理学部化学科

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金の色と相対論効果

金原子の軌道エネルギー

金原子の電子配置は[Xe] 4f14 5d10 6s1(電子殻を使って書けば K2 L8 M18 N32 5s2 5p6 5d10 6s1)となります。最もエネルギーが高い軌道が6s軌道で,その次に高い軌道が5d軌道です。比較のために銀原子の電子も示してみると,[Kr] 4d10 5s1(K2 L8 M18 4s2 4p6 4d10 5s1)です。それぞれのエネルギーの高さを図3に示しています。図は軌道に入る電子がもつエネルギーの計算値ですが,相対論効果を考慮したときのエネルギー(R)と考慮しないときのエネルギー(NR)の両方を示しています。相対論効果を取り入れた計算では金でも銀でもd軌道とs軌道のエネルギー差が小さくなります。先に述べたように相対論効果の影響は金の方が大きく,ns軌道は安定化し(n-1)d軌道は不安定化するので,二つの軌道のエネルギー差Δが小さくなります。このエネルギー差Δはd軌道にいた電子がs軌道に上がるために必要なエネルギーですが,相対論効果のために金の差ΔAuのほうが銀の差ΔAgよりも小さく,より少ないエネルギーで上がることができます。もしこのエネルギーを光のエネルギーで与えるとすると,金の方がより長い波長の光(赤色側の光)で達成できることになります(光のエネルギーはE = hν = hc / λの関係があります:hはプランク定数,cは光速,νは振動数,λは波長)。

図3 金と銀の基底状態の最外殻付近の軌道エネルギー(Eorb)の計算値。相対論効果を考慮しない(NR)ときと,考慮するとき(R)の軌道エネルギーの位置を示している。縦軸がエネルギーで,下にある軌道に電子が入るほど,電子は安定。相対論効果を考慮すると,d軌道に入る電子は軌道運動による磁気モーメントと電子自身がもつ磁気モーメントの相互作用で,二つのエネルギー準位に分かれる。金と銀の基底状態(一番安定な状態)では電子はd軌道に合計10個,s軌道に1個存在する。

金属の色

 図は孤立した原子についての計算値ですが,実際の固体についても本質的に同じことがいえます。金属の金では5d軌道の電子が6s軌道に移動するために必要な最低限度のエネルギーがおよそ2.4 eVで,これは光の波長にすると520 nmです。520 nmは可視光の領域にあり,これよりも短い波長の光(よりエネルギーが高い光)を5dから6s軌道への移動に使うことができます。このため金では紫から青色の領域の光を吸収しそれよりも長波長の黄色や赤色の光を反射することになり,あの特徴的な黄金色を示すのです。これに対して銀ではΔAgがΔAuよりもずっと大きく3.7 eV程度,波長にすると335 nmで,これよりも短い波長の光を吸収します。したがって可視光領域の光を吸収しないので,白く見えるのです。

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