日本発の成層圏大気観測衛星 宇宙へ
写真:H-ⅡBロケットの打ち上げ(2009年9月11日未明) (JAXA 提供)
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SMILESがISSにロボットアームで取り付けられる瞬間
(JAXA 提供) -
SMILES(矢印の先)が装着されたISS全景
(NASA 提供)
現在の地球大気は高度30kmあたり(このあたりを成層圏と呼んでいます)を中心としてオゾンの濃度の高い領域-オゾン層が広がっています。濃い といっても体積比でせいぜい100万分の5程度しかなく、オゾン層にあるオゾンを全部地上に集めてもせいぜい厚さ3mm程度にしかならないくらいのわずか な量です。しかし、これだけの量のオゾンが上空にあることで太陽から降り注ぐ有害な紫外線が遮断され、我々は陸上で安全に過ごすことができるのです。オゾ ン層は今から数億年前に地球大気の酸素濃度が上昇し始めてから形成され、このことがそれまで海(水)中にしか存在できなかった生物が陸上に進出することを 可能にしました。危険な紫外線から生物を守るいわば防護服の役割をオゾン層は担っているのです。
しかし20世紀になってこのオゾン層を脅かす物質を人類は作り出しています。フロン類に代表されるこれらの物質は、地上で扱っている分には全く無害です が、ひとたび成層圏に到達するとオゾンを破壊する有害な物質へと変質してしまうのです。1982年に南極昭和基地上空で初めて観測された「オゾンホール」 はまさに象徴的な出来事でした。オゾン層が破壊されるメカニズムが徐々に明らかになるとともに、フロンやハロンといった原因物質の規制が始まりました。成 層圏オゾン化学研究も精緻化が進み、その成果を利用する形でオゾン層の将来予測ができるようになっています。1990年代以降合意されたフロン類の規制の 効果は今後10年以内に現れ始め、2050年頃には元の状態に戻るのではないかとの予想がされています。しかし既存の大気モデルでは説明できない観測結果 があることも事実で、本当に我々が描くシナリオどおりにオゾン層が回復するのか、しっかりと見守っていかなくてはなりません。
こうした大気のモニタリングには衛星による観測が極めて有効です。SMILESはこうした目的のために計画された日本発の大気観測ミッションです。"スマイルズ"というかわいらしい名前が付いていますが、これは超伝導サブミリ波リム放射サウンダー(Superconducting sub-MIllimeter-wave Limb Emission Sounder)の頭文字をとって名付けられたものです。この装置は国際宇宙ステーションから地球大気をかすめるように観測し、オゾンやオゾン破壊関連物質の高度分布を明らかにします。
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WMO/UNEP (2002) より
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SMILEの装置構成
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ファーストライトを記念した関係者の寄せ書き (思わず「NASAもビックリ!」と書いてしまいました)
ファーストライトの後、観測装置の定常運用に向けて全システムの機能確認が進められました。そして11月6日に関係者が集まり確認会が開かれ、今 後の観測装置の運用に関して問題となるところはないことが報告され、定常観測へ移行することが認められました。SMILESは今後少なくとも1年間ISS から地球大気を見守り続けます。観測装置の設計寿命は一年ですが、もし一年経過した時点でまだ観測を継続することが可能な状態であれば、引き続き運用を継 続させることが認められています。SMILESはオゾン層とオゾンを破壊するハロゲン化合物をこれまでにない高い精度で観測します。世界中の大気科学研究 者がSMILESの描き出す「新しい成層圏の様子」がどんなものであるか、固唾をのんで見守っています。
SMILESの初期運用の成果についてはJEM/SMILESのホームページをご覧ください。
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SMILESの初期観測データをもとにしたオゾンの全球分布(JAXA 提供) (縦軸が高度、横軸が緯度)
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SMILEのミッションロゴ