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プレスリリース 発行No.1110 令和2年12月18日

除草剤抵抗性オオホナガアオゲイトウが日本の穀物輸入港で定着

 東邦大学理学部の下野綾子講師の研究グループは、海外で難防除雑草となっている除草剤抵抗性雑草が、最初の報告から10年もたたずに日本に移入し定着したことを発見しました。

 この成果は2020年11月に雑誌「Plants, People, Planet」で発表されました。

発表者名

下野 綾子(東邦大学理学部生物学科 講師)

発表のポイント

  • 世界で最も使用された除草剤であるグリホサート剤に抵抗性のあるオオホナガアオ ゲイトウは、抵抗性雑草として急速に蔓延し、深刻な問題となっている。
  • 日本の主要穀物輸入港湾14港を調査したところ、3港でグリホサート抵抗性オオホ ナガアオゲイトウが生育し、1港では定着していることが遺伝子解析により確認され た。
  • 本研究で確認された、問題になる可能性のある外来雑草の侵入初期の検出は、早期 警戒と対策の立案において重要である。

発表概要

 近年グリホサート剤(注1)使用量の増大に伴い、グリホサート抵抗性(GR)雑草の進化が深刻な問題となっています。日本の主要な穀物輸入相手国である米国では、GRオオホナガアオゲイトウが蔓延し難防除雑草となっていることから、本種が輸入穀物への混入を通じて日本に移入し拡散する可能性が考えられます。
 日本の主要港湾14港において調査を行った結果、3港でGRオオホナガアオゲイトウの生育を確認しました。2港では数個体のみでしたが、1港では数多くの個体が生育しており、この港湾で4年間モニタリングした結果、抵抗性個体が安定して検出されたことから、偶発的に生育しているというより定着に成功した結果と考えられます。
 海外で問題となっている抵抗性雑草が、最初の報告から10年もたたずに、日本に移入し定着しました。輸入穀物を介した外来雑草の移入に対する実効的規制が講じられる見込みがない現状では、侵入初期の検出は、早期警戒と対策の立案に不可欠であることが考察されます。

発表内容

 グリホサート剤は2000年代に世界で最も使用された除草剤とされています。除草剤抵抗性作物の普及によるグリホサート使用量増加にともない、抵抗性雑草の進化が深刻な問題となっています。中でもGRのヒユ科ヒユ属オオホナガアオゲイトウ(Amaranthus palmeri)は、2005年に報告されて以降、米国で急速に蔓延し、難防除雑草となりました。米国は日本の主要な穀物輸入相手国であり、雑草種子の主要な侵入ルートが輸入穀物への混入による非意図的輸入があることから、本種が輸入穀物への混入を通じて日本に移入する可能性が考えられます。
 オオホナガアオゲイトウは北アメリカ原産の1年草で、日本には1930年代に渡来し本州から九州に広がったとされています。しかし、現状の分布はやや稀で、難防除雑草としての報告は皆無です。
 オオホナガアオゲイトウの主要なGRメカニズムの1つが、グリホサート剤の標的遺伝子EPSPS(5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素)の増幅によります。EPSPS遺伝子は10kbほどにも関わらず、増幅領域は約300kb(最新の報告では399kbとされている)におよび、EPSPS以外にも様々な遺伝子や転移要素が含まれています。従って、EPSPS遺伝子のコピー数をリアルタイムPCRで解析するとともに、増幅領域に含まれるEPSPS遺伝子以外の配列の有無をPCRによって確認することで、抵抗性個体かどうかを評価しました。
 日本の主要港湾14港において調査を行った結果、3港でGRオオホナガアオゲイトウの生育を確認しました。2港では数個体のみが生育していましたが、1港では数多くの個体が生育していました。この港湾で、4年間モニタリングした結果、抵抗性個体が安定して検出されたことから、偶発的に生育しているというより定着に成功した結果と考えられます。
 また、米国農務省より米国の2地域およびメキシコ1地域で採集された種子を、岡山大学資源植物科学研究所より1989年に岡山で採集された種子を提供いただき、オオホナガアオゲイトウのマイクロサテライトマーカーを開発して、これらの試料と港湾で生育している個体の遺伝解析を行い、遺伝距離に基づく遺伝構造の解析を行いました。その結果、港湾の集団は、1989年に採集された岡山の集団より米国のものと遺伝的に近いことがわかりました。
 日本の港湾に定着しているGRオオホナガアオゲイトウは、米国で報告されたものに由来するのか結論づけるには、更なる解析が必要ですが、日本の港湾においてGRオオホナガアオゲイトウが独立に進化したとは考えにくいと言えます。

 本研究は、海外の難防除雑草が、最初の報告から10年もたたずに日本に移入し定着したことを明らかにしました。これまで外来雑草の対策は問題が顕在化した後に取られてきました。しかし蔓延後の対策はコストも時間もかかります。輸入穀物を介した外来雑草の移入に対する実効的規制が講じられる見込みがない現状では、侵入初期の検出は、早期警戒と対策の立案に不可欠であると言えます。

発表雑誌

    雑誌名
    「Plants, People, Planet, 2(6), 640-648」(2020年11月号)

    論文タイトル
    Initial invasion of glyphosate-resistant Amaranthus palmeri around grain-import ports in Japan

    著者
    Shimono, A.*, Kanbe H , Nakamura S , Ueno S , Yamashita J , & Asai, M.

    DOI番号
    10.1002/ppp3.10156

    アブストラクトURL
    https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ppp3.10156

用語解説

(注1)グリホサート
植物の5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSPS)阻害剤。
EPSPSは芳香族アミノ酸(トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン)の生合成を担うシキミ酸経路の6番目の反応を触媒する酵素。

添付資料

図1.港湾に生育するオオホナガアオゲイトウ
図2.港湾におけるオオホナガアオゲイトウの生育状況とグリホサート抵抗性個体の割合

赤色がEPSPS遺伝子の増幅が検出された個体、オレンジはEPSPS遺伝子の増幅は検出されなかったが、増幅領域を有している個体を示す。
以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部生物学科
講師 下野 綾子

〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL&FAX: 047-472-5209
URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/bio/plant_ecology/

【本ニュースリリースの発信元】
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