プレスリリース 発行No.855 平成30年1月16日
この研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」(Springer Nature)のオンライン版(1月8日号)に公開されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)事業並びに文部科学省科学研究費助成金事業から一部補助を受けて実施しました。
発表のポイント
● 筋萎縮性側索硬化症患者の運動機能低下とNAIP量の経時的な変化に関連性がみられ、進行程度を予測しうる
● 筋萎縮性側索硬化症患者で低下しているNAIP自体を治療ターゲットとした治療薬の開発が重要になる
発表内容(サマリー)
本論文では、NAIPの発現量がALS患者の病気の進行に関わる新発見について報告しました。
本臨床研究では、ALS患者18名ならびに年齢適合健常者12名を対象に、末梢血の単核球(注3)で発現しているNAIPのタンパク量を定量(NAIP-Dot-Blot法)(注4)し、さらにALS患者においては、改訂ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)スコア(注5)と努力性肺活量(注6)を運動機能評価の指標として用い、NAIP量との相関を4ヶ月毎に12ヶ月間、経時的に観察しました。これらの数値を統計解析(回帰分析)し、NAIPの量と ALSFRS-Rとの相関関係を検証しました。
その結果、末梢血単核球のNAIP量はALS患者群で0.62±0.29 ngで、健常者群の1.34±0.61ngと比較し約半分に低下していました(P=0.0019)(図1)。サブ解析として性差に加えALS患者群では、発症部位別からみた臨床病型、罹病期間、胃瘻造設や非侵襲的換気療法導入の有無でも検討しましたが、有意差は観察されませんでした。
12ヶ月経過時での両者の回帰分析から、ALSFRS-Rの減少変化率 [(評価開始時ALSFRS-Rスコア−12ヶ月時のALSFRS-Rスコア)/ (評価開始時ALSFRS-Rスコア) × 100 ]とNAIP量(12ヶ月時)に非常に強い負の相関関係を示す数値(P=0.016; R2=0.798)が得られました(図2)。すなわち、NAIPの発現量が多い程、ALSの進行(運動機能の消失)が遅くなる事が分かりました。
発表雑誌
雑誌名 | 英国科学雑誌「Scientific Reports」(Springer Nature)のオンライン版 (2018年1月8日) |
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論文タイトル | Neuronal apoptosis inhibitory protein is implicated in amyotrophic
lateral sclerosis symptoms |
日本語訳 | 神経のアポトーシス(変性・細胞死)を抑制するタンパクは筋萎縮性側索硬化症の症状に影響を与える。 |
著者 | Osamu Kano, Kazunori Tanaka, Takuya Kanno, Yasuo Iwasaki, Joh-E Ikeda* |
DOI番号 | 10.1038/s41598-017-18627-w |
URL | http://rdcu.be/EiEt |
用語解説
(注2)NAIP: Neuronal Apoptosis Inhibitory Proteinの頭字。NAIPは、活性酸素などの酸化ストレスによって発現が誘導され、酸化ストレスが引き起こす様々な障害から細胞を保護し、神経の機能維持や生存に働く機能性タンパク質です。また、細胞や組織の炎症反応の調節にも関わっています。ヒトのNAIP遺伝子のコピー数は個人によって1コピーから数コピーと異なっています。
(注3)単核球(単核細胞):血液中の単核食細胞とリンパ球(T細胞やB細胞等)から成る単核白血球の総称。ウイルス感染や傷害を受けた細胞、細菌、抗原物質を処理して、免疫に関わっている。
(注4)NAIP-Dot Blot法による単核球NAIPの定量:先ず、健常者とALS患者の末梢血から血球細胞を分別して、NAIPが単球やリンパ球を含む単核球でのみ発現していることをウエスタンブロット法で確認しました。其の後、便法(単核球分離用採血管)を用いて健常者とALS患者の末梢血から単核球を分離しました。単核球の全タンパク質を抽出(全細胞抽出試薬使用)し、一定タンパク質濃度に調製したサンプルをPVDF膜にブロットし、抗NAIP抗血清によるドットブロット・蛍光強度測定法でNAIP量を定量しました。その際NAIPリコンビナントタンパク質を標準物質として用いました。
(注5)改訂ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)スコア:ALS患者の運動機能の障害の程度を表す総合評価点(国際標準スコア)。12の運動機能に関する質問項目について、各項目の評価点数(0〜4点で評価)の合計点数(48点満点)をスコアとして用います。スコアが低いほど重症で、治験の際の薬効の指標としてよく用いられます。
(注6)努力性肺活量:最大に空気を吸って(最大吸気位)から、最大限の努力で息をだした時(最大呼気位)の空気量(気量)です。
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