理学部生命圏環境科学科

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カナダからの質問 : How is the environment now in Japan?

 生命圏環境科学科で1・2年生に開講している授業科目の一つに「コミュニカティブ イングリッシュ(Communicative English)」がある。外国人と臆することなくコミュニケーションができるようにとの趣旨で、一クラスの履修者を15人以内として英語のみによる授業を行っている。カナダ出身のC先生には、第一期生のときから非常勤講師として5年間授業をご担当いただいた。大変温厚な方で学生への授業にも熱心に取り組んでおられた。日本のこともよく勉強されており、上野公園の歴史的なことなど学生の方がびっくりするくらいの知識をお持ちだったらしい。今年の3月11日にそのC先生から“Question regarding Japan”という件名で以下のようなEメールがきた。
 “I seem to have found a job that will give me a visa in Japan. I realize you are busy, and do not want to disturb you. However, I wanted to ask your opinion about the state of the environment in Japan. As you are a very knowledgeable person and man of science, I could think of no one better to ask than you. My only concern about returning is the environment now after the Fukushima incident. I did want to ask actually, how is the radiation now in Japan? Is the food and water safe you think? I’m not sure, and actually worry about all of you there too. I hear many mixed things about the Fukushima problem even now, so I'm not sure what to believe. Anyway, if you have time, please tell me briefly about your opinion. If you are busy, I understand, and please feel no obligation.”
[大意:日本での仕事が決まりそうなのですが、気がかりなのは日本の環境、特に福島の事故後の環境が実際にどうなのかということです。その点に関して科学に専門的に従事している立場からご意見を伺えればと思います。本当のところ、放射線はどうなのでしょうか?食べ物や飲み水は安全なのでしょうか?私には分かりませんので、皆さんの健康のことが案じられる次第です。カナダでは、福島の問題で多くの情報が錯綜しており、何を信じていいのか分かりません。もし、お時間があるようでしたら、ご意見をお聞かせ下さると助かります]
 ここ千葉県の船橋市は事故現場から遠く離れているので、私たちは普段から暗黙のうちに安全だと思っている。しかし、改めて「福島の原発事故で日本は安全なのか」と問われてみると多少の戸惑いがある。しかも、それを尋ねているのは船橋以上にはるかに遠く離れた異国に住んでいる人からである。現地ではインターネットなどからの情報があっても東京や千葉では実際にどうなのかまでは確としたことは分からない。C先生のようにとりわけ健康志向が強い人には、どの情報を信じていいのか不安を拭いきれないのかもしれない。一方、私自分自身は「ここ船橋は安全だ」と思っている。あるいは思い込んでいるのかもしれないが、とりあえず、そのことを何とか英語で伝え納得してもらおうと思った。安直にインターネットで、「原発事故以後も日本は安全だ」ということをアピールしているような記事(できれば英文)がないかを探してみたが、元々得意でないことなので、案の定見出すことはできなかった。そこでやむなく、質問に関係した事項について、説得力のありそうなデータをいくつか集め、それをできる限り分かりやすく英文にまとめてみた。以下がその回答である。
 “It was just four yeas ago today that the disaster happened in the Tohoku areas. We paid one-minute’s silent tribute to the victims of the disaster. Reconstruction work has been performed gradually, though radiative contamination still remains near the nuclear plant in serious trouble in Fukushima Prefecture.
 My answer to your question about the state of the environmental radiation-pollution in Japan is as follows: I can say confidently that you are safe unless you are within a radius of about 20 km from the nuclear plant. Radiation levels of the atmosphere and rivers in neighboring prefectures such as Chiba and Tokyo are almost the same as the natural background; the background radiation arises from cosmic rays and terrestrial sources and all the people on Earth should expose themselves to it. Agricultural and fishery products from Fukushima undergo a radiation-examination and their shipment is restricted. Such products from other areas are shipped without restriction because their radiation levels are lower than the standard levels. The standard levels were reformed more strictly after the nuclear accident; a permissible amount, for example, of radiation for radiative cesium (Cs) in foods was changed from 5 mSv/year to 1 mSv/year. Accordingly, I think, the radiative materials released into the environment scarcely influence our health and daily lives outside the area near the nuclear plant.
 Of course, it is noted that cancer caused by radiation and some chemicals is a disease of the genes; the carcinogenic process begins from a mutation of one stem cell, proliferating endlessly to a malignant tumor. Therefore, we can’t be instantaneously awake to the affection and it takes a long time, say about ten years, to recognize the symptoms. I think, however, the probability that we are attacked by the environmental radiation in Chiba and Tokyo, leading to carcinogenicity, is very low, considering the exposure levels here. I hope you will be greatly relieved at my explanation.”
[大意:ご質問に対する私の回答ですが、事故を起こした原発から20 km 離れたところであれば、安全であると言えます。千葉や東京など福島近隣の大気や河川の放射線レベルはバックグラウンドレベルとほぼ同じです。放射線のバックグラウンドは、宇宙線や地球内部からの放出に基づくもので、地球上の全ての人間がそれに曝されることになります。福島県産の農作物や魚介類は放射能試験を受けることになっており、出荷は規制されています。他県の農作物や魚介類は、放射能レベルが標準レベル以下なので規制なしで出荷されています。放射能の標準レベルは、原発事故後、より厳しくなりました。例えば、食べ物中の放射性セシウムの許容値は、5ミリシーベルト/年 から 1 ミリシーベルト/年に変更されました。そのような次第ですので、原発事故で環境中に放出された放射性物質は、原発近くの地域を除いて、私たちの健康および毎日の生活にほとんど影響を与えていないと思います。もちろん、放射線や化学物質によって誘発される癌は遺伝子の病気であることを認識しておく必要があります。すなわち、発癌プロセスは1個の幹細胞が突然変異を起こすことからスタートし、それが無際限に増殖して悪性の腫瘍になっていきます。したがって、私たちは幹細胞の癌化に直ちに気がつくことはできません。症状に気がつくのには、例えば10年と言う長い時間が必要です。癌にはこのような性質がありますが、環境中の放射能レベルが低い千葉や東京で私たちが放射能に曝されて癌になるという確率は非常に低いと思います。この説明で、ご安心いただければ幸いに存じます]
 C先生からは即刻、次のように、「日本の環境の現状について直接知ることができて安心しました。そして、福島での不幸な事故にもかかわらず、日本と日本の皆さんが安全であるということも聞いて安堵しました」という内容の返信があった。それからしばらくして日本に来ることが決まったとの知らせも届き、私の方も多少は肩の荷が下りたような気がした次第である。
 “Great to hear from you. Thank you very much indeed for your informative response. I greatly appreciate it as I know you have been busy. I must say it is most reassuring to hear the news about the environment from you. As you are very knowledgeable on the subject, I feel very relieved to hear that Japan and its people are safe from the unfortunate accident in Fukushima. I will be starting the visa application process with a position soon.”
 以上、私の拙い英文までも交えた文章になってしまったが、「地球のぼやき」も徐々にグローバル化しているということでご容赦願いたい。それはともかく、C先生への私の回答は内容的に妥当なものであったかどうかはあまり自信がない。総合性が求められる環境科学の分野も次第に「細分化」の影響が強くなりつつある。その結果、「大気中のベンゼンによる発癌リスクは10-5である」というような回答はできても、「原発事故の後、日本は安全なのか」という素朴で直接的な質問にはとたんに答えに窮してしまう。しかも「安全」か「安全でないか」の境目は絶対的でなく、相対的であるために回答は一段と難しくなる。しかし、こんなふうに “man of science” がぼやいていては地球が嘆くだけであろう。曲がりなりにも「生命圏環境科学科」に所属する限り、社会の構成員からの疑問にはどのような難問であろうときちんと対処していかなければならないと思う。単に科学的データを示して事足れりとせずに、質問者が求めていることに沿い、しかも納得してもらえるように充分考えながら答えていく必要がある。授業で「双方向性」が求められているように、今回のような場合でも双方向性が重要である。そのやり取りの中で、提起された問題に対してお互いの理解も徐々に深まっていくのではないだろうか。その意味で今回の質問に対する回答はまだ完結していない。標題のテーマをそのまま卒業研究のテーマとし、いろいろなバックグランドを持つ4年生の力も借りてよりよい回答に仕上げられないかなど、あれこれ思案しているところである。

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