プレスリリース

メニュー

プレスリリース 発行No.712 平成28年9月7日

合併症のリスクが高い糖尿病の治療で知っておきたいこと
~ 肥満・糖尿病をよくするための3つのアプローチ ~

 東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・内分泌・代謝センター(千葉県佐倉市下志津564-1、教授:龍野一郎)では、肥満、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症を中心とした内分泌疾患及び代謝疾患について、臨床を通じ知見の蓄積に努めています。

 病状が進行すると合併症のリスクが高くなる糖尿病は、悪化する前に適切な予防や治療を行うことが求められます。当レポートでは、糖尿病をよくするための正しい知識や情報として、誰でもすぐに始められる食事療法のコツ、「食後高血糖」を抑える糖尿病治療薬、及び肥満外科治療の3つのアプローチについてお伝えします。

1、糖尿病の食事療法で気をつけたいこと

 糖尿病の食事療法では、摂取エネルギー量を減らすと同時に、糖質をはじめとする栄養バランスに気をつけることが大切です。1日の摂取エネルギー量は25~35?×*標準体重(㎏)、たんぱく質は1.0~1.2g×標準体重、に抑えるのが理想です。さらに、たんぱく質とともに三大栄養素を構成する糖質や脂質についても気を配る必要があります。   
*標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22


 日本人は平均すると、摂取エネルギー量のうち50~60%を糖質から摂取していますが、これを45%程度に抑えると糖尿病は改善に向かいます。
また、「食後高血糖」は糖尿病との因果関係が大きいことがわかっていますが、これも食事における糖質の比率を10%減らすことで、「食後血糖」が高くなりにくくなります。

糖質を低く抑えるポイントは以下の4つです。
① 主食量は控えめに、主食同士は重ねない。
② 芋類、豆類、果物類を食べる時は、さらに主食量を減らす。
③ 菓子、菓子パン、ジュース、お酒の量を見直す。
④ 外食や市販品では、主食を半分量にする。

また、糖質を減らした分、脂質の種類を工夫して質の良い油を増やすことが大切で、そのポイントは以下の4つです。
① 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い肉類、乳製品、マーガリンなどは増やさない。
② EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富な青魚を積極的に摂る。
③ 植物油は、オリーブ油、キャノーラ油、えごま油、亜麻仁油などを利用する。
④ 体脂肪になりにくい中鎖脂肪酸油を利用する。

2、糖尿病の改善につながる最新の治療薬

 糖尿病の治療で最も大事なのは「合併症の発症を予防すること」です。
合併症には、3大合併症(網膜症、腎症、神経症)と大血管障害(虚血性心疾患, 脳卒中, 下肢閉塞性動脈硬化症)があります。中でも大血管障害は、命にかかわるリスクがあるだけに注意が必要です。

 大血管障害の発症に大きく関わるのが「食後高血糖」です。
糖尿病は、血糖値を下げる働きをするホルモンであるインスリンの働きが悪くなったり、分泌量が少なくなったりすることに起因しますが、このインスリンの作用が不足することで引き起こしやすくなるのが「食後高血糖」です。

 経口血糖降下薬は、それぞれの病態にあった薬を選択することが重要です。


 「即効型インスリン分泌促進薬」は、食事の直前に服用することで、食後のインスリン分泌を促進させることにより食後高血糖の改善が期待できます。薬を服用してからインスリン分泌の効果が表れるまでの時間が短いのが特徴です。

 「α‐グルコシターゼ阻害薬」は、小腸からのブドウ糖吸収を遅らせることで、食後の血糖上昇を抑制することができます。空腹時の血糖が高くなく、食後に高血糖となるような患者さんがよい適応となります。
インスリン分泌促進系に効果のある「DPP-4阻害薬」は、血液中のDPP-4と呼ばれる酵素の作用を阻害することで、インスリンの分泌を促すホルモンのインクレチンの作用を長持ちさせます。この作用によって、食後の血糖値の上昇を抑えることができます。

 近年新たに「SGLT-2阻害薬」という種類の薬が登場しました。これは体内の過剰な糖を尿の中へ排泄させることにより血糖値を改善させる働きをもっています。この薬も食後高血糖を抑制することができます。この薬は、実際に大血管障害の発症を抑えることが証明され、たいへん期待されています。

 糖尿病治療薬の進歩には目覚ましいものがありますが、薬の適正な服用以上に大切なことは、糖質や脂質の制限を意識したバランスのとれた食事、及び肥満に陥らないための適度な運動による適切な生活習慣の維持・管理です。これらの生活習慣の是正ができてはじめて薬の効果が発揮されます。

3、肥満と糖尿病をよくする外科治療

 体格を相対評価した*BMIが35以上の高度肥満は、若いうちに減量しないと命にかかわる危険な兆候です。こうした高度肥満の人の内科的治療として、食事、運動、行動、そして薬物がありますが、これらの治療だけでは限界もあります。
*BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m)


 そこで選択肢として挙げられるのは外科治療です。
肥満外科手術とは、原則的に胃容積を縮小させて食事摂取量を減少させる手術のことで、胃容積の縮小と吸収制限を組み合わせた「胃バイパス術」と「スリーブ・バイパス術」、胃容積の縮小のみの「袖状胃切除(スリーブ胃切除術)」などの術式が代表的です。
なお、皮下脂肪の吸引や切除は肥満外科手術ではありません。

 肥満外科手術の結果、インスリン分泌を促進させる作用のあるホルモンが分泌されます。そして体重減少に伴い、インスリンがさらに作用しやすくなり、「食後高血糖」につながりにくくなると考えられます。
 外科手術の術式によって程度の違いはあるものの、長期的な体重減少に効果があったり、食欲抑制効果や糖代謝の改善を示したり、といった調査報告も示されています。
それぞれに特徴や問題点があるため、患者さんの病態やライフスタイルに応じた術式の選択を行う必要があります。
 現在、保険診療で受けられる手術は、「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」のみとなっています。これは、胃をバナナのように細長くすることで、食事の摂取量を制限する手術です。BMIが35以上で糖尿病などを合併する高度肥満の患者さんにのみ適用されます。

 その一方、肥満外科手術では、嘔吐が続くといった体調の異変や、食べることで保っていたライフスタイルや心のバランスが取り除かれることで、メンタルヘルスに新たな問題が生じることもあります。また、術後の定期的な外来通院ができない場合、リバウンドや合併症の可能性もあります。

 高度肥満は命にかかわる「病気」であるという認識のもと、適切な治療とチーム医療によるサポートが何より不可欠です。
東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・内分泌・代謝センターでは、一人一人の患者さんにあった最適な診療サービスの提供に努めています。

以 上

お問い合わせ先

東邦大学 法人本部 経営企画部
〒143-8540 大田区大森西5-21-16 TEL 03-5763-6583 FAX 03-3768-0660
Email:press[アットマーク]toho-u.ac.jp  URL:www.toho-u.ac.jp