私たちの最近のとりくみ(2)
私たちが作った抗菌環状ペプチド
私たちの戦略
最近の研究で、人の細胞のまわりにあるコレステロールの量が、細菌の細胞膜のまわりにある量にくらべかなり多い事が分かって来ました。私たちは、それならば、このコレステロールの量の差をうまく利用すれば人の細胞に作用しないで細菌にのみに作用するペプチド抗生物質を合成できると考えました。コレステロールは親油性ですから抗生物質中で活性発現に必要な部分を保持したまま、うまいこと親水性の部分を増やせばよいはずです。すなわち親水性の側鎖をもったアミノ酸をうまく導入してやれば、そのペプチドはコレステロールとの親和性が弱まり、その結果として人の細胞に近づけなくなるでしょう。その一方で細菌に対する作用は残っていることが期待できます。この考えを基に、様々なグラチシン類似体をデザインし、その合成を行ってきました。
戦略,功を奏す
現在までに合成したグラチシン類似体のうち、高い抗菌活性を示した類似体についての溶血活性を測りました。(溶血活性の測定には、人の赤血球を使います。そのため人の細胞に作用するかどうかの指標になります。) その結果(図7参照)、GR-8という抗生物質が、人に作用せず菌のみに強い抗菌作用をしめす興味深い性質を持つことが分かりました。グラチシンとGR-8の一次構造の違いは、フェノール性側鎖をもつD-Tyr残基が、メチル基側鎖を持つD-Ala残基に置き換わった構造を持っていることです。(図7参照)また、D-Tyr残基をD-Lys残基に換えると緑膿菌(院内感染の原因細菌の一種)にも効くようになりました。
それでは、なぜ、この様なことが起きるのでしょうか。現在、様々な方法を用いてその事について検討を加えているところです。今後は、さらに様々なアミノ酸残基を持つ類似体の合成を行い、面白い性質を持つペプチド抗生物質の開発を行っていきたいと考えています。
それでは、なぜ、この様なことが起きるのでしょうか。現在、様々な方法を用いてその事について検討を加えているところです。今後は、さらに様々なアミノ酸残基を持つ類似体の合成を行い、面白い性質を持つペプチド抗生物質の開発を行っていきたいと考えています。