プレスリリース 発行No.1085 令和2年7月13日
一液混合で簡便に直径の小さい半導体型カーボンナノチューブを分離
東邦大学の桒原彰太准教授の研究グループと産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の斎藤毅上級主任研究員、桒原有紀主任研究員は、温度応答性高分子を用いて、簡便に効率良く、直径の小さい半導体型カーボンナノチューブを分離する方法を開発しました。体温以上に温めると相転移を起こす高分子であるPNIPAMとカーボンナノチューブの分散溶液を適切な濃度で混合し、添加剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液やホウ酸ナトリウム水溶液を加えて温めることで、0.7 nm程度の直径を持つ半導体型ナノチューブを選択的に得ることができました。
これにより、特定の構造を持つカーボンナノチューブのみを含む機能インクを安価に得ることができ、その電気的、及び光学的特性を利用した応用展開が期待されます。
この成果は2020年6月29日に 英国王立化学会が発刊する「RSC Advances」にて発表されました。
これにより、特定の構造を持つカーボンナノチューブのみを含む機能インクを安価に得ることができ、その電気的、及び光学的特性を利用した応用展開が期待されます。
この成果は2020年6月29日に 英国王立化学会が発刊する「RSC Advances」にて発表されました。
発表者名
志村 英里子(東邦大学大学院理学研究科化学専攻 2019年度修了)
田中 朋美 (東邦大学大学院理学研究科化学専攻)
桒原 有紀 (産業技術総合研究所ナノ材料研究部門 主任研究員)
斎藤 毅 (産業技術総合研究所ナノ材料研究部門 上級主任研究員)
菅井 俊樹 (東邦大学理学部化学科 教授)
桒原 彰太 (東邦大学理学部化学科 准教授)
田中 朋美 (東邦大学大学院理学研究科化学専攻)
桒原 有紀 (産業技術総合研究所ナノ材料研究部門 主任研究員)
斎藤 毅 (産業技術総合研究所ナノ材料研究部門 上級主任研究員)
菅井 俊樹 (東邦大学理学部化学科 教授)
桒原 彰太 (東邦大学理学部化学科 准教授)
発表のポイント
- 温度応答性高分子を用いて、一液混合で簡便に直径の小さい半導体型カーボンナノチューブを分離することに成功しました。
- 調製段階で超遠心分離操作を必要とせず、カーボンナノチューブの分離工程をシンプルにできました。
- 添加剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液やホウ酸ナトリウム水溶液を加えると、カーボンナノチューブの直径選択性に効果があることを見出しました。
- 特定の構造を持つカーボンナノチューブの機能性インクの製造技術開発に繋がることが期待されます。
発表概要
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、グラフェンシートの巻き方によって金属にも半導体にもなり、生成段階では様々な構造を持つナノ物質の混合物として得られるため、単一構造のSWCNTを簡便に得る分離手法が求められています。研究グループでは、一液にすべての材料を混合することで分離工程をシンプルにしたSWCNTの新規分離手法として、温度応答性高分子を用いたSWCNTの分離手法を開発してきました。
本研究では、体温以上に温めると相転移を起こす高分子であるPNIPAMとSWCNTの分散溶液を適切な濃度で混合し、添加剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液やホウ酸ナトリウム水溶液を加えて温めることで、0.7 nm程度の直径を持つ半導体型SWCNTを選択的に得ることに成功しました。得られた分離溶液を用いることで、特定の構造を持つSWCNTのみを含む機能インクを安価に得ることができ、その電気的・光学的特性を利用した応用の進展に大きく寄与することが期待されます。
本研究では、体温以上に温めると相転移を起こす高分子であるPNIPAMとSWCNTの分散溶液を適切な濃度で混合し、添加剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液やホウ酸ナトリウム水溶液を加えて温めることで、0.7 nm程度の直径を持つ半導体型SWCNTを選択的に得ることに成功しました。得られた分離溶液を用いることで、特定の構造を持つSWCNTのみを含む機能インクを安価に得ることができ、その電気的・光学的特性を利用した応用の進展に大きく寄与することが期待されます。
発表内容
ナノ炭素材料の一つであるSWCNTは、グラフェンシートの巻き方によって金属にも半導体にもなり、導電性基板や薄膜トランジスタへの応用が報告されています。しかし、生成段階では様々な構造を持つナノ物質の混合物として得られ、構造制御は非常に難しいため、分離・精製技術により単一構造のSWCNTを得る努力が続けられています。近年、SWCNTの構造分離に関する研究が進展し、超遠心分離やカラムクロマトグラフィー、二相抽出などの各種分離方法を用いて金属型と半導体型のSWCNTを分離することが可能となりました。また、分離条件を制御することにより、特定の巻き方(螺旋度)を持ったSWCNTを選択的に分離することも可能となっています。これら分離手法では、SWCNTを界面活性剤により被覆し、水溶媒中に分散した溶液を使用する。界面活性剤のSWCNTへの被覆状態が、SWCNTの構造や電気的特性に依存し、表面電荷の違いや疎水性の差異が現れ、分離されると考えられています。
研究グループでは、一液にすべての材料を混合することで分離工程をシンプルにしたSWCNTの新規分離手法として、温度応答性高分子を用いたSWCNTの分離手法を開発してきました(Shimura, Sugai, Kuwahara, Chem. Comm. 2018)。
下限臨界溶解温度(LCST)よりも高い温度に加熱すると、温度応答性高分子の水素結合様式が変化し、水溶液中の温度応答性高分子が凝集し、固体と液体の2相に分離します。特に温度応答性高分子の一つであるpoly(N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)は、体温以上に温めるとこの相転移を生じることから、広い分野において研究が進められている高分子材料です。この性質を利用することにより、コール酸ナトリウムで分散させたSWCNTを混合し加熱すると、半導体型のSWCNTのみが液相に分離できることを発見しました。しかし、どうして半導体型SWCNTのみ液相に分離されるのか、その分離機構は未解明でした。
本研究では分離機構を解明することで、分離におけるSWCNTの構造選択性を精密に制御することを目指し、SWCNTとSWCNTを取り巻く界面活性剤分子、そして温度応答性高分子の3成分の相互作用について、各成分の濃度依存性を明らかにしました。
また、添加剤として加える酸化剤やナトリウム塩が与える影響についても実験を進めた結果、SWCNT表面への界面活性剤分子の吸着状態が、SWCNTの直径と電気的特性(半導体、金属)により変化し、混合した温度応答性高分子との間で相互作用の強さが変わることが明らかとなりました。さらに、添加剤として次亜塩素酸ナトリウムやホウ酸ナトリウムを加えることで、直径の小さいSWCNTのみ液相に分離できることを明らかにしました。特に直径の小さいSWCNTを多く含む試料を出発物質として用いた場合、0.7 nm程度の直径を持つ半導体型ナノチューブを選択的に得ることができました。
本研究の成果は、簡便に単一構造のカーボンナノチューブの機能性インクを得る技術として、その利用が期待されます。本研究手法は、これまで分離規模のスケールアップの障害の一つであった超遠心分離操作を必要とせず、温度応答性高分子の相転移により分かれた固相と液相のうち液相を分取するため分離試料のコンタミネーションが少なく、またPNIPAMは可逆的に温度相転移を誘起できることからリサイクル可能である、といった利点があります。そのため、SWCNTの分離試料を安価かつ大量に得る分離工程を可能にします。また、得られる分離溶液に含まれるSWCNTには直径の小さい半導体型SWCNTのみ含むことから、バンドギャップの大きな半導体型SWCNTを用いた半導体デバイスへの応用などへの利用が期待されます。
研究グループでは、一液にすべての材料を混合することで分離工程をシンプルにしたSWCNTの新規分離手法として、温度応答性高分子を用いたSWCNTの分離手法を開発してきました(Shimura, Sugai, Kuwahara, Chem. Comm. 2018)。
下限臨界溶解温度(LCST)よりも高い温度に加熱すると、温度応答性高分子の水素結合様式が変化し、水溶液中の温度応答性高分子が凝集し、固体と液体の2相に分離します。特に温度応答性高分子の一つであるpoly(N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)は、体温以上に温めるとこの相転移を生じることから、広い分野において研究が進められている高分子材料です。この性質を利用することにより、コール酸ナトリウムで分散させたSWCNTを混合し加熱すると、半導体型のSWCNTのみが液相に分離できることを発見しました。しかし、どうして半導体型SWCNTのみ液相に分離されるのか、その分離機構は未解明でした。
本研究では分離機構を解明することで、分離におけるSWCNTの構造選択性を精密に制御することを目指し、SWCNTとSWCNTを取り巻く界面活性剤分子、そして温度応答性高分子の3成分の相互作用について、各成分の濃度依存性を明らかにしました。
また、添加剤として加える酸化剤やナトリウム塩が与える影響についても実験を進めた結果、SWCNT表面への界面活性剤分子の吸着状態が、SWCNTの直径と電気的特性(半導体、金属)により変化し、混合した温度応答性高分子との間で相互作用の強さが変わることが明らかとなりました。さらに、添加剤として次亜塩素酸ナトリウムやホウ酸ナトリウムを加えることで、直径の小さいSWCNTのみ液相に分離できることを明らかにしました。特に直径の小さいSWCNTを多く含む試料を出発物質として用いた場合、0.7 nm程度の直径を持つ半導体型ナノチューブを選択的に得ることができました。
本研究の成果は、簡便に単一構造のカーボンナノチューブの機能性インクを得る技術として、その利用が期待されます。本研究手法は、これまで分離規模のスケールアップの障害の一つであった超遠心分離操作を必要とせず、温度応答性高分子の相転移により分かれた固相と液相のうち液相を分取するため分離試料のコンタミネーションが少なく、またPNIPAMは可逆的に温度相転移を誘起できることからリサイクル可能である、といった利点があります。そのため、SWCNTの分離試料を安価かつ大量に得る分離工程を可能にします。また、得られる分離溶液に含まれるSWCNTには直径の小さい半導体型SWCNTのみ含むことから、バンドギャップの大きな半導体型SWCNTを用いた半導体デバイスへの応用などへの利用が期待されます。
発表雑誌
-
雑誌名
「RSC Advances」(2020年6月29日)
10巻、(2020年)、24570 – 24576
論文タイトル
Role of constituents for the chirality isolation of single-walled carbon nanotubes by the reversible phase transition of a thermoresponsive polymer
著者
Eriko Shimura, Tomomi Tanaka, Yuki Kuwahara, Takeshi Saito, Toshiki Sugai, and Shota Kuwahara*
DOI番号
10.1039/D0RA04357E
アブストラクトURL
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/RA/D0RA04357E
添付資料

図.温度応答性高分子の水溶液にコール酸ナトリウムで分散した単層カーボンナノチューブ溶液を入れ加熱した様子
得られた溶液の蛍光スペクトルを測定すると、(6,4)の螺旋度(カイラリティ)を持つ単層カーボンナノチューブに由来する蛍光ピークのみ観察できました。
以上
お問い合わせ先
【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学理学部化学科
准教授 桒原 彰太
〒274-8510 船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-4442
E-mail: syouta.kuwahara[@]sci.toho-u.ac.jp
URL: http://nano.chem.sci.toho-u.ac.jp/~lab/nanochem/index.html
【本ニュースリリースの発信元】
学校法人東邦大学 法人本部経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
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