理学部生命圏環境科学科

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日本発の成層圏大気観測衛星 宇宙へ

尾関 博之 (教授 / 地球科学コース)
写真:H-ⅡBロケットの打ち上げ(2009年9月11日未明) (JAXA 提供)
 2009年9月11日未明、日本の次世代大型ロケットH-IIBが二基のターボエンジンの爆音をとどろかせながら種子島宇宙センターから宇宙に飛び立ち ました。ロケットの上部には重量が16t以上もあるペイロード(積荷)が積まれていました。それはHTVと呼ばれる輸送機の初号機で、高度400kmを飛 翔する国際宇宙ステーション(International Space Stationの頭文字をとってISSと呼ばれます)に向けて物資を輸送する役目を担った重要な荷物なのでした。打ち上げからおよそ15分後、ロケットは 順調に第二段エンジンの噴射を終了し、HTVを無事切り離しました。打ち上げは成功しました。
写真:H-ⅡBロケットの打ち上げ(2009年9月11日未明) (JAXA 提供)
 初飛行となったHTVはロケットからの切り離し後、自立航行を開始しISSへ向かいました。途中ISSに安全にドッキングするための様々な機能確認を行 い、約一週間後の9月18日、無事ドッキング作業が終了しました。日本が宇宙への新たな輸送手段を獲得した瞬間でした。HTVは大きく三つの区画から構成 されています。一番根元の部分は推進部と呼ばれ、ここには自立航行のための制御機器類と推進薬が積まれています。そしてISSとドッキングする側の区画は 与圧部といって1気圧の大気が満たされ、宇宙実験に用いる材料、生物、それに宇宙飛行士がISSで生活するための物資が搭載されています。この与圧部と推 進部に挟まれた区画は外との仕切りがありません。ここには宇宙空間に直接さらされる環境に設置されるさまざまな観測機器が積まれています。今回ここには NASAが開発したHREPという沿岸海域を観測するための光学センサーと、成層圏オゾンを観測する日本のSMILES(スマイルズと呼びます)が搭載さ れていました。このSMILESの開発に東邦大学は参加しています。

 現在の地球大気は高度30kmあたり(このあたりを成層圏と呼んでいます)を中心としてオゾンの濃度の高い領域-オゾン層が広がっています。濃い といっても体積比でせいぜい100万分の5程度しかなく、オゾン層にあるオゾンを全部地上に集めてもせいぜい厚さ3mm程度にしかならないくらいのわずか な量です。しかし、これだけの量のオゾンが上空にあることで太陽から降り注ぐ有害な紫外線が遮断され、我々は陸上で安全に過ごすことができるのです。オゾ ン層は今から数億年前に地球大気の酸素濃度が上昇し始めてから形成され、このことがそれまで海(水)中にしか存在できなかった生物が陸上に進出することを 可能にしました。危険な紫外線から生物を守るいわば防護服の役割をオゾン層は担っているのです。
 しかし20世紀になってこのオゾン層を脅かす物質を人類は作り出しています。フロン類に代表されるこれらの物質は、地上で扱っている分には全く無害です が、ひとたび成層圏に到達するとオゾンを破壊する有害な物質へと変質してしまうのです。1982年に南極昭和基地上空で初めて観測された「オゾンホール」 はまさに象徴的な出来事でした。オゾン層が破壊されるメカニズムが徐々に明らかになるとともに、フロンやハロンといった原因物質の規制が始まりました。成 層圏オゾン化学研究も精緻化が進み、その成果を利用する形でオゾン層の将来予測ができるようになっています。1990年代以降合意されたフロン類の規制の 効果は今後10年以内に現れ始め、2050年頃には元の状態に戻るのではないかとの予想がされています。しかし既存の大気モデルでは説明できない観測結果 があることも事実で、本当に我々が描くシナリオどおりにオゾン層が回復するのか、しっかりと見守っていかなくてはなりません。
 こうした大気のモニタリングには衛星による観測が極めて有効です。SMILESはこうした目的のために計画された日本発の大気観測ミッションです。"スマイルズ"というかわいらしい名前が付いていますが、これは超伝導サブミリ波リム放射サウンダー(Superconducting sub-MIllimeter-wave Limb Emission Sounder)の頭文字をとって名付けられたものです。この装置は国際宇宙ステーションから地球大気をかすめるように観測し、オゾンやオゾン破壊関連物質の高度分布を明らかにします。

 SMILESは9月25日にISS日本実験棟船外実験プラットフォームにとりつけられ、直ちに観測装置の立ち上げが始まりました。10月5日頃までに装 置の各部分の初期性能確認が終了し、10月10日に初めて地球大気からの信号を捉えました。SMILESは世界最高性能の受信機を搭載している野心的な観 測装置で、もし装置が所定の性能を発揮すればこれまで得られていたどの大気観測装置よりも高精度の大気情報を捉える事ができるものと期待されていました。 10月10日に我々が最初に観測した大気の信号(スペクトルと呼びます)は、我々の想像以上のもので、得られたスペクトルのあまりの美しさに息を呑みまし た。SMILESはその開発開始から10年もの年月を要するミッションとなり、観測装置の開発に携わった我々は途中何度もくじけそうになりながらも、この 日を迎えたわけです。観測装置に大気からの信号を初めて導入してスペクトルを得ることを「ファーストライト(最初の光)」と呼んでいますが、この日に得ら れたファーストライトの信号は、我々のそれまでの苦労を全て吹き飛ばしてくれるような素晴らしいものでした。

 ファーストライトの後、観測装置の定常運用に向けて全システムの機能確認が進められました。そして11月6日に関係者が集まり確認会が開かれ、今 後の観測装置の運用に関して問題となるところはないことが報告され、定常観測へ移行することが認められました。SMILESは今後少なくとも1年間ISS から地球大気を見守り続けます。観測装置の設計寿命は一年ですが、もし一年経過した時点でまだ観測を継続することが可能な状態であれば、引き続き運用を継 続させることが認められています。SMILESはオゾン層とオゾンを破壊するハロゲン化合物をこれまでにない高い精度で観測します。世界中の大気科学研究 者がSMILESの描き出す「新しい成層圏の様子」がどんなものであるか、固唾をのんで見守っています。
SMILESの初期運用の成果についてはJEM/SMILESのホームページをご覧ください。

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