理学部生命圏環境科学科

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深海生物研究 事始め ~深海調査に参加して~

 市村昌大君(現、大学院環境科学専攻修士課程1年)が、本学科の学生として初めて海洋研究開発機構(JAMSTEC)の深海調査航海(「相模湾に投入された2つのマッコウクジラ-生物群集の遷移と鯨骨付着二枚貝の幼生成長に関する研究」主席研究者:大越健嗣理学部教授)に参加しました。市村君の乗船レポートです。

市村 昌大 (大学院 修士1年 / 大越研究室)

深海生物研究 事始め ~深海調査に参加して~01
 2011年1月22日~25日に相模湾初島沖において「相模湾に投入された二つのマッコウクジラ—生物群集の遷移と鯨骨付着二枚貝の幼生成長に関する研究」というテーマで調査は行われました。私はこれに参加し、「かいよう」(3350トン)に乗船させてもらいました。

 海洋生態系の頂点に立つ鯨は、これまで「生きた」状態にスポットが当たってきました。しかし、その鯨が死んだ後どうなるのかということはほとんどわかっていません。鯨は大きな体積を有するため,自然に与えるインパクトは無視できません。
  浅い海では、太陽の光を浴びて植物プランクトンや海藻(草)類が光合成を行い増殖します。それを動物プランクトンや草食の生物が食べ、さらに大型の生 物がそれらを餌にします。これら光合成に依存する浅海生態系の頂点に立つ鯨は、死んで深海に沈んだ後は、深海に自らため込んだ有機物を供給し、そこに集ま る生物(鯨骨生物群集と呼ばれています)を支えることになるのです。つまり、鯨は「浅海と深海をつなぐ生物」であり、さらに「光合成生態系と化学合成生態 系(*1)をつなぐ生物」ということが言えます。
   一方、近年 深海に形成される鯨骨生物群集が新たな化学合成生物群集として、また、その存在が化学合成物群集の分散に関わるステッピング・ストーンとして機能している のではないかという仮説が提出され注目されています。つまり、世界のあちこちの海底に沈んだ鯨を「飛び石」として利用しながら、様々な生物が、遠くまで移 動しているのではないかと考えられています。しかし、鯨の死からこれらの群集の成立、さらには遷移の過程については、不明な点が多く残されています。

   2002年に鹿児島県大浦町でマッコウクジラ14頭が集団座礁し死亡しました。そのうち12頭は薩摩半島の野間岬の沖、水深200~300mの ところに投入されました。これらは鯨が死んで間もないものであること、投入時期とその位置が特定されていることから、海底に沈んだ鯨がその後どうなるのか を継続的に検討することが出来ます。そして、2005年と2008年に新たに別のマッコウクジラ2頭が相模湾初島沖に沈められました。そこは、水深が 1000m近くあるところで、いわゆる「深海」に属するところです。光合成に必要な光は全く届かず、低温の海底では鯨の分解の進行は浅海よりも遅くなるこ とが予想されます。
  初島沖の2頭と野間岬沖の12頭はすべてマッコウクジラですが、場所や沈んでいる深さや海底の環境が異なります。いつ、どのような生物が来遊するのか、両者の異同の比較という点でも注目されています。
  この航海の中で、東邦大学と石巻専修大学のチームは、鯨の骨にどのような二枚貝が付着してくるのかについて調査しました。

 私は元々釣りを通して海が好きになり、海の生物に関する勉強ができる東邦大学に入学しました。大学に入ってからはスクーバダイビングを始め、その中で浅 海にあがってくる深海性の魚と出会い、漠然とですが「深海」というものに興味を抱いていました。4年次の卒業研究では風呂田研究室に所属し、プランクトン (カイアシ類)の日周鉛直移動(*2)について研究を行い、西伊豆にある大瀬崎において昼夜にわたりプランクトンネットを曳き、種類ごとの密度の日周変化 を調べました。
 その後、大学院(環境科学専攻)に進むことが決まり、「深海」をキーワードに研究活動を行いたいと思い、新たに設立された大越研究室(大越健嗣 教授:2010年9月着任)の門をたたきました。研究を始めるにあたり、大越先生に相談すると「それならば、調査の方法や修士研究の具体的なテーマ決めな どの為に、調査に同行した方が良い」と勧めてくださり、本調査への同行が実現しました。
 調査は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の深海調査航海において行われました。乗船した船は3350トンもある大型の深海調査船「かいよう」、実際に深海に潜航する無人探査艇「ハイパードルフィン」を積んでいます。
 私は、大越教授はじめ当時石巻専修大学所属(現在は東邦大学所属)の鈴木氏と山口氏による御指導のもと調査の手伝いを主に行い、その中でハイパードル フィンのカメラがとらえた深海の地形や生息する生物の行動をリアルタイムで観察しました。テレビや書籍でしか見たことのなかったシロウリガイやハオリムシ などの生物をはじめとして、冷湧水域(*3)という深海に特徴的な環境を目の当たりにして感動しました。また、採取された海底の堆積物が強烈な臭いを発し ていて、鯨骨周辺の堆積物がバクテリアによる分解などによって嫌気的であることを直感的に感じられたことなどから、興味があった深海がぐっと身近になりま した。このように、深海に対するイメージがより詳細で具体的なものになり、さらに深海の研究を行う上で、どの様なことをどの様な機器を使って行うことが出 来るのか、という感覚を大まかに掴むことが出来ました。また、多くの研究者が船の中で寝食を共にし,協力しながら調査を進めるという経験は初めてで、研究 テーマを見つけるという目的だけでなく、研究者がどのような姿勢・行動で研究活動を行っているかを学ぶ良い機会となりました。

  その後、研究室に戻り無人探査艇のハイパードルフィンによって撮影された画像の解析を始めました。海底に貝殻が多く堆積しているところ(冷湧水域)では、 堆積している貝殻は、シロウリガイ類とシンカイヒバリガイ類で構成されていることが確認できました。その中で、シンカイヒバリガイ類の貝殻は溶け出してボ ロボロになっている状態のものが多い一方、シロウリガイ類の貝殻はキレイな形を保ったままのものが多いという事も確認出来ました。この貝殻が溶けてボロボ ロになる要因に関しては、冷湧水域ではpHが低下し炭酸カルシウムが溶解しているものと考えられますが、その程度は種によって溶解の様子が異なっていま す。このような環境で、貝はどのように貝殻を形成し溶けないようにしているのか…この疑問に興味がわき、現在 これら深海の貝を研究対象として、その謎の解明に取り組んでいます。

(*1) 化学合成生態系:深海におけるメタンや硫化水素が噴出する熱水噴出孔や冷湧水域周辺などにおいて、化学合成細菌を一次生産者とする生態系のこと。

(*2) 日周鉛直移動:プランクトンなどが、昼間は深層で過ごし、夜になると表層に移動すること。

(*3) 冷湧水域:海底プレートが地球の内部に入ってゆくところにあり、周囲とあまり変わらない温度の湧水(冷湧水)とともに、硫化水素やメタンなどが湧くところ。

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