理学部生命圏環境科学科

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SMILESは成層圏オゾンの夢を見るか〔1/3〕

ボローニャにて

一昨日からイタリア エミリア-ロマーニャ州のボローニャに来ています。

一週間の予定で、ここボローニャ大学で開催される国際学会に出席するためです。最近の研究成果を発表するのが主な目的ですが、同じくらい重要な目的として欧米の研究者と会って研究上の疑問点について議論をしたり、今後の自分の研究の進め方についてあれやこれや考えたり、というのも欠かせません。そうでなければこのIT化が進んだ時代、わざわざ11時間も飛行機に乗って(機内で映画を三本も見て)、”ヨーロッパくんだりまで”やって来る意味がありません。ちょっとしたことならメールですみますし、最近はSkypeなんていう便利なものがあります。所詮アナログ人間の戯言かもしれませんが、face-to-faceの会話が一番です。会話の中で感じる相手の息遣い、目の輝き、身振り手振り、というのは実際に会って話をしない限りわかりません。それらは会話をただ文字に変換したときに得られる以上の情報を与えてくれます。フランス訛り、ロシア訛り、イタリア訛りの英語には正直閉口しますが、こちとら日本語訛りの英語をしゃべっているのでお互い様です。
自由討論時間 : こんな感じで勝手にあちこちで議論に花が咲きます
学会会場となったボローニャ大学 : 歴史を感じさせますな

ボローニャ大学は西暦1088年の創立以来、今日まで閉鎖されることなく続いているヨーロッパ最古の大学です。

…スイマセン。つい知ったかぶりをしました。

実は学会主催者が学会初日に「延々と」ボローニャとボローニャ大学について薀蓄を語ってくれたのを受け売りしただけです。他にも、「ミートソースのスパゲッティをスパゲッティ・ボロネーゼとは言わない (つまりスパゲッティ・ボロネーゼというものは存在しない)」とか「ボローニャにもツインタワーがあるが、なぜかそのうちの一棟だけ傾いている。その理由は分かっていない」とか、どうでもいいことをたくさん聞きました。でもこういうことって実は旅のいろどりとしては大事だったりしませんか。一応仕事で来ているので、こうした楽しい話を自分であれこれ確かめるような時間は残念ながらないのですが、それでもホテルと大学の行き返りにちょっと道に迷ったりしてみると楽しい発見があったりします。

…スイマセン。また恰好つけてしまいました。方向音痴なのでまともに目的地に着けないだけです。

メンザ(大学食堂)で食べたある日の昼食 :
これで6ユーロ(学生だともっと安い) 真ん中の皿は、パスタにミートソースがかかってますけど、これって、、、
ボローニャの斜塔 : ホテルの壁に掛けてあった絵(左)の方が、実際のもの(右)より傾いてる?

ボローニャの街並みは他のイタリアの都市と同様、あちこちに落書きが多くちょっと興ざめの感がないわけではありませんが、歴史の流れの中に身を任せる人々の営みに基づく混沌なのだと思えば、不思議にそれらが周囲と調和しているような印象も受けます(明らかにほめすぎですね)。

学会が行われているボローニャ大学はさすがに古色蒼然とした建物が多く、講演会場はもう100年以上も講義室として使われているような階段教室です。格調の高さは申し分ありませんが、音響は最悪です。マイクを通した声があちこちで「ワンワン」反響しています。学会があるということとはお構いなしに行われる道路工事の音も加勢して、多分に偏見だとは認めつつ、「イタリアの学会らしい」と一人ごちています。

講演会場 :
さすがに古い。通路が両サイドにしかないので長机の真ん中に座ったが最後、外にでようとする時には大騒ぎになります。

何でこんなどうでもいいことを書き連ねているのかといえば、理由は簡単です。今日これから私の発表があってちょっと緊張しているからです。ここで一旦中断して、本来の仕事を済ませます。

学会で確かめたかったこと

発表は無事終わりました。これでようやく気兼ねなく学会を楽しめます。さて、そろそろ本題に入りましょう。

今回イタリアに来た理由は宇宙空間に存在する分子-星間分子と呼んでいます(いずれそのことについてお話しする機会もあるでしょう)-に関する成果を発表することでした。しかし実はもう一つありました。地球大気中に存在する分子に関して現在私が抱えている問題を、ある研究者と議論して何かの手がかりを得たいと思っていたのです。そこに至るいきさつというのはこんな感じです。

話は15年前にさかのぼります。1999年春、私は現在JAXAと呼ばれている宇宙航空研究開発機構の前身組織である、宇宙開発事業団(NASDA)で働き始めました。ちょうど国際宇宙ステーションの建設が宇宙空間で始まったころで、そこに搭載する大気観測衛星の測器開発のためのミッションチームに加わることになったからです。当初は開発開始から5年程度で完成させる予定でしたが、いろいろ手間取り、結局9年近くかかってしまいました。大気中のオゾン層を観測するこの装置はSMILESと名付けられ、さらに1年後の2009年9月の打ち上げにこぎつけました。ここまでのいきさつについてはすでにこのコラムで少し紹介しところです。(日本初の成層圏大気観測衛星 宇宙へ(2009年11月)をご覧ください。)コラムではとても書けなかった衛星の開発の裏側については、もう少し「ほとぼり」が冷めたころに機会を作ってお話ししましょう。今回の主題は別のことです。
国際宇宙ステーションに取り付けられたSMILES(矢印) 【写真:JAXA/NASA提供】: 
はるか向こうに地球大気がうっすら輝いて見えます。

我々が製作したSMILESは本当に野心的な観測装置でした。それまでに欧米諸国が打ち上げた地球大気観測衛星のなんと20倍~30倍の感度で成層圏の様子を捉えることに成功したからです。もともとそれを狙って開発を始めたのですし、打ち上げ前に行われた観測装置の総合性能試験でもその能力の高さは実証済みでしたから、実現して当たり前なのですけどね。でも「こんなにうまくいったんだ」、という素朴な驚きが実際の観測生データを見たときにミッションチームの中には確かにあったのです。SMILESが観測データを地上に送り始めてからしてしばらくの間、我々は本当にハッピーでした。そう、本当に無邪気に喜んでいたのです。観測データの質が「良すぎること」に起因するある問題が顕在化するまでは。

SMILES観測データに記したミッションチーム全員の寄せ書き :
このころはまだ幸せでした。

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