JABEEとは何か
2015.06.11 UP
東邦大学理学部物理学科のカリキュラムは、物理・応用物理学関連分野では国内で初めてJABEE(日本技術者教育認定機構)により認定されました。
JABEE認定プログラムとは何か?
はじめに
東邦大学理学部物理学科のカリキュラムは、「物理ベーシックコース」 と 「物理エンジニアコース」 という2つのコースに分かれています。このうち「物理エンジニアコース」は、 JABEE(日本技術者教育認定機構)により 物理・応用物理学関連分野で初めて 2004年度認定プログラム として認定、公表されました。これにより当学科の教育内容が技術者教育の国際水準を満たしていることが、客観的に証明されたことになります。現在のところ、 理学部物理学科としては、全国唯一のJABEE認定プログラムになります。
「物理ベーシックコース」と「物理エンジニアコース」にわかれるのは、3年次の開始時です。しかし、1、2年次の必修科目についても学習教育目標 の達成の是非を問われますので、注意が必要です。コース分けは学生の希望により行われ、3年開始のガイダンスの際に配布される成績表により、自己チェック をした後、希望を出すことになっています。 コース間の移籍は、3年秋学期開始時、4年春学期開始時のみに認められており、そのほかの機会はありません。また、ベーシックコースからエンジニアコースへの移籍は認められません。
物理エンジニアコースでは、技術者としての必須な素養を育むべく、いくつかの必修科目が追加されると共に、 学習教育目標(下記参照) が定められており、それを満たしたかどうかが問われます。当然ハードルは厳しいものとなり、2004年度の発足以来、2014年度までの10年間で「物理エンジニアコース」の修了生はわずか119名です。
一方、 「物理ベーシックコース」 は、 他学科開講科目も含めて多様な選択科目を自由に履修することができるよう配慮されており、必修科目は少なめに設定されています。所定の条件を満たせば、3年ないし3年半での早期卒業も可能です。この制度を利用して3年終了時で早期卒業し、大学院に進学した学生もこの10年間で5名程度います。
認定機関
10年程前まで(今でも一部では)、日本における民間企業への就職は、実質上「どこの大学の何学科を卒業したか」がまず重要でした。これは、大学卒というものに対して暗黙の評価を企業側が与えていてそれに基づいて行われたと思っても差し支えないでしょう。しかし、最近はネット環境の活用と、即戦力、あるいは本当に優秀、必要な人材を求める風潮から、「どこの大学の何学科を卒業したか」から「どのような資格をもっているか」、「どのような知識、能力があるか」など個人の資質を重視する傾向になってきています。また、「どこの大学の何学科を卒業したか」は、国際社会では通用しないことも明らかになってきました。
実は、欧米では早くから「どこの大学の何学科」を一企業の暗黙の評価ではなしに、公の評価として公表していました。それが、いわゆるワシントンアコード:WA(1989年)です。これは、「互いの国での技術者の教育レベルを保障しあおう」という目的で、技術者教育の質的同等性を国境を越えて相互に承認し合う協定です。現在、WA加盟団体により認定された大学の教育プログラム(大学と学科名)が、冊子となって世界中に流布し、国際標準ともいうべきものに育っています。2002年、日本でもこれに参加すべくJABEE (Japan Accreditation Board for Engineering Education:日本技術者教育認定機構)による認定制度が始まりました。認定の大きな目的は、教育の質的保証にあります。すなわち各プログラムが設定する成果の水準が、技術者に期待される学士レベルの基礎教育として妥当であるかどうかを審査認定する非政府組織です。2005年6月に、JABEEはWAへの正式加盟を果たしました。これによって、JABEE認定教育プログラム修了者が国際水準を満たすことが、国内外で正式に認められることになりました。
技術の意味
物理学科を目指す学生諸君たちは、「科学 Scienceを学びたいのであって、技術Technologyを学びたいのではない。」と思われるかもしれません。しかし、科学と技術は常に密接に結びついており、科学を学び、そしてそれをある程度修めているということ自体が技術者にとって必要な素養であると我々は考えています。学部卒業後、大学院に進学する人も多いです(当学科の場合、約4割の学部卒業生が進学しています)が、修士課程を修了後は、民間企業あるいは公的機関の技術者としてその後の人生を歩むケースが大半を占めるのも事実です。ですから、科学者を目指して理学部に入学した学生にとっても、技術者教育を受けることは決してマイナスとはならないのです。ましてやそれが国際水準を保障されているのですから。
「即戦力」という言葉をよく耳にします。しかし、すぐに役に立つ知識や技術は、必ずしも長持ちするとは限らないのです。科学技術は常に進化しています。そのような変化に対応し、普遍的な知識や技術を身につけるには、基礎をしっかりと固めることが最も重要です。物理学はまさにその土台となる学問であり、それを習得した人こそが真の技術者としての資格を有すると私たちは考えています。
認定の意味
認定教育プログラムを修了した 学生は、改正技術士法により国家資格である 技術士の第 1 次試験が免除されます。また今後、「JABEE 認定教育プログラム修了者を優先して採用する」という企業が出現する可能性もあります。実際に、修了者の初任給を引き上げようとする発言等も JABEE のホームページ(
http://www.jabee.org/ )では紹介されています。「物理エンジニアコース」は、このような時代の流れにいち早く対応したプログラムであると言えます。 このコースを通じて、一人でも多くの人材が国際社会の舞台へとはばたくことを期待しています。
JABEE認定をうけるには
JABEE認定を受けるには、下に示される認定基準をクリアしている必要があります。詳しくは、
日本技術者教育認定機構(JABEE)のページに示されますが、物理・応用物理学関連分野では次のような内容が求められています。我々のプログラムがもつ学習教育目標が下の基準に合致し、かつそれを行っていることを証明しなければ認定は受けられません。したがって、コース修了者は下に示された能力を有することになっているわけです。
認定基準の一部(このほかに学習保証時間があります)
次の知識・能力
(a) 地球的視点から多面的に物事を考える能力とその素養
(b) 技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、及び技術者が社会に対して負っている責任に関する理解
(c) 数学及び自然科学に関する知識とそれらを応用でする能力
(d) 当該分野において必要とされる専門的知識とそれらを応用する能力
(e) 種々の科学、技術及び情報を活用して社会の要求を解決するためのデザイン能力
(f)論理的な記述力、口頭発表力、討議等のコミュニケーション能力
(g) 自主的、継続的に学習できる能力
(h) 与えられた制約の下で計画的に仕事を進め、まとめる能力
(i) チームで仕事をするための能力
dの内容
(1)基礎能力
a)数学(微積分学、線形代数学、ベクトル解析、物理数学)、物理学(力学、電磁気学、熱物理学、量子物理学)、基礎実験、情報科学に関する基礎知識および基礎技術
b) a)を駆使して課題を理解し、的確に解決して、それらを適切に表現し、その内容を正しく伝達できる基礎能力
(2)専門能力
本分野の主要領域のうち、物理・応用物理一般領域に関する下記の能力
a)各領域に対するプログラムの設定目標実現に必要な専門科目を系統的に修得した専門知識及び専門技術
b) a)の知識・技術を駆使して課題を探求し、的確に解決する能力
c)本分野に携わる専門技術者が経験する実務上の課題を理解し、的確に解決して、それらを適切に表現し、その内容を正しく伝達できる能力