コラム 『ガリレオの部屋』
第5回 「アメンボ電子」その2

それでは、液体中に入った電子について考えましょう。液体中の電子はヘリウム原子に囲まれておとなしくしているかというと、そうではありません。量子力学の教えることの一つに、電子のような粒子を狭い領域に閉じこめると、激しく動いて抵抗?するというのがあります。この抵抗は閉じこめ領域が狭いほど強くなります。すなわち、粒子は閉じこめられるのを嫌うというわけです。液体中にはいった電子も、この性質を発揮して、周りのヘリウム原子を押しのけて、自由に動けるテリトリーを確保しようとします。電子が用いるのは体当たり戦術です。持っている運動エネルギーを使って、押し寄せるヘリウム原子に体当たりして押し戻すのです。四方八方から押し寄せる原子に対処するために電子は東奔西走します(図5)。その結果、電子は、球形のテリトリーを作って、安定な状態になることができます。このテリトリーの中には電子が1個あるだけであとは何もありません。これを「電子バブル」と呼んでいます。半径が1.5 nm(ナノメートル)程度の小さなものです。なお、電子バブルの半径の大雑把な値は、3年生で量子力学を勉強すれば簡単に計算できます。
(梶田晃示 名誉教授)