理学部生命圏環境科学科

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ハワイのビッグアイランドでの地熱発電と海洋温度差発電

生命圏環境科学科では、毎年8月末から9月中旬までの夏休み期間中に2年生の希望者を対象としてハワイで「環境科学海外研修」という研修を実施していま す。研修期間中には、オアフ島にあるハワイ大学でスペシャル・イングリッシュ・プログラムという語学研修を行います。また、研修期間中には、1泊2日でハ ワイ本島、いわゆるビッグアイランドを半周し、キラウエア火山をはじめとするハワイの雄大な自然に触れながら、ハワイの気候、文化などについて学ぶことも この研修の大きな目的です。ビッグアイランドでは、その恵まれた自然の特性を活用して、様々な新エネルギー開発の実験的な試みが行われています。今回は、 その中から地熱発電と海洋温度差発電について紹介します。

ビックアイランドには化石燃料は存在しない

 ビッグアイランドの巡検を引率していただくのが、ハワイ大学の海洋研究所所長のジョン・ウィルトシャー先生です。ジョン先生にはビッグアイランドに行く前に、あらかじめハワイ大学でハワイ諸島の成り立ちや文化についての講義をしていただきます。ジョン先生は本学科の客員教授でもありますので、毎年、年末には東邦大学にきていただき海洋資源に関する講義をしていただいています。ジョン先生は身長が2メートル近くある巨漢なのですが、研究のために3人乗りの小さな潜水艇に乗って、1,000メートル近くの海底まで調査に行くとのことです。

 ビッグアイランドは島全体では気候が多様で、ケッペンという人が1900年頃に気候を13に分類したのですが、そのうちの11の気候帯があると言われています。この多様性の理由は、ビッグアイランドには4,000メートル級の二つの山があり、高度差が大きく、その結果、気温差も大きいこと、北東から南西への湿った風がこれらの山にぶつかり北東側では降雨量が多いが、南西側ではほとんど雨が降らないことです。このように気候帯が多様であることから、植生も多様で、自然には大変に恵まれているのですが、一方で、エネルギー資源、例えば石炭、石油や天然ガス等の化石燃料は全く存在しません。ですから、ハワイで化石燃料を用いて発電しようとすれば、その燃料は全て島外から運び込む必要があります。アメリカ人の一人当たりのエネルギーの使用量は日本人の3倍と言われています。実際にハワイ大学の建物の中は、語学研修の講義室も含めて、冷房がたいへんに良く効いており、部屋の温度は20℃くらいに設定されているようなのですが、長時間、部屋にいるためには厚手のセーターが必要となるほどです。

化石燃料に頼らない、再生可能エネルギーによる発電

ベースロード電源になり得る発電 ~地熱発電~

 ハワイでは化石燃料に頼らない、再生可能エネルギーによる発電の研究開発が進められています。地熱発電、風力発電、太陽光発電が代表的な再生可能エネルギーですが、ハワイといえばまずキラウエア火山に代表される火山が思い浮かびますので、地熱発電が有望に思えます。

 著者は、1980年代のはじめに米国の研究所で地熱の研究を行っていました。ハワイは地下が高温で地熱発電に適していることからハワイでの地熱発電の実現可能性の検討をしたことがありました。米国人の研究者といろいろと話をしたのですが、結局、宗教的な理由から、ハワイでの地熱発電は難しいということになりました。その当時、宗教的な理由というのは、あまり釈然としませんでした。

 この数年、毎年、ハワイに行くようになりましたが、ハワイの文化をいろいろと勉強して分かったのは、火山の神様であるペレという女神がたいへんに怖い神様であるということです。ビッグアイランドの巡検ではブラック・サンド・ビーチという海岸も見学し、この海岸の砂は溶岩が粉砕された黒い砂で、記念に持ち帰りたくなるのですが、この砂をビッグアイランドの外に持ち出すだけで、ペレの祟りがあるそうです。ましてや、地下に井戸を掘って蒸気を取り出すということは、ペレがお怒りになりそうなので、地熱を積極的に発電に用いようということにならないようです。

 とはいえ、ハワイには地熱発電所が全くないわけではありません。ビッグアイランドのパホアという場所では、出力が約3万キロワットの地熱発電所が1993年から稼働しています。ちょっと専門的な話になりますが、この発電所の発電方式はシングル・フラッシュ発電という日本国内でも良く用いられている方式と、バイナリー方式と呼ばれる蒸気の余熱を利用した発電方式の組み合わせとなっており、効率の良い発電方式となっています。地熱資源の豊富な日本では、18カ所の地熱発電所で合計で約52万キロワットの発電設備があること、またアメリカでは、カリフォルニア州だけでも合わせて約260万キロワットの発電設備があることを考えると、ハワイで地熱発電が普及しないのは、宗教上の理由があるとはいえ、たいへんに残念なことです。

ベースロード電源になり得る発電 ~海洋温度差発電~

 地熱エネルギー以外の再生可能エネルギーには、風力発電や太陽光発電があり、特に風力発電はハワイの再生可能エネルギーの主役となっています。これら再生可能エネルギー全般に言えることですが、昼夜にかかわりなく、あるいは天候にかかわりなく、一定の大きさを保ちながら発電できるものは、あまり多くありません。この制約なしに、常に一定の大きさで発電できる電源をベースロード電源と呼びますが、ここでは、地熱発電と並んで、ベースロード電源となり得る海洋温度差発電について紹介します。
ハワイ州立自然エネルギー研究所の海洋温度差発電システムの熱交換器
ハワイ州立自然エネルギー研究所の海洋温度差発電システムの熱交換器

 海洋温度差発電とは深海と海面表層付近の海水の温度差を利用して発電する方式です。ビッグアイランドのコナの海岸にハワイ州立自然エネルギー研究所では海洋温度差発電の実証試験が行われています。 ハワイ諸島はもともと海底からのマグマが長期間にわたって噴出して海面に現れたものです。したがってハワイの海岸は遠浅ではなく、海岸線から離れるにしたがって急激に海は深くなってきます。海洋温度差発電では、深海からパイプを用いて低温の水をくみ上げる必要がありますが、このパイプの敷設距離が短くてすむことから、好条件がととのっていると言えます。

 この研究所では約1、000メートルの海底から4℃程度の海水をくみ上げます。この海水と海面付近の海水との温度差は20℃近くありますから、この温度差を利用して発電を行います。アンモニア水に含まれるアンモニアは単体では沸点が-33℃の物質です。このアンモニアを海面付近の比較的温度の高い海水によって気化させ、この蒸気を用いて発電タービンを回転させて発電を行います。発電に用いたアンモニアの蒸気は海底付近からの冷たい水によって液化させ、繰返し発電のために用いることができます。この海洋温度差発電方式の欠点は、発電の熱源となる海面表層の海水の温度が20℃程度であり、その絶対的な温度があまり高くないこと、また利用できる温度差も20℃程度とそれほど大きくないため、発電効率はあまり良くありません。とはいえ、熱源の量が大変に大きいのがこの発電方式の特徴です。

ハワイ州立自然エネルギー研究所の太陽光発電システム
ハワイ州立自然エネルギー研究所の太陽光発電システム

 ビッグアイランドでは、海洋発電温度差の研究を行っている自然エネルギー研究所に太陽光発電システムの研究施設もあります。いずれ、ハワイ全島において化石燃料を使用せずに、全て、再生可能エネルギーで電力を自給できるような時代がくれば良いと思います。

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