理学部生命圏環境科学科

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SMILESは成層圏オゾンの夢を見るか〔3/3〕

SMILESの観測データが説明できない!

【SMILESは成層圏オゾンの夢を見るか (2/3)】 よりつづく

さて、大変なことになりました。

最高のラジオを作ってこれまでの20倍以上の明瞭さでオゾン放送局の信号を捉えることができました。オゾンアナウンサーの声もこれまでにないほどクリアーに録音されています。でもそのデータを分析して、登録済みのデータと比較すると細かいところで微妙に違っているというのです。開発チームはその後2年ほどかけて観測データの質の検証作業を続けました。その結果若干のデータ補正は生じましたが、本質的な解決には至らないということが益々明らかになりました。

リ 「このアナウンサーAだけどさ。風邪でもひいてるのかな。それとも昨日カラオケで歌いすぎたとか。ここの部分の波形がこれだけずれてるよ。」

カ 「それは装置のせいじゃないな。登録データが間違ってるんじゃないの?」

リ 「俺たちが悪いってのかよ。」

カ 「そんなことは言ってない。そのデータが登録されたのはずいぶん昔の話だろ?」

リ 「そうだけど」

カ 「SMILESは最新鋭の観測装置だぞ。それに見合った登録データが必要なんじゃないのか。」

リ 「そうだな。世の中はデジタルハイビジョンの時代だもんな。言われてみれば確かにそうかもしれない。その辺は手抜かりがあったかな。」

ずいぶん脚色して書きましたが、要するにこういうやり取りがあったのです。

私たち東邦大学のグループが現在行っていること

オゾンアナウンサーたちの登録データを作り直す作業、それはとりもなおさずもう一度一人ずつオゾンアナウンサーを呼んで、実験をやり直すということです。しかも、これまでの何十倍の精度でやらなければ意味がありません。SMILESがかつてない精度でオゾンの観測をしたばっかりに、思いもかけなかった問題が湧き起ったというわけです。

こんな面倒なこと、できることならやりたくありません。SMILESが明らかにした成層圏の様子はすでに論文としてたくさん報告されています。でもそれは「ほどほどの」リトリーバルの結果に過ぎなくて、これをしない限りはSMILESの「真の実力」を示すことができないといわれれば、やるしかありません。「やるしかない」なんて恰好良く書きましたが、実際のところはそんなにきれいごとばかりではありません。細心の注意を払いながら地道な測定を果てしなく繰り返すのです。そのせいかどうか知りませんが、この手の実験や理論は日本ではあまり顧みられていなくて、専らヨーロッパやアメリカの研究者が頑張っています。こういうところにルネッサンス以降、欧米人が積み上げてきた自然科学の蓄積というものを感じます。私が今回ボローニャにやってきたのも、関連の研究者とこの問題についてあれこれ議論するためなのです。
東邦大学にあるオゾン登録データを測定する装置 :
およそこんな装置が地球大気観測と関係しているなんて誰も思いませんよね

さて、私はこの面倒な作業を大学院生のA君に託すことにしました。生来几帳面で着実に仕事を進める彼ならきっとやってくれると思ったのです。もちろん私もサボっているわけではありません。猫の手ぐらいは働きます。でも一番大事なのはA君を励ますことです。先日も、彼と測定データについて話し合った後、おそるおそる聞いてみました。

私 「実験条件はかなり固められてきたよね。もう少し確かめないといけないこともあるけど。」

A 「そうですね。さっそくやってみます。」

私 「めげてない?」

A 「なんですか?」

私 「いやになってない? この実験」

A 「大丈夫ですよ。まだこれからじゃないですか。」

まったくもって頼もしいです。彼がもたらす新しいデータがSMILESのデータ解析に新しい局面を開くことになるはずです。

1999年にNASDAでSMILESの仕事を初めたとき、私はまだ30代後半でした。いまだにそれに関わっているというのはある意味驚きでもありますが、逆に感謝すべきことなのかもしれません。この時代10年以上も一つのことにこだわり続けていられるというのはあまりないことでしょうから。幸いなことに、私の周囲にはA君のような見上げた根性の若い人たちが何人もいます。私ももうひと頑張りしてこの仕事に対して自分なりの決着をつけたいと、思っているところです。

【おわり】

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