看護学部

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学部長式辞

戴帽生への言葉

看護学部長  髙木廣文

戴帽生110名の皆様、本日はおめでとうございます。皆さんは、いまこの戴帽式で、キャンドル・ランプに火をともし、看護職の先輩である教員から、キャップを頭にかぶせてもらいました。これで皆さんは、看護師のための専門職としての、技術を身につけるための準備が整ったことになります。

東邦大学看護学部に入学して、この一年間、看護師にとって必要な、基礎的な学問や、人間性を養うための勉学に励んできました。この一年間、自分は本当に看護師を天職として、これからの人生を歩んで行くのかと、歩んで行けるのかと、そう何度も自問したと思います。

ランプは、ご存知のように、近代看護の創始者であるナイチンゲールの故事にちなんだものです。ナイチンゲールは、1820年5月12日生まれです。本学の戴帽式が、5月初旬から中旬にかけて行われるのは、このためです。

よく知られているように、ナイチンゲールは、クリミア戦争のために1854年11月にシスター24人と看護婦14人を引き連れて、スクタリに従軍します。現在では、トルコの第1陸軍の基地になっていますが、看護学部のヨーロッパ研修で訪問することができます。通常は訪問もかないませんので、是非訪れて、近代看護の発祥の地を、自分自身で体感していただきたいと思います。

さて、赴任直後の1855年2月には、スクタリとクルリを合算して、傷病兵の処置患者数の46.7%が死亡していました。これが、同年6月には2.2%まで、その死亡割合が下がるという成果を出しています。病院管理と看護の力が、疾病の治療に如何に影響が大きいかを世界に知らしめたものでした。ナイチンゲールは、1856年8月にイギリスに帰国するまでの間、従軍したスクタリの野戦病院で、夜回りを欠かさなかったといわれています。「クリミアの天使」と呼ばれることが多いナイチンゲールですが、この夜回りのために「ランプの貴婦人」とも呼ばれたそうです。ナイチンゲール自身は、そういったイメージで見られることを喜んでいなかったようです。しかし、このような言い伝えがあるほど、病人を人として大切に思う、ナイチンゲールの精神の、心の象徴を表しているものだと思います。

現在では、キャップは使われなくなってしまいました。キャップが病気の感染源になるリスクがあるとか、また日常の業務で患者に対して危険であるとかの理由によります。しかし、キャップは、ナースの象徴として長い間、世間一般に浸透しており、特別な意味を持っています。それは、天職としての看護師、という専門職を選んだ人の「証」だと思います。

ナイチンゲールは、多くの書物を書いていますが、1882年に書かれた『看護婦の訓練と病人の看護』の中で、次のように述べています。まず、看護とは何かと言うことに関して、
『看護とは、患者が生きるよう援助することであり、「訓練」とは、患者が生きるように援助することを看護師に教えることにほかならない。看護はひとつのアートであり、それは実際的かつ科学的な、系統だった訓練を必要とするアートである。』と述べています。これから、皆さんは専門職としての、看護の専門的な知識を学び、それと同時に、専門職に必要なアートを実際に学ぶことになります。戴帽式は単なる行事ではなく、看護師という専門職のための、そのための皆さんの心の準備の確かさを示すための、重要な儀式なのです。

最後に、もう一つナイチンゲールの言葉を、戴帽生の皆さんに贈りたいと思います。1860年に、ナイチンゲール基金をもとにして、ロンドンの聖トーマス病院に、通称、「ナイチンゲール看護学校」が設立されています。ナイチンゲール自体は、そこで教鞭をとらなかったようですが、1872年から1900年にかけて、病院で働く卒業生と学生のために、ほぼ1年に1通ずつ、合計で14通の書簡を送っています。その中の言葉のひとつです。

『あなた方は、進歩しつづけない限りは、退歩していることになるのです。
目的を高く掲げなさい。二年目も三年目も、またあなたの生涯を通して、この最初の一年に築いた基礎の上に立って、自分を訓練し続けなければなりません。』

専門職にこれでよいという、知識にも技術にも限界はありません。戴帽生の皆さんが、無事に専門職としてのサイエンスとアートを身につけ、東邦大学の看護学部を巣立って行く日を楽しみにしております。そして、十年後、二十年後にも、理想の専門職になるために、自分の知識と技術にさらに磨きをかけていることを念願しています。
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