理学部物理学科

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コラム 『ガリレオの部屋』

 このページには、物理学科の教員が主に高校生向けにいろいろなお話を載せることにしました。物理学科の教員がどんなことを考えているのか、物理学の魅力は何なのか、文章の裏側にあるそんなメッセージを受け取っていただけたら幸いです。

第8回  「物理の常識、世間の常識」

世の中の常識では対処できない場合のあること

第8回 「物理の常識、世間の常識」01

 ここで一つイメージトレーニングをしてみましょう。今あなたは高速道路を走行しているとします。目の前に一台の車が迫って来ました、あなたは追い越し車線に愛車を駆り、ぐっとアクセルを踏み込み加速して追い抜きました。めでたしめでたし。
 さて、状況は変わってあなたはスペースシャトルの船長です。数百メートル先に宇宙ステーションが同じ速度で地球の周りを回っています。ミッションを終えたあなたは地球に帰還するため、逆噴射を行ってスペースシャトルを減速し宇宙ステーションから離れようとしました。ところが次の瞬間、予想に反して宇宙ステーションが近づいてくるのを目撃し、大慌てで横方向に回避しました。くわばらくわばら。
 衛星軌道上で減速するためには、スペースシャトルのロケットエンジンを噴射し軌道高度を上げなければなりません。うっかり逆噴射すれば軌道高度が下がって速くなり追突しかねません。しかし、高速道路上で前の車との車間をあけるつもりで、うっかりアクセルを踏み込んでしまったら即大事故ですね。このように宇宙の常識と地上の常識は大きく異なる場合があります。
 地上における無意識の動作は、私達が地上という濃い大気の下で重力に縛りつけられた日常生活を送っていることに基づいて身についてしまったもので、異なった環境下では重大な結果を招きかねないことが、宇宙船の操縦のような「人類史上始めて遭遇した問題」で明らかになったわけです。身についた無意識の動作や世間の常識が、危険な結果をもたらす可能性のある未来社会が迫ってきています。

世の中の常識の成り立ちについての一考察

 世間の常識の一例を見てみましょう。「重い物体と軽い物体を同時に落としました。どちらが早く地面に到達するでしょうか?」高校生の皆さんなら同時とお考えでしょう。これが物理学の常識ですが、はるか昔のギリシャ時代には、当時もっとも優れた哲学者でさえ重い方が速く落ちると信じていました - ギリシャ時代といえば、地球が一周4万キロメートルの球体(当時の単位は違いますが)であることを知っていた学者さえいた時代です!- 今日でも多くの人は重い方が早く落ちると考えているかも知れません。このコラムの由来となっているガリレオ・ガリレイは、ピサの斜塔を使った落下実験と巧妙な考察を駆使して、落ちるのに要する時間は重さによらずに等しいことを発見しました。今日学校で学ぶのはこの結果です。
 日常生活では、突然頭上に落下してくる物として色々なものが考えられます。蒲団、自動車、風船、ガリレオの落とした石など、いろいろなものが落ちてくる可能性があります。重いものほど危険ですから、早く逃げないと大変です。どれが早く落ちるか考えている暇はありません。そのような経験からすれば、「重い物が落ちてくる時はできるだけ早く逃げる」という常識が身につくのではないでしょか。重い物は早く落ちるということは物理的には正しくないかもしれませんが、落下物への対処法にとって有益な情報を与えていることは間違いありません

予想もつかない未来に備えて

第8回 「物理の常識、世間の常識」02

 上の例のように、物理的には誤りを含む場合のある世間の常識は、地上という条件下の現実を生き抜いて行くために、最も有益な知恵が常識として定着したものだと思われます。しかし冒頭に掲げた例のように、未来社会では科学の発達により人間の経験した事のない現象や物事が、頻繁に出現するようになると思われます。このため、身についてしまった動作や考え方が危険をもたらす場面に遭遇するかもしれません。
 これらの諸問題に対処するため、正しい動作が自然とできてしまうような知識、洞察力、理解力を身につけておくことが、以前に増して求められるはずです。物理学のような基礎学門を学ぶことは、そのための重要なアプローチ法の一つなのです。

(量子エレクトロニクス教室 箕輪達哉)

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