筋収縮や記憶に関わる受容体の働きを光でスイッチON/OFFする手法の開発研究が論文誌のFront Coverに採用されました
古田研究室修了生の横山愛果さん(修士)と 青木花美さん
(修士),研究員の鈴木商信博士が中心になって進めて,船山瑞季さん,篠崎稜君と吉田浩都君の研究もまとめた論文が,Chemistry Europa (欧州15か国,16化学会の連合組織) の論文誌ChemPhotoChemのFront Coverを飾りました。
古田研究室では,光スイッチ分子である「ケージド化合物」を設計・合成して,細胞の生理機能を光操作する技術を開発してきました(光作動性抗がん剤,遺伝子指向性シグナル分子と抗がん剤など)。今回の報告は,心筋細胞や神経細胞に普遍的に存在し,筋収縮やシナプス可塑性に関与する,リアノジン受容体(RyR)の働きを光制御可能にする遺伝子指向性ケージド化合物を設計・合成した研究です。開発したケージド活性化剤を哺乳動物細胞に加えて光照射すると,狙った細胞内のRyRが活性化されて,カルシウムイオンの濃度上昇が観察されました。RyRの選択的活性化剤のケージド化合物を合成した初めての例です。
リアノジン受容体は細胞内の小胞体膜上に存在するカルシウムイオン放出チャンネルで,骨格筋や心筋の収縮に関与し,その機能不全は筋ジストロフィーのような疾患の原因になります。脳では,記憶に関わるシナプス可塑性や神経細胞興奮性への関与が示されていますが,その生理機能は不明な点が多く,狙った細胞のRyRの機能を選択的に制御する実験手法の開発が望まれていました。この論文で報告した遺伝子指向性ケージド化合物は,RyRの機能解析を加速する光薬理学ツールとしての利用が期待されます。
この研究の一部は,文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「高速分子動画」の助成を受けて行われました。
Design, Synthesis, and Photochemical Properties of Gene-directed Caged RyR Probes for Photopharmacological Studies
ChemPhotoChem, 2024, 8, e202480801