理学部情報科学科

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インターネットでの放送型通信 3

放送型転送と転送帯域(土管の太さ)の確保

 ここで、放送型転送の原理とその利点を整理しましょう。問題を言い換えれば、どうして普通の(つまり1対1の)インターネット通信では具合が悪いのか、という問題です。放送は同じ内容のデータを多数の受信者に同時に届けるのですが、そのときに放送型転送は、分岐点でデータをコピーするという方法で送ります。それをよく見ると、1つの線の上には、その下流に受信者が何人居ようと同じデータは1コピーだけしか流れない、ということになっています。だから、サーバーにとっては1コピーだけ送出すればいいので負荷が軽い、ネットワークにとっても特にサーバーを出てすぐの回線でも1コピーだけ転送すればいいので負荷が軽い、ということになります。逆に1対1通信を端末の数だけ行うとすると、サーバーは端末の数だけデータを送らなければならないし、サーバーを出てすぐの回線も端末の数だけデータを転送しなければならないわけですから、端末数が十万、百万となれば差は明白です。(図1参照)

 というわけで、放送型通信つまりマルチキャストは具合がよいのですが、いくつかの問題があります。

 第1の問題は、放送局(送信サーバー)から受信端末までの通信路の太さが、端末によって異なるということです。通信路の太さというのはたとえば「フレッツADSLだと毎秒XXXメガビット、光ファイバのBフレッツだと毎秒XXXメガビット」というこの値のことです。これは1秒間に通すことの出来るビデオデータの分量を示したもので、水道で言えば土管の太さに相当します。太ければ毎秒たくさんのデータを通せますが、通信回線の種類や契約によって変わってきます(一般に太くなると高くなります)。ビデオ転送の場合、1秒間あたりのデータ量が大きいほど一般には画像がきれいになります。普通のテレビの場合、衛星ディジタル放送で毎秒6~8メガビット、インターネット上でよく使われている動画は毎秒数百キロビットから1~2メガビット程度が多いでしょう。ハイビジョンのようにきれいな絵を送るとなると毎秒20~30メガビット必要になります。
経路が細かくてデータが届かない
 今見てきたのは通信路の種別や契約による太さの話ですが、実はもう一つ太さを制約するものがあります。それは同じ通信路を他の人がどれだけ使っているかです。通信路は、最後に家に届くところは自分ひとりで使うかもしれませんが、その上流では大勢の人が共有しています。上流の土管の太さは、その下流で流したい量の総和の分だけ必要ですが、他の人がたくさん流せば総和は増えてしまい、場合によっては土管の物理的な太さを越えてしまうことも起こります。現在のインターネット技術ではこういう場合はその下流のユーザが全員が似たような割合で削られるような影響を受けます。特定のユーザが優先的に流量を確保するといった仕組は、技術的には開発されていますが、コストが高くなるために用いられていません。

 さて、このように放送局(サーバー)から受信端末にいたる通信経路の途中の太さが、物理的・契約上の太さによって、また他のユーザの通信量の影響によって変化するということは、放送型通信にとっては格段に厄介なことになります。放送の場合、送出元はすべての受信端末に対して同じデータを送る、つまり全員に同じ太さの流れとしてビデオを送り出すことになります。それが、あるユーザにとっては途中が混んでいるために土管の太さが不足して、データが全部は届かない、一部が土管から溢れてこぼれ落ちて届かない、ということが起こるのです。これは、1対1の通信ではサーバーが送り出す速度を途中経路の状況に合わせて加減することによって防ぐことができますから、放送型通信に特有の問題だといえます。また、電波を使った現在の放送でこれが問題にならないのは、電波は全てのユーザに対して同一の太さの土管を提供しており、かつ他の通信と共有していないので、通信路の太さが保障されている(これを帯域保障と言います)からです。

 この問題に対して、幾つかの解決案があります。まず、放送型通信は今のインターネットとは別のネットワークで送るという方法で、その中では送信できる人を制限することによって、土管の使い方を管理者がきっちり決めてしまおうというものです。この考え方は、今のインターネットの誰でも発信できるという考え方とはまったく異なるので、おそらくまったく別のネットワークを作ることになり、コストが高くつくことが予想されます。

 もう1つの方法は、今のインターネットの中で放送型転送を使い、更にビデオ放送のために一定の土管容量を確保するという方法です。現在のインターネット技術でも、太さの確保をするための仕組を作る技術としてRSVPやdiffservなど幾つか提案され標準化されています。いずれも極端に大きな投資をせずに太さの確保の仕組を実現できますが、問題は、今の基幹の土管(基幹回線)の使い方が「混雑しても構わない」を前提に考えられ値付けされているために、そこへ「太さを確保したい」お客さんが来ると窮屈になります。比喩として通勤電車を考えると分かると思います。都会の通勤電車は、ラッシュアワーにはギュウ詰めを前提にダイヤが設計されています。お客さんはかなりひどい状態の車内でも同じ料金で我慢して乗っています。もし一部の客が「必ず座りたい」といったらどうなるか。当然指定席料金を貰うことになりますが、周りに人がギュウ詰めで立っているのが嫌ならば、列車を増発しない限りその余分なスペースは確保できないでしょう。現在の2~3分間隔の通勤ダイヤの中では、列車を増発するのは難しいし、新しい線を引くのは巨大な投資が必要です。現状では、ピーク混雑時には窮屈かもしれないが、その結果運賃が数百円に押さえられている。首都圏のJRの一部の線で通勤電車にグリーン車を付けてこのサービスをしていますが、その場合グリーン料金の750円(50Kmまで)なり950円(50Km以上)を余分に払う必要があります。つまり、ネットでもビデオのために太さの確保をすると、余分な料金(額は分かりませんが、鉄道ではほぼ2倍になっています)を払うのかどうか、ということになります。

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