理学部物理学科

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コラム 『ガリレオの部屋』

 このページには、物理学科の教員が主に高校生向けにいろいろなお話を載せることにしました。物理学科の教員がどんなことを考えているのか、物理学の魅力は何なのか、文章の裏側にあるそんなメッセージを受け取っていただけたら幸いです。

第6回  磁石と磁区のはなし その1

第6回 磁石と磁区のはなし その1-01

 子供のころ、針、ピン、ゼムクリップなどを磁石でこすると、それ自体が他の針などを引き付けるようになったのを見た人は多いと思います(写真)。買ったばかりの針などは、他の針などを引き付けることはないので、磁石から磁力が移ったように感じます。また、このような説明でなんとなく納得していた人も多いかもしれません。

第6回 磁石と磁区のはなし その1-02

 でも、この現象を説明するには「磁区」というものを知らなければなりません。それほど難しいものではありませんが、中学や高校では習わないので、子供のころから良く知っている現象も、「なんとなく」しかわからないままになります。
 実は、針も磁石も、もともと「強磁性」という性質をもつ材料からできています。強磁性とは磁石に強くひきつけられる磁気的な性質です。強磁性体の中には原子レベルでミクロな磁石(磁気モーメントと呼ぶ)が詰まっています。というより、電子自体が電気を持って回転(スピン)しているため電磁石と同様に磁気モーメントを持っています。強磁性体は、このミクロな磁気モーメントがでたらめではなく、図のように自発的に整列して詰まっている物質です。
 そうだとすると、表面に現れたN極とS極から磁力線がでるので、針も買ってきたとき(作ったとき)から磁石になってなければならないことになります。しかし、そうはなりません。表面に出てきたN極とS極は磁性体の外に磁力線を出すのと同時に、磁性体内部にも磁場をつくるのですが、その内部にできる磁場(反磁場と呼ばれています)はN極からS極に向かうので、内部のミクロの磁気モーメント(ミクロな磁石)の整列を困難にさせてしまうことがあります。そこで、強磁性体内部ではいくつか方向の異なる磁気モーメントのそろった領域に分かれ、磁気的なエネルギーを下げることになります。この領域のことを「磁区」と呼ぶわけです。

第6回 磁石と磁区のはなし その1-03

 図には磁区の例を模式的に示してあります。右の図を見ると、方向の異なる四つの磁区にわかれています(磁区の中に含まれる個々の磁気モーメントを書くのは省略してあります)。このような磁区では表面にN極もS極も現れずに反磁場によるエネルギーは小さくなります。ただし、磁区と磁区の境目は「磁壁」と呼ばれ、磁気モーメントの向きが急に変わるのでエネルギーが高くなります。結局、磁区がどのような形で出現するかは、反磁場によるエネルギーと磁壁のエネルギー(そして、ここでは説明を省略しますが、異方性のエネルギー)の兼ね合いで決まります。
 このような磁区ができるため、買ったばかりの針などは外に磁力線を出すことがなくお互いにくっつきあわないのです。では、磁石でこするとどうしてそれ自身が磁石になるのでしょうか。長くなりますので今回はこのへんでおしまいにして、次回、その理由をお話しましょう。

(磁気物性学教室 齊藤敏明)

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