理学部物理学科

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コラム 『ガリレオの部屋』

 このページには、物理学科の教員が主に高校生向けにいろいろなお話を載せることにしました。物理学科の教員がどんなことを考えているのか、物理学の魅力は何なのか、文章の裏側にあるそんなメッセージを受け取っていただけたら幸いです。

第9回  「対称性の破れ」

第9回 「対称性の破れ」01

日光東照宮の陽明門は江戸時代初期の彫刻・金具・彩色技術を集約し,人工美の極致といわれていますが,その柱のうち1本の渦巻き文様がわざと逆向きに彫られていることもよく知られています。完全なものに対する畏れがあったのでしょうか。
(写真は日光東照宮の陽明門。中央の柱の渦巻き文様が逆向きに彫られている。) 

さて,先日発表された2008年ノーベル物理学賞は3人の日本人,南部陽一郎先生と小林誠,益川敏英両先生の同時受賞で大変うれしいニュースでした。ノーベル賞の公式サイトを訪問し,受賞理由を確認してみましょう。南部先生は「素粒子物理における自発的対称性の破れの仕組みの発見」,小林・益川両先生には「3世代以上のクォークの存在を予言する対称性の破れの起源の発見」とあります。「対称性の破れ」がキーワードですね。

南部先生は「自発的対称性の破れ」の考え方を素粒子物理に初めて導入しました。「自発的対称性の破れ」とは外力の作用によるのではなく,ある特定の非対称な基底状態を任意に選ぶことによってその系が本来もっている真の対称性が隠されるものを指します。超伝導現象の考察から生まれたこの概念は,今では素粒子物理の標準理論の根幹をなすものとなっています。標準理論では電磁気力と強い力がゲージ不変性にもとづく理論でうまく説明され,くりこみ可能(計算に使える理論)であることも証明されました。しかし,ゲージ理論では力を伝える粒子の質量がゼロでなければならないことから弱い力への応用は困難に直面します。電磁気力を伝えるフォトンや強い力を伝えるグルーオンの質量はゼロですが,弱い力を伝えるWやZの質量は明らかにゼロではありません。重いW, Zボゾンをゲージ理論にどう適応させるのか。その答えが「自発的対称性の破れ」とヒッグス機構です。南部先生はこの他にもストリング理論の定式化や強い相互作用のもととなるカラーの導入など革新的なアイデアを提唱されましたが,「早すぎて」ノーベル賞には縁がありませんでした。新しい大型ハドロン衝突型加速器LHCがCERNで今年9月から運転を始め,標準理論の検証とヒッグス粒子の発見が期待されています。その理論的基礎を築いた南部先生の業績に光が当たることになりました。
小林先生と益川先生の研究された対称性の破れは南部先生の研究対象とは別種のもので,荷電共役(C)変換と空間反転(P)変換を同時に行ったときの対称性(粒子と反粒子の対称性)に関するものです。通常の素粒子実験ではまったく違いがないように見えるため,この「CP対称性の破れ」が1964年に中性K中間子の崩壊で発見されたときには大きな驚きをもって迎えられたようです。しかし,これは粒子(物質)だけの宇宙ができるためには必要不可欠な条件です。この「CP対称性の破れ」を弱い相互作用のくりこみ可能な理論の枠組みの中で研究すると4種類のクォークでは足りず,新しい場(6種類のクォーク)が必要になると結論付けたのが小林先生と益川先生の論文です。(クォークが3種類しかないと思われていた時代になぜ4種類から議論を始めたか。それは1971年に宇宙線反応中で発見されたチャーム粒子をめぐる議論が活発な環境にいたからと言われています。)この1973年出版の小林・益川理論が検証されたのはごく最近のことでスウェーデン王立科学アカデミーの文書でも2002年の日米のBファクトリー実験,BelleとBaBarの論文が引用されています。ともに,5番目のクォーク(b)を含むB中間子・反B中間子対を大量に生成して粒子と反粒子のわずかな違いを精密に測定し,小林・益川理論の正しさを実験的に証明しました。
第9回 「対称性の破れ」02

宇宙の基本的な原理としての対称性の存在は自然な気がします。しかし,その対称性がわずかに破れる原因は何か。深まりゆく秋の夜長に,宇宙の対称性の破れとその起源について考えてみるのもよいのではないでしょうか。

(基礎物理学教室 渋谷寛)

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