs.2021.120130

    アブストラクトURL
    https://doi.org/10.1016/j.lfs.2021.120130

用語解説

(注1)プロスタノイド
プロスタグランジン類(PG)とトロンボキサン類(TX)からなる生理活性脂質の総称。具体的には、PGA2、PGD2、PGE2、PGF、PGI2、TXA2などがある。消化管の生理機能の調節などに関わるだけでなく、炎症、疼痛、発熱、血小板凝集などの病態生理機能に関わることが知られている。

(注2)プロスタノイドTP受容体
プロスタノイドのうち、トロンボキサン(TX)A2に対して高い親和性を示す受容体。プロスタノイドと結合することで細胞に様々な変化をもたらす。

(注3)過活動膀胱(OAB: overactive bladder)
過活動膀胱は蓄尿機能障害(膀胱に尿が貯められなくなる病気)の一つであり、尿意切迫感や場合によっては尿失禁を引き起こすことで患者のquality of life(QOL)を大きく低下させる。日本では、40歳以上の8人に1人が過活動膀胱の症状を有しており、その患者数は1000万人以上と推定されている。

(注4)マグヌス法
生体と類似した環境を維持するために、加温・通気した生理緩衝液中で平滑筋の収縮反応を記録する方法。

(注5)RT-qPCR法
定量的逆転写PCR法。組織や細胞での遺伝子(メッセンジャーRNA(mRNA))発現レベルを定量的に評価することができる。ウイルスの検査にも用いられる。

(注6)免疫染色
抗体を用いて実験サンプル中の抗原(受容体、平滑筋など)のみを検出する手法。抗体による抗原の認識反応は本来目に見えないが、特定の物質のみを検出するために発色反応を組み合わせることで、これを可視化する。

添付資料

図1. 本研究成果の概要
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学薬学部薬理学教室
講師 小原 圭将

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