私たちの最近のとりくみ(1)
抗菌作用をもった環状ペプチド
はじめに
私たちは、環状ペプチド抗生物質の研究を行なっています。皆さんもご存知のように近年、病院内での耐性菌の発生が問題になっています。私たちが、研究の対象としている抗生物質は、耐性菌を作りにくいという特徴があります。しかし、人の細胞にも作用してしまうという困った性質もあります。そこで、人の細胞には作用せず、目的とする細菌にのみ作用するペプチド性抗生物質はできないものかと、研究を続けてきました。
耐性菌を作りにくいグラミシジンSとグラチシン
ペプチド抗生物質 グラミシジンS、cyclo(-Val-Orn-Leu-D-Phe-Pro-)2、とグラチシン、cyclo(-Val-Orn-Leu-D -Phe-Pro-D-Tyr-)2(図5)は、枯草菌、ジフテリア菌、黄色ブドウ状球菌などの菌に非常に強い抗菌力を持つアミノ酸10個と12個からできた環状ペプチドです。その1次構造と2次構造を図5に示します。これらの抗生物質の特徴は、今、問題になっている耐性菌を作りにくいということです。そのため、最近、多くの研究者に注目されています。ただ、人の細胞も破壊してしまうという厄介な性質も併せ持っています。
細胞膜を破壊するから菌に効くけど,人の細胞も破壊してしまう
グラミシジンSとグラチシンの菌の細胞膜に対する作用機構を図6に示します。図のように、これらの抗生物質は細胞膜に作用します。まず、膜に結合するとそれぞれ強固なβシート構造を取ります。そして、膜の内部の親油性部分にValとLeu残基の親油性側鎖がめり込んで行きちょうどセッケンのように膜を破壊し穴を開け菌の内容物を溶出させ死にいたらせます。細菌が、膜の構造を全て変化させる事は不可能なのでこれらの抗生物質は、耐性菌を作りにくいのです。ただ、人の細胞膜も図と似た構造をしているので、このペプチドの仲間は細菌ばかりか人の細胞にも作用してしまうのです。