コラム 『ガリレオの部屋』
第10回 「すばる望遠鏡研修に行ってきました」

2008年11月2日(日)から8日(土)にアメリカ・ハワイ島の「すばる望遠鏡」への研修が、物理学科主催で行われました。2002年秋から2年ごとに実施されてきた本研修も、今年で4回目を数えます。今回は、物理学科の学生10名(3年生4名、 4年生6名) と引率教員2名が参加しました。
すばる望遠鏡は、日本の国立天文台がハワイのマウナ・ケア山頂に建設した、世界最大級の光学赤外線望遠鏡です。マウナ・ケアとは、ハワイ語で「白い山」という意味で、熱帯のハワイにあっても、冬には標高4200mの山頂が雪で覆われて真っ白になることから名づけられたそうです。 私たちが訪問した11月上旬にはまだ雪はありませんでしたが、日没後は氷点下まで気温が下がります。また、山頂では気圧がふもとの6割しかないので、高山病の症状が出ることもあります。今回の参加者にも、軽いめまいや息苦しさを感じた人がいましたが、酸素ボンベと車いすの助けを借りて、無事(?)に見学することができました。(写真が日本の誇る「すばる望遠鏡」)

実は、このように人間にとっては苛酷な環境が、天体観測には絶好の場所になります。なぜかと言うと、天体観測の最大の敵は「空気」だからです。例えば、夜空の星がまばたいて「★」のように見えるのは、まさに空気のためです。星はとても遠方にあるので、もし空気がなければシャープな点にしか見えないはずなのですが、空気中の塵や水蒸気によって星からの光が反射・屈折され、ぼやけてしまった姿を地上では見ているのです。まばたいた(ぼやけた)星の姿も確かに美しいのですが、やはり天体の本来の姿を観測するには、できるだけ空気のない場所が望ましいことになります。マウナ・ケア山頂は、空気の薄さに加えて、大気の安定性や晴天率などの点からも、天体観測に最も適した場所と考えられており、世界屈指の望遠鏡がずらりと並んでいます。その中にあって、ユニークな円筒型をしたすばる望遠鏡のドームは、遠くからでもすぐに見分けがつきます。(写真は、マウナ・ケア山頂に並び立つ望遠鏡群。実は「すばる」から撮っているので、すばる自体は左下に影だけ写っています)

望遠鏡ドームの内部に入ると、まずその寒さに身震いします。これは外との温度差を抑えて気流を安定させるように調節されているからで、観測精度を上げるためにあらゆる工夫が施されていることを実感できます。ドームの心臓部には、世界最大の一枚レンズをとりつけた望遠鏡本体がありました。直径 8.2m というサイズが大きいのは言うまでもありませんが、さらに驚くべきはそれがほぼ完璧な平面に磨き上げられ、精密に制御されていることです。仮にレンズの大きさを関東平野に例えると、わずか紙一枚分の凸凹しかないとのこと! 製作に7 年かかったというのもなるほどうなずけます。また、天体を追尾して望遠鏡本体が傾けば、どうしてもレンズには歪みが生じてしまいますが、レンズの裏側には261本のロボットの指(アクチュエーター) がはめ込まれていて、常にレンズを理想的な形に保っています。肉眼の約140万倍の集光力を持つこのレンズによって、128億光年という途方もない距離にある原始銀河や、太陽系外の惑星など、次々と新しい発見がされています。見学した学生さんたちも、「鮮やかなメタリックブルーのすばる望遠鏡は、性能も美しさも世界一だと思いました」、「巨大な望遠鏡本体が実際に動いて傾いていくのを目の当たりにして興奮しました! 」と、その迫力に感心しきりでした。(写真はドーム内部から見た望遠鏡本体)
(宇宙物理学教室 北山哲)