最近、身内を装ってお金を騙し取るという悪質な犯罪が多発しています。例えばオレオレ詐欺では、間違いなく携帯電話が使われています。携帯電話は固定電話より音質が劣っているため、声だけでは本人かどうかの判別が困難なのです。オレオレ詐欺は携帯電話の「音質の悪さ」を巧みに利用した犯罪です。今回は、携帯電話の音質が低下してしまう使用環境について解説します。

図1は、雑音の少ない静かな環境で、男性が「あ」と発声した音声の波形です。この波形は0.03秒という短い時間に3回の周期が見られます。1周期が0.01秒ですから、この声はおよそ100Hzの低い声です。「あ」は周期的で少し複雑な波形ですね。図１の波形は毎秒8000回、デジタルの波形として記録したものです。

図２は波形「あ」の周波数成分を分析した結果です。横軸は周波数、縦軸は周波数成分の強度です。毎秒8000回記録したデジタル波形に対しては4000Hｚまでの周波数成分を調べることができます。「あ」には、低い周波数だけでなく高い周波数にも強い成分が含まれていることがわかります。この図ではフーリエ変換という方法で周波数成分を求めています。人間は音声に含まれる強い周波数成分を主に聴きとっています。携帯電話ではこのことを利用して、音声の周波数成分をフーリエ変換よりも効率的に表わす方法を使っています。この方法はLPC分析と呼ばれています。