理学部教養科

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映画へのいざない『裸の島』

英語教室 三輪恭子
『裸の島』(1960年作品 日本)

 この映画は、法学の長先生からご紹介いただきました。タイトルで別ジャンルの映画と誤解しないでくださいね。国際的な評価の高い新藤兼人監督(1912-2012)の作品です。1961年のモスクワ国際映画祭グランプリ受賞をはじめ、様々な国際映画祭の賞を受けています。瀬戸内海の小さな小さな、何もない丸裸の島で暮らす、夫婦とその子供たちの過酷な生活を淡々と描いています。長先生がこの映画をご覧になられた時(「あの頃は若かったですねえ」とのこと)、主人公夫婦の姿に強烈な印象を受けたそうです。この映画の一つの見どころは映像美です。無人島(広島県の宿禰島)一つを使ってロケしただけはある、迫力に満ちた風景に圧倒されます。
 瀬戸内海の小島の不便ぶりは、私たちの想像を超えるものです。隣の島に渡るには、船しか手段がありません。基本的に自給自足。着る物はボロ。売り物になるような魚が捕れない限り、現金は手に入りません(これは厳しい・・・)。主人公の夫婦は、痩せた畑に水をやるため、毎日手漕ぎ船で隣の島から水を汲んできます。天秤桶をかつぐ乙羽信子(新藤監督の妻で女優)のよろよろとした足取り。モノクロ映像がいっそう哀れを誘います。
こんなに辛い生活なのに、現実は全く報いてくれません。以下に、長先生の言葉を引用します。
「乾いた土は、水を注いでもすぐに吸い取ってしまう。注いでも注いでも、太陽に照らされ乾いた大地は水を吸い取ってしまう。
乾いた心は水を欲する。しかし、注がれた水はすぐに吸い取られてしまい、また水を欲する。
倦むことなく黙々と繰り返される水を運ぶという労働。
それでも乾いた心は水を欲する。」

「水」が印象に残る映画です。ひたすら水を運ぶ、運ぶ、運ぶ。乾いた土にひたすら水をやる、水をやる、水をやる。転んで水をこぼそうものなら、嫁にビンタを食らわせる旦那(嫁より水が大事!?)。水は、植物だけではなく人間が生きていく上でも欠かせないものです。長先生が「乾いた心は水を欲する」とおっしゃるように、心を潤す「水」とは何か、一家の心を満たすものとは何か。「水」は、身体も心も含め、人間が存在するのに必要なものとも考えられます。
 彼らの島から海をわたってすぐの本土(広島県の尾道)は、ロープウェイで行楽も楽しめる資本主義の世界です。高度経済成長期の日本において、この夫婦の島は時代から取り残されています。これほど極貧の生活をしているなら、なぜ本土なり新天地なりに逃げださないのか不思議になりますが、理由は語られません。離れられない事情(借金で動けないとか)があるのか、土地を離れるという発想自体がないのか・・・想像はふくらみます。
作品のクライマックスでは、家族にさらに悲惨な事件が起こります。ついに感情を爆発させる乙羽信子。作品全体を通し、セリフらしいセリフがほとんどない中で、彼女の号泣は観客に強い印象を与えます。夫は、泣き叫ぶ妻を慰めるでもなく、まして、やけになって水を地面にこぼす妻を殴りつけるわけでもなく、ただ立ち尽くします。その姿は妻へのやるせない思い、自分の力の及ばない環境への絶望感、諦め、忍耐を表しているようです。やがて妻は嗚咽をおさえ、立ち上がり、農作業に戻ります。彼女も夫と同じ、諦めと忍耐に従って生きていくのでしょう。
世界の片隅で身を寄せ合い生きていくこの一家には、どのような未来が待ち受けているのか。見ていて暗くなること必至の映画ですが、同時に、極限状態にある人間の凄味を感じさせてくれます。厳しい現実の中にも小さな喜びがあり、時に裏切られ、それでも生きてゆく。人の生き様について突き詰めたこの映画を、若い内にぜひご覧になってください。そして鮮烈な衝撃に震えてほしいと思います。

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