理学部生命圏環境科学科

メニュー

地震の揺れの予測の話 ~地震動予測地図とは~

ニュースなどで、「ある地域に30年以内に○○パーセントの確率で震度6以上の地震が起こる」などという話を耳にしたことがあると思います。この“○○パーセント”という数字がどのように導き出されているのかご存知ですか?ここでは、地震による揺れの中期・長期的な予測の方法について簡単に解説いたします。

そもそも地震とは?

 まず、地震とはどういうものかをざっとおさらいします。地盤には周りからぎゅうぎゅう力がかかっています。普段は、地盤はその力に耐えていますが、耐えられなくなると、弱いところ(断層)がすべります。そのとき、すべりが急激に起きた場合、たまっていたエネルギー(弾性エネルギー)が短時間で解放されることによって地面が揺れます。この現象が地震です。
2011年4月11日の内陸地震により地表面に現れた井戸沢断層(福島県いわき市)

揺れの大きさは何で決まるか?

 地震が起きた時の、ある地域の揺れの大きさ(速報などで、“○○地域は震度××”という、あれです)は何によって決まるのでしょうか?まず、断層がすべったときに解放されたときのエネルギーが大きいほど揺れは大きくなります(地震自体の規模は、マグニチュードという値で表わされます)。また、揺れの大きさは、地震を起こした断層(震源断層)からの距離に関係があり、震源断層から遠い地域ほど揺れは小さくなります。さらに、揺れやすさは地盤によって違います。例えば、関東平野のような軟らかい地盤が厚くたまっている地盤は揺れやすいことが知られています。
 まとめますと、ある地震による揺れの大きさは、地震自体の規模、震源断層からの距離、地盤の揺れやすさで主に決まります(図1)。
図1 地震による揺れの大きさを決める主な要因

いつ地震が起こりそうなのか?

 さて、地震による揺れの大きさの予測をする上での材料がだんだんそろってまいりましたが、1つ重要な要素が欠けています。それは「時間」、すなわち地震が“いつ”起こりそうなのか?ということです。これはどのように推定するのでしょうか。

 一般的な考え方として、地震を起こす断層はほぼ一定の間隔で活動を繰り返すとされています。この考え方にのっとると、ある断層が次にいつ活動するかを推定するには、(1) その断層はどれくらいの間隔で活動するか、(2)最後に活動したのはいつか、を調べることが重要です。例えば約5000年に一度活動する断層が1000年前に活動していれば、その断層が30年以内に活動する可能性はとても低いと考えられます。一方で、約150年に1度活動してきた断層が160年くらい活動していない場合は、30年以内に活動する可能性は比較的高い、ということになります。

 それでは、ある断層について、30年以内に活動する確率の推定方法について具体的に説明します。まず、断層について調べた過去の活動履歴から、発生間隔とそのばらつきを求めます。その結果にもとづいて、図2(a)のように、最後に活動した時期からの時間(横軸)と、地震の起こりやすさ(確率密度、縦軸)の関係を求めます。このような地震発生の確率は、Brownian Passage Time分布という確率分布でうまく説明できると考えられており、その考えに基づいて図2(a)の確率分布は作成されます。ここで、現在から30年以内に地震が発生する確率は、(図2(a)の水色部分の面積)/ (水色の面積+黄色の面積)で求められます。

 また、断層によっては、最後に活動した時期が不明な場合もあります。その場合は、地震の発生が「ポアソン過程」に従うと仮定して確率を計算します。ポアソン過程とは、ランダムに発生するが、その間隔の平均値は一定であることがわかっている現象を表す数学的モデルで、例えばバス停に乗客がぽつりぽつりやってくる様子やコールセンターに電話がかかってくる様子をモデル化できると考えられています。この仮定にもとづいて先ほどと同じように過去の活動履歴から確率分布を求め(図2(b))、30年以内の発生確率を求めます((図2(b)の水色部分の面積)/ (水色の面積+黄色の面積))。

 以上、ある断層についての地震の発生確率について簡単に述べました。詳細は地震動予測地図の「解説編」をご参照ください(予測地図のウェブサイトは本稿の最後にあります)。
図2 地震発生の確率分布のイメージ図:(a) 最後の活動時期が明らかな場合、(b)最後の活動時期が不明の場合。地震動予測地図の「解説編」を元に作成した。
図2(a)の確率分布の横軸方向の広がりがおおきいほど、30年以内に活動する確率は低鵜なる。確率分布の広がりは、発生間隔のばらつきに関係する。したがって、この確率分布を求める際にどういうデータを使うのか、データの精度によってこの確率が変わってくる。また、発生間隔の広い内陸地震の場合、必然的にそのばらつきも大きくなるので、確率も小さくなる。

「30年以内に震度6以上の地震が起こる確率」の求め方

 これで材料が一通り出揃いました。それでは、「ある地域に30年以内に○○パーセントの確率で震度6以上の地震が起こる」の“○○パーセント”がどのように導かれるかを簡単に説明します。まず、これまでの調査で分かっている断層について、活動の間隔と最新の活動の時期を元に30年以内に活動する確率を求めます。次に、断層の大きさなどから、その断層が動いたときに発生する地震自体の大きさを推定します。その結果に、今考えている地域と震源断層の距離とその地域の地盤の揺れやすさの情報を加えることによって、その断層によってその地域がどれくらい揺れるかが推定できます。その地域の近くにある断層についてそういった推定を行い、それらをまとめることによって、その地域が「30年以内に震度6以上の地震が起こる確率」がどれくらいを推定するというわけです。
 こういった手順で全国各地の「確率」をまとめた図を「確率的地震動予測地図」と言います(「地震動」とは、地震による揺れのこと)。この地図は、地震調査研究推進本部という国の機関によって作成されたものです。
地震動予測地図を作成する際には、知られている活断層以外の断層での地震発生も一応考慮されている。全国をいくつかの地域に分類し、そこでの最大の地震の規模を想定し、予想に組み込む。ただし、どちらにしても不確定性は大きい。

使用上の注意

 ここで大事なことは、ここで述べた手順では様々な不確定要素が含まれているということです。例えば、これまでに見つかっていない活断層が存在する可能性は大いにあります。また、見つかっている断層についても、その規模の推定がきちんと予測できない場合があります。2011年3月の東北沖で発生した地震がその良い例です。この地域は地震はよく発生することが知られていましたが、あれほど大きな規模の地震が起きることを想定した防災対策は十分にされていませんでした。地震という現象についてはまだわかっていないことが多く、例えば天気予報のような精度では揺れの予測ができないというのが現実です。地震に関する研究の今後の発展が、予測の精度を上げるための鍵になってくることでしょう。
 ”○○パーセント”という数字が独り歩きして、過剰に安心したり、逆に警戒しすぎたりというのは時に危険です。ここで述べた手順で求めたものでいろいろと不確定な要素が含まれているということを踏まえたうえで、この「地震動予測地図」を防災などに利用するのが大事であると思います。

参考ウェブサイト

・地震調査研究推進本部ウェブサイト
  地震動予測地図を作製している機関のサイトです。
http://www.jishin.go.jp/main/index.html


・全国地震動予測地図 2010年版
  「地図編」のほか、「手引編」、「解説編」は地図の見方や予測のやり方が詳細に書かれております。
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/10_yosokuchizu/index.htm


・地震ハザードステーション ウェブサイト
  ここで書いたことについてのより詳細な説明や、地震動予測地図のオンライン版が見られます。
http://www.j-shis.bosai.go.jp/tag/shm

お問い合わせ先

東邦大学 理学部

〒274-8510
千葉県船橋市三山2-2-1
習志野学事部

【入試広報課】
TEL:047-472-0666

【学事課(教務)】
TEL:047-472-7208

【キャリアセンター(就職)】
TEL:047-472-1823

【学部長室】
TEL:047-472-7110

お問い合わせフォーム