理学部物理学科

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コラム 『ガリレオの部屋』

 このページには、物理学科の教員が主に高校生向けにいろいろなお話を載せることにしました。物理学科の教員がどんなことを考えているのか、物理学の魅力は何なのか、文章の裏側にあるそんなメッセージを受け取っていただけたら幸いです。

第5回  「アメンボ電子」その2

前回のアメンボ電子の話はどうでしたか? 今回は電子が液体の中に入ったらどうなるのかを考えてみましょう。前回、電子は液体の中に入らないと言いましたが、電子を無理矢理液体の中に引きずり込む方法があります。そのためには、液面を挟んで、2枚の金属板を設置し、その間に電圧を掛けて図4のような方向の電界を作ります。ヘリウム面上の電子は電界からの力を受けて液体の中に入ろうとしますが液面の所で押し戻されてしまいます。しかし相手が液体なので、電子が液面を押す力によって、電子の下に小さな窪みができます。電界を強くしてゆくと、液面の窪みが次第に深くなってきて、ついには、電子の圧力に耐え切れなくなったヘリウムが道を空けて電子はドボンと液体の中に入り込みます。
第5回 「アメンボ電子」その2

それでは、液体中に入った電子について考えましょう。液体中の電子はヘリウム原子に囲まれておとなしくしているかというと、そうではありません。量子力学の教えることの一つに、電子のような粒子を狭い領域に閉じこめると、激しく動いて抵抗?するというのがあります。この抵抗は閉じこめ領域が狭いほど強くなります。すなわち、粒子は閉じこめられるのを嫌うというわけです。液体中にはいった電子も、この性質を発揮して、周りのヘリウム原子を押しのけて、自由に動けるテリトリーを確保しようとします。電子が用いるのは体当たり戦術です。持っている運動エネルギーを使って、押し寄せるヘリウム原子に体当たりして押し戻すのです。四方八方から押し寄せる原子に対処するために電子は東奔西走します(図5)。その結果、電子は、球形のテリトリーを作って、安定な状態になることができます。このテリトリーの中には電子が1個あるだけであとは何もありません。これを「電子バブル」と呼んでいます。半径が1.5 nm(ナノメートル)程度の小さなものです。なお、電子バブルの半径の大雑把な値は、3年生で量子力学を勉強すれば簡単に計算できます。

電子は安定な状態になりましたが、安住する(テリトリーの真ん中でのんびりする)というわけにはいかず、ヘリウムとのせめぎ合いは永遠に続きます。そうすると、「そんなことをしている内に、電子はエネルギーを失って止まってしまうのではないか。そして、テリトリーは消えてしまうのではないか」と心配になります。古典力学で考えるとそうです。しかし御心配なく。量子力学によれば、この場合、電子とヘリウム原子のせめぎ合いがあっても、エネルギーは変化をしないのです。なぜなのかは、量子力学を勉強するまでのお楽しみ。

(梶田晃示 名誉教授)

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