理学部生命圏環境科学科

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純国産のエネルギー ~地熱エネルギー~

山口 勉 (教授 / 環境管理・創成科学コース)

日本は世界有数の火山国

 日本は世界的に見ても極めて地熱資源に恵まれた国の一つです。私たちにとってなじみの深い温泉を例に取ると、平成19年度末で日本全国の温泉地の総数は3,100以上もあり、温泉からの水の湧出量は1分当たり約280万m3にもなります。これは東京ドーム容積の2杯分にも相当する量です。このように大量に地下から熱水や蒸気が噴出することは、日本の地下に大量の地熱エネルギーが存在することの何よりの証拠です。私たち日本人にとっては温泉の存在は空気や水と同様に極めて当然のことであり、その恩恵を意識することはほとんどありません。しかしながら地熱エネルギーの賦存を全世界的に見ると、その分布はかなり偏っており、地球上の火山の分布は環太平洋造山帯と地中海ヒマラヤ造山帯と呼ばれる二つの造山帯に集中しています。火山の集中地域が地熱地帯ですから、地熱資源に恵まれた地域や国も地球上で偏在していることになります。ちなみに、日本の国土の総面積は全世界の陸地総面積の高々0.27%であるにもかかわらず、活火山の数は全世界の829に対して76であり、おおよそ10%が日本に集中していることになります。

火山国の地下は巨大な天然のボイラー

 地熱発電とは端的に言えば、地下深部の地層中に貯えられている蒸気を井戸を掘削することによって自噴させ、その蒸気を用いてタービンにより発電する方式です。一般の火力発電が蒸気を発生させるためにボイラーを使用するのに対して、地熱発電は地下深部の天然蒸気を利用することになります。したがって地熱発電は火力発電の一種に分類されることもありますが、地熱発電では化石燃料が不要となることが大きなメリットです。また地球規模の環境保全の観点から見れば原子力発電、水力発電、風力発電、太陽光発電等と同様、炭酸ガス排出量が少ないという大きな利点もあります。

世界で初の地熱発電所

 火山国であれば、地表に勢いよく噴出する蒸気を見て、これを発電に用いようとするのは極めて自然な発想です。世界で始めて天然蒸気を用いて地熱発電を行ったのは火山国として知られるイタリアで1904年のことでした。エジソンが世界初の火力発電所を建設したのは1881年ですから、これより23年遅れて地熱発電の歴史が始まったことになります。この地熱発電はイタリアのラルデルロという場所で行われました。ラルデルロはピサの斜塔で有名なトスカーナ地方にあります。当時ラルデルロでは天然蒸気中から硼酸を取り出していましたが、ジノリ・コンチ公爵がこの蒸気を用いて0.75馬力の発電機により5個の電灯をともしたとされています。写真は、世界で初めて発電に使用された井戸から蒸気が噴出しているところです。
世界で初の地熱発電所

日本での地熱発電所は

 日本では1966年に東化工が岩手県松川に国内で始めての9,500kWの地熱発電所の運転を開始しました。それ以降、主に東北地方や九州地方で地熱発電所の建設が進められ、認可出力の合計は平成20年3月末で535,260kWとなっています。東京都でも1998年に八丈島で3,300kWの地熱発電所が運転を開始しています。地熱発電は日本の豊富な地熱エネルギーを利用した、環境にやさしい発電方式なのですが、自然の貯留層を対象とするために開発に時間がかかることや、発電の適地が国立公園内にあることなどが原因で、その建設はなかなか進んでいません。

高温岩体発電方式

 地下深部まで井戸を掘削し、地熱貯留層を探し当てることは高額の費用とリスクを伴います。せっかく、地下2,000mくらいまで井戸を掘削しても天然の貯留層がなければ地熱発電を行うことはできません。とはいえ、日本のような火山国であれば、高温の岩盤は至るところに存在します。このような天然の貯留層はないが、高温の岩盤を用いて発電を行う方法として、高温岩体地熱発電方式が考えられました。この方式は1970年頃に米国ニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所の研究員であったモートン・スミス氏とロバート・ポッター氏によって提案されたものです。その原理は、深度3,000~4,000mにある200℃~300℃の高温の花こう岩に高圧の水を注水することによって、二つの井戸の間に割れ目群を造って人工貯留層とし、その人工貯留層に一方の坑井(注水井)から注水を行い、もう一方の坑井(生産井)から高温岩体が持つ熱エネルギーを蒸気や熱水として地表に取り出して発電するというものです。ロスアラモス国立研究所ではフェントンヒル実験場において3,000m級の井戸2本を約200℃の岩盤中に掘削し1977年に世界で初の循環試験を実施しました。日本でも、山形県最上郡肘折地区において高温岩体発電システムの研究開発が実施されました。肘折では深さ1,800mから2,200mに掘削された合計で4本の井戸を用いて、2000年から約2年間にわたって長期の循環試験を実施し、高温岩体を用いた発電方式が可能であることを実証しました。写真は、肘折地区での高温岩体発電の実験風景です。
高温岩体発電方式

マグマ発電

 高温岩体発電方式が対象とする岩盤よりもさら高温の岩盤を利用しようとする発電方式としてマグマ発電方式が提案されています。マグマ発電とはこのマグマの直近まで坑井を掘削し、その熱エネルギーを直接的に採取する方式です。この研究開発は、米国のサンディア国立研究所により1975年に始まりました。この方式を技術的に実現できるかどうかは、高温のマグマ中まで掘削が可能かどうかにかかっていますが、近い将来にはこの方式が実用化されるかもしれません。

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