プレスリリース 発行No.370 平成24年8月16日
小櫃川河口干潟で絶滅危惧種のカニを発見
~ ハクセンシオマネキ:東京湾では初記録 〔詳細情報〕 ~
2012年7月22日(日) 千葉県木更津市の小櫃川河口干潟において,絶滅危惧種に指定されているカニの一種、ハクセンシオマネキが風呂田利夫 教授 (東邦大学理学部生命圏環境科学科/東京湾生態系研究センター センター長)の調査で確認されました。東京湾で本種が見つかるのは、初めてのことです。確認されたのは、雄1個体のみですが、今後も継続的に複数個体が確認されるようになると本種の新たな生息地となる可能性もあるため、同センターでは、今後も継続的に観察していく予定です。 |

ハクセンシオマネキは、大きさ2cmほどの小型のカニで、雄の片方のハサミが巨大化し、体と同じくらいの大きさになるのが特徴です。国内では、主に伊勢湾以西の太平洋沿岸部に分布します。近年、主な生息地である干潟や河口域が護岸工事などにより破壊され、個体数が激減しています。そのため、本種は環境省のレッドデータブックで「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されています。
今回、千葉県木更津市の小櫃川河口干潟で確認されたのは雄の1個体。「木更津金田の浜活性化協議会」 副会長の金萬智男氏から「ハクセンシオマネキらしきカニがいる」と風呂田教授に連絡が入り、周辺を調査したところ本種の生息が確認されました。甲羅の幅が15.9mmであることから、去年の秋以前に入ってきたものと考えられます。
ハクセンシオマネキは、これまでにも主な分布域から外れた伊豆半島(青野川で2000年に確認)や三浦半島(江奈湾で1999年に確認)からの出現が確認されています。これらは、幼少期をプランクトンで過ごす特性から、黒潮の流れなどにより偶然流れ着いたと考えられます。カニや貝などといった底生生物(ベントス)の多くは、幼少期をプランクトンの状態で浮遊生活を過ごし、その後、干潟を始めとした沿岸域に着底して、大人へと成長していきます。ハクセンシオマネキのプランクトン幼生期は約2週間であり、その間、潮の流れに身を任せて、生まれ故郷の周辺海域を漂います。この時に日本の太平洋沿岸を流れる黒潮に完全に乗った場合、最大で一日約150km(流速 約3.4ノットの場合 ※1ノット=約1.8km/h)の移動も可能となります。房総半島から一番近いハクセンシオマネキの安定した個体群は和歌山県にあり、その直線距離は約400km、3日~4日もあれば到達する距離です。これらのことから、和歌山県以南で孵ったハクセンシオマネキの幼生が房総半島まで到達する可能性は十分にあると考えられます。

近年、シオマネキ類はたびたび分布域の北限を越える場所から確認されており、一部は定着した例もあります。本種でも集団が黒潮で流されて辿りつき、今回のように冬を越えて生き残った場合、白い扇を振りかざすような彼らのダンス(和名の由来)が東京湾の干潟で見られるようになるかもしれません。そのため、理学部 東京湾生態系研究センターでは、今後も継続的に観察を行っていく予定です。
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