1.海洋酸性化とは?

大気中の二酸化炭素濃度が増加すると海洋中に溶け込む二酸化炭素の量も増加して海が酸性化すること。


2.なぜ海は酸性化するのか?

産業革命が始まって以来、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料が大量に燃やされ、森林伐採が進み、5000億トン以上ものCO2が排出されてきた。
大気と海に排出されたガスは、まずは水深100メートル付近まで広がる。その後、ガスは海流に乗り、何百年もかけて深海まで運ばれる。
大気中の二酸化炭素の量も増加し、海洋が酸性化することになる。


(※1)


3.海はどれくらい酸性化しているのだろうか?

純粋な蒸留水は中性で、pHは7。pHが7より低ければ酸性で、値が低いほど強い酸性になる。
海水は弱アルカリ性で、海面の近くのpHは8.2前後だがCO2吸収量の増加で、これまでに海洋の表層水のpHは産業革命以前と比べて約0.1低下して
いる。pHが0.1下がると、酸性度は30%強くなる。今のペースでCO2の排出が続けば、2100年には表層水のpHは7.8まで下がり、1800年と比べて150%
も酸性度が強まる。



4.酸性化は元に戻せないのか?

これまでに進んだ酸性化は、おそらく元に戻せないだろう。理論上は、アルカリ性の物質を海に投じれば、CO2増加の影響を中和できるはずだが、現
実には不可能だ。たとえば1トンのCO2を中和させるのには少なくとも2トンの石灰が必要だが、現在世界中で排出されているCO2は年間300億トン以
上にのぼるため、必要な石灰はとてつもない量になる。
自然の作用で海水のpHが工業化以前のレベルに戻るには、何万年もかかるだろう。



5.どんな影響が出るのだろうか?

とりわけ危惧されているのは、南極や北極の海に生息する生物だ。もっとも、CO2は冷たい水に溶けやすい性質をもつので、真っ先に影響を受けるの
は両極地方の海かもしれない。すでに、北極と南極の両方で、クジラや海鳥の重要な食料となる翼足類(ミジンウキマイマイなどの貝殻が非常に薄く
羽のような翼足で海中を浮遊する軟体動物)に顕著な影響が出ているという報告もある。酸性化した海水中では翼足類の殻が溶けたり、成長が遅く
なることが、実験で確認されている。
もうひとつは温暖な海に生息しているサンゴだ。海洋生物の25%程度が一生のうち少なくとも一時期を、サンゴ礁かその周辺で過ごすと言われている。
サンゴが消えてしまえば、生態系全体も消滅してしまう。
近年の温暖化で海水温が上昇し、サンゴが白化して死んでしまったというニュースを時々耳にする。サンゴも炭酸カルシウムの骨格を持っているので
酸性化にも弱い。 このように温暖化やそれにともなう酸性化によって、極めて豊かな生態系の一員である翼足類やサンゴなどの石灰化生物が大きな打
撃を受ける可能性がある。


サンゴ礁を住みかとする生き物1(※2)   サンゴ礁を住みかとする生き物2(※3)

溶け始めた南極の氷(※4)   ミジンウキマイマイ(※5)


6.サンゴ礁以外の影響はなにか?

本学科の大越教授によると...

s 貝の殻の主成分はCaCO3(炭酸カルシウム)である。CaCO3はpHが下がる(=酸性化する)と溶け出してくるので、酸性であるお酢の中に貝を入れると
殻が溶けて二酸化炭素の泡が出てくるそうだ。現在、海はアルカリ性でpH8くらいなので、まだ貝は溶けないが、pHが下がると溶けてくる。特に子供の
貝や極域の貝は殻が薄いのでダメージを受けやすい。そうすると、貝がどんどん減ってしまう。さらにCaを持っている生き物が減ってくることで、それを
食べている生き物の数が変わり、将来的にはさまざまな生物に影響が出る可能性がある。

※子供の貝の殻が薄いのはまだ成長しきっていないからであるが極域の貝が薄い理由は、薄いと殻をつくるのにエネルギーをあまり使わないこと、極
   域は餌がないのであまり成長できないこと、低温なこと、外敵が少ないことなどが理由である。








      実験!・・・お酢に入れたら殻が溶けて二酸化炭素の泡が出てきた。













7.クジラに対する酸性化による音への影響はなにか?

海水の化学成分が変わると、水が低周波の音波を吸収して音を打ち消す力が最高で40%も低下して一部の海域では音が伝わりやすくなるとも予測さ
れている。
本学科の大越教授によると...
水はいろいろなものを吸収し、CO2を吸収することにより、酸性化が進んでいく。そのことから、音の伝達力が大幅に高まり、遠くまで伝わることとなる。
そうすると水中ではいろいろな音がより伝わり騒音となる。 水中で生活しているイルカやクジラは、エコロケーション(音響定位)と呼ばれる機能を使い、
距離・大きさ・形・材料などを認識したり、会話のようなことを行っていると考えられるため、海洋酸性化は雑音を増やすことになりコミュニュケーション
や餌探しなどが影響を受けるかも知れない。


鯨の回遊する様子(※6)


8.海洋酸性化防止のために私たちにできること(生活編)

・冷房の設定温度をいつもより1℃高く上げ、暖房の設定温度をいつもより1℃低く設定する
・別々の場所で、暖房や冷房を使わずにひとつの部屋で利用する
・照明などの無駄な電力を削減する
・電化製品の待機電力をカットする
・自家用車の使用を控え、公共機関の乗り物を利用する
・自家用車でのアイドリングをしないようにする


9.海洋酸性化防止のために私たちにできること(自動車編)

・輸送機器のための石油燃料の消費量は、全世界の温暖化ガス排出量全体の25%を占めているので、車両技術の改善と車両の小型化、代替燃料
  の開発、車の使用方法の変更などを車を見直すことが大切である
・自動車技術の改善として、重量の削減、タイヤの改善、空気抵抗の低下など燃料消費を推進する
・自家用車の使用を控え、公共機関の乗り物を利用する
・自家用車でのアイドリングをしないようにする


フォルクスワーゲンのコンセプトカー (※7)





      フォルクスワーゲンのコンセプトカー:
      市街地や郊外を走る2人乗り自動車(試作段階)。燃費は1リットル当り100km。












10.海洋酸性化防止のために私たちにできること(産業編)

・建物や電気製品、工業プロセスのエネルギー効率の改善による大幅な省エネルギーの実現を行う
・太陽熱集熱器と太陽電池をそなえ、断熱性が高く、ハイテク技術で設計された建物は、欧州では正味エネルギー・ゼロ住宅と言われ、実質的に光熱
  費はかからず、建築コストも従来並みである
・カーペット製造業者の製品染色の際、酵素利用により、エネルギーを10%以下に抑える



参考文献

・日経サイエンス編集部(2007)「別冊日経サイエンス158 SCIENTIFIC AMERICAN 日本版 温暖化危機 地球大異変part2」日本経済新聞出版社
・伊藤 達生(2011)「NATIONAL GEOGRAPHIC 日本版(第17巻 第4号 通巻193号)」 日経ナショナル ジオグラフィック社


画像出典

※1 写真素材 足成【フリーフォト、無料写真素材サイト】(http://www.ashinari.com/)より抜粋
※2~4 無料 写真素材・フリー画像素材のリンクスタイル (http://www.linkstyle.co.jp/)より抜粋
※5 撮影:大越健嗣教授。学名はLimacina helicina
※6 水中写真 海の写真 イーフォトグラフィー e-Photography イルカ サメ クジラ 南の島 サンゴ リゾート風景 (http://e-photography.co.jp)より抜粋
※7 Volkswagen Interactiveのカスタマーセンターより画像使用の許可を頂きました。(http://www.volkswagen.co.jp/index.html)


取材先

東邦大学 理学部 生命圏環境科学科 大越 健嗣 教授