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プレスリリース 発行No.1007 令和元年9月6日

MRIによる新規の脂肪肝評価法の確立
~ 肝臓全体の脂肪量や脂肪分布を
より正確に、かつ客観的、視覚的に評価・追跡することが可能に ~

 東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野の熊代 尚記准教授の研究グループは、MRIを用いた脂肪肝の新規解析手法を確立しました。

 現在、日本人の3~4人に1人が有しているといわれている脂肪肝は、インスリン抵抗性や肝線維化を引き起こし、2型糖尿病・心血管疾患・肝硬変・肝細胞癌・腎不全などにもつながる重大な問題ですが、この手法により、より客観的で正確な肝臓内脂肪蓄積の評価が可能となり、健康診断や人間ドック、先進医療の開発研究にも広く応用されることが期待されます。

 この成果は2019年7月17日にHepatology Research 誌にオンライン掲載されました。

発表者名

五十嵐 弘之 (東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 大学院生)
鴫山 文華  (東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 助教)
熊代 尚記  (東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 准教授)

発表のポイント

  • MRIのDixon法(注1)の水画像と脂肪画像を用いて、肝臓を構成している全領域で脂肪割合を算出し、絶対定量する手法を確立した。これにより、脂肪分布が不均一なまだら脂肪肝を含めたあらゆる症例に対応可能な、より正確な肝臓内脂肪蓄積の評価が可能となった。
  • この手法は、客観的に経時的に変化を観察することが可能であり、脂肪分布も全肝臓スライスに渡ってカラフルにビジュアル化されるため、健康診断や人間ドック等での定期的な観察にも適している。
  • 本手法を用いて、総脂肪量、総除脂肪体積、総肝臓体積を個々に算出できるため、肝不全、肝移植、肝再生医療などを含めた今後の肝臓に関する先進医療の開発研究にも応用が期待される。

発表概要

 MRIの肝臓画像の全断面、全ポイントを評価する新規の脂肪肝評価法を確立した。この方法では、MRIのDixon法で撮影した肝臓の全断面の水・脂肪画像を専用のソフトを用いて同じスライスで重ね合わせ、脂肪/(水+脂肪)により脂肪の信号強度を表す画像を作成した。
 そして、この画像上の全voxel(注2)に対して脂肪の割合に応じて段階的にカラフルな色をつけ、脂肪分布マップを作成した。さらに、全voxelの脂肪割合、そのvoxelの個数、voxelのサイズを基に、肝臓全体における総脂肪割合、肝臓全体の体積、総脂肪体積、総除脂肪体積も算出可能とした。この新規手法による脂肪肝診断の正確性を、従来の¹H-MRS法(注3)を比較対照として、肝生検結果におけるNAFLD Activity Score(NAS)(注4)の脂肪化の点数区分毎にROC解析(注5)を実施して証明した。この新規手法は繰り返しの評価が可能であり、健康診断や人間ドック等での定期的な観察にも活用できる。
 また、肝臓の詳細な体積データと脂肪分布のデータを取得できる利点を活かして今後の肝臓病学の研究にも広く応用されると考えられる。

発表内容

 これまで肝臓内脂肪の測定にはいくつかの手法があったが、それらは肝臓の一部に着目してその部分における脂肪濃度を肝臓全体にわたる脂肪蓄積の割合とみなしていた。そのため、不均一な肝臓内脂肪蓄積を認める症例においては、その測定が不正確となる可能性があり、再現性に欠けるために時系列で評価することも困難であった。
 特に、肝生検による組織学的評価が重要視されてきたが、肝生検は侵襲的であり費用面でも負担が大きかった。また、不均一な脂肪分布を認める場合、生検結果は生検箇所によって異なり、短期間で繰り返し実施できないことも問題であった。そのため、侵襲的でないMRIを用いた方法などが開発されたが、これまでは肝臓画像の限定された部分の評価しかなされず、不均一な肝臓内脂肪蓄積を正確に測定できない点で、肝生検同様、課題が残っていた。
 そこで、今回新たに、それらに変わるMRIを用いた肝臓全断面、全ポイントを評価する肝臓内脂肪の測定法を確立し、その妥当性を既存の手法による測定結果と比較検討した。既存の¹H-MRS法では肝臓の第6区域内に手動的に小さな1つの領域を設定し、専用のソフトを用いて肝臓内脂肪割合を算出していた。今回のMRIを用いた新規解析にはDixon法で撮影した画像が使われた。本撮影では、腹部の水画像と脂肪画像が同時に各々作成され、肝臓のみの画像を専用のソフトを用いて切り抜いた。その後、画像処理ソフトで脂肪/(水+脂肪)という計算を基に結合させた。その画像は肝臓の全スライスに対して作成され、全領域に含まれる個々のvoxelの信号強度が脂肪蓄積の割合を示し、脂肪割合の少ない順に青→緑→黄→橙→赤と段階別に異なった色をつけて、カラフルな脂肪マップが作成された(図1、図2)。そして、各強度のvoxel数がソフト上で数えられ、そこから全肝臓脂肪割合が計算された。また、1つのvoxelの体積及び全voxel数の積から全肝臓体積も算出できるため、全脂肪割合をかけ合わせることで全肝臓脂肪体積が算出され、全肝臓体積から全脂肪体積を引くことで、除脂肪肝臓体積(肝実質体積)も求められた。
 本研究では今回の新規手法の妥当性を従来の¹H-MRS法と比較し評価した。その際、8人の健常人と超音波検査で脂肪肝と診断された52人のデータを用いて後ろ向きに解析した。脂肪肝患者52人の臨床背景として、BMI 29.8±5.3 kg / m²(平均値±標準偏差)であり、37人は糖尿病に罹患しており、HbA1c 6.9±1.0 %、ALT 61.2±28.3 IU / Lであった。肝生検結果におけるNAFLD Activity Score(NAS)の脂肪化の点数区分毎にROC解析を施行した結果、新規手法の診断的正確性が示された。また、新規手法での全肝臓脂肪割合はNASの脂肪化の点数と有意に関連しており、¹H-MRS法の肝臓内脂肪割合とも有意に相関していた。そして、全肝臓脂肪体積と¹H-MRS法の肝臓内脂肪割合も有意に相関していた。その一方で、両者の方法で脂肪割合の値に差がある症例が存在し、脂肪マップを確認したところ、肝臓全体の色の付き方が不均一であり、いわゆるまだら脂肪肝であることが視覚的に確認できた。
 この新規手法は繰り返しの評価が可能であり、健康診断や人間ドック等での定期的な観察にも活用できる。また、本手法を用いて全肝臓脂肪体積や除脂肪肝臓体積(肝実質体積)などを個々に算出でき、今後の肝臓に関する研究にも広く応用可能と考えられる。

発表雑誌

    雑誌名
    「Hepatology Research」(2019年7月17日)

    論文タイトル
    Whole Hepatic Lipid Volume Quantification and Color Mapping by Multi-slice and Multi-point Magnetic Resonance Imaging

    著者
    Hiroyuki Igarashi, Fumika Shigiyama, Noritaka Wakui, Hidenari Nagai, Kazutoshi Shibuya, Nobuyuki Shiraga, Takahisa Hirose, Naoki Kumashiro*

    DOI番号
    10.1111/hepr.13408

    アブストラクトURL
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/hepr.13408

用語解説

(注1)Dixon法
水と脂肪の共鳴周波数の違いを利用したMRIの撮影法。位相が一致する際のin-phase、 位相が正反対となる際のout-of-phase、水画像、脂肪画像の4種類の画像が取得できる。

(注2)voxel
3次元画像における立方体でできた最小単位。

(注3)¹H-MRS法
磁気共鳴分光法Magnetic Resonance Spectroscopy(MRS)のうち、¹H(プロトン)を利用した方法。
共鳴周波数の違いと信号の強度から生体内に含まれる分子等を調べる方法。

(注4)NAFLD Activity Score(NAS)
非アルコール性脂肪性肝疾患Non-Alcoholic Fatty Liver Disease(NAFLD)の程度を組織学的に評価する基準。脂肪化(0-3点)、炎症 (0-3点)、風船化(0-2点)の合計点で評価される。

(注5)ROC解析
Receiver Operating Characteristic解析の略。
診断能の評価等に使われて、横軸を1-特異度、縦軸を感度にした折れ線グラフを作成し評価する方法。

添付資料

以上

お問い合わせ先

【本発表資料のお問い合わせ先】
東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野

准教授 熊代 尚記
〒143-8540 大田区大森西5-21-16
TEL: 03-3762-4151(内線6560)  FAX: 03-3765-6488
E-mail: naoki.kumashiro[@]med.toho-u.ac.jp
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URL: https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/metabo/index.html

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