留学体験記 原 司 さん
目の前にぶら下がったチャンスは、掴んでみたい
私が大学院進学を決めた大きな理由の一つが、ダブルディグリープログラム(DDP)の存在です。3年生の秋学期から、あるテーマを1年間半に渡って研究していたことから、そのテーマについてもっと掘り下げて、何か形に残したいと考えたことも大きな理由の一つです。実際、通常は修士課程の2年間と学部の1年間半を併せると3年間半の研究期間が得られることになります。同じテーマで3年間半も研究をすれば、何かしらの成果が得られるので、それを学会発表や、論文にまとめて発表するなどの機会が得られるでしょう。
私の場合、DDPに採択されるために、まとまった成果が必要であり、2年間半で行うことになりましたが、そのおかげで通常より充実した研究生活を送れました。
海外では、母国語が通じるという甘えは無い、そして相手が英語を話せると思ってもいけない
また、ヨーロッパのドイツやフランス北部など緯度が高い地域は、日長の変化が大きいことに驚きます。夏は、サマータイムを考えたとしても、朝5時くらいから、夜10時半近くまでずっと明るいままですが、冬は逆に朝8時半から夕方4時半ごろまでしか日が出ていません。Eveningは日が沈むまでの時間帯のことを言うそうですが、5~6時頃にラボから帰るとして、夏はまだ5時間近く明るいため、日が沈むまでどのように過ごすかというのは、よく話題に上がりました。逆に、冬は日長が短いため、5時過ぎにラボを出ても、真っ暗で何かをする気も起きません。そもそもヨーロッパは街中でも、日本より街灯が少ないので、街全体が暗いイメージになります。
DDPを通して、私が一番驚いたのは、実験時間の短さです。朝、9~10時頃にラボにきて、夕方5時前まで実験をしたらそれで終わりです。私は東邦大学で9時までにラボにきて、その日によりますが少なくとも夜7時過ぎまでは実験なりをしていたので、ラボにいる時間が4時間以上短くなりました。また、私はDDPの1年間でドイツのラボとフランスのラボに所属して、それぞれ異なるテーマで研究しましたが、国ごとに特色があります。ドイツでは時間が短くなる代わりに、土日も必要であればラボにきて実験をします。対してフランスでは、何が何でも平日中に実験を終わらせて、週末に仕事を残さないようにします。そのためなら、朝早く来て、夜7時半くらいまでは残って作業をする人も見かけます。
そして、一番大変だったことはドイツでフランス用のVISAを申請したときでしょうか。ドイツからフランスに移るので、当然就学VISAが必要になりますが、在ドイツのフランス大使館のホームページは、基本的にドイツ語かフランス語のみで書いてあり、内容の一部が英語訳されています。このため、フランクフルトにあるフランス大使館にVISAの申請をするための、予約システムにアクセスすることさえ一苦労でした。基本的に、ヨーロッパでは自助努力の契約社会なので、行動しないと何も起きません。そもそも、ヨーロッパのEU加盟国の人は、加盟国内はVISAなしで住居の移動が可能のため、VISA取得の方法などを知らない人が大多数です。誰かに代わりにやってもらうこともできないのに、移動する時期が迫り、さらにドイツのケルン大学に提出する修士論文を用意しつつ、終わっていない実験を終わらせなければならなかったので、とにかく忙しかったです。
ヨーロッパにきて良かったことは、早くから海外のラボを知ることができたことです。また、何とかしようと思えば大概のことは何とかなる、ということがわかったのも大きいです。研究の面で言えば、個人ごとに、特に注意を払っている部分とそうでない部分というのが異なり、それぞれがそれぞれに流儀を持っていて、その下で科学的な妥当性というのを議論しています。私は機会があったので、ヨーロッパで二つのラボでの研究を経験しましたが、個人が凄く尊重されていました。逆に言えば自身の正当性を常に証明し続けなければならない厳しさでもあります。実験操作の妥当性や、手順一つ一つ、試薬の取り扱い順まで厳密に設定し、不確定要素を可能な限り排除したがる人もいました。ちなみにこの人は「Strict」「Accurate」「Rigid」などの意味として「Square」を使っていました。「キッチリ確実に」というニュアンスは伝わってくると思います。
このようにヨーロッパに来てから学ぶことがいっぱいありました。もちろん書ききれないことを含め、ほとんど毎日のように何か新しい発見があります。それら一つ一つを発見するたびに、ヨーロッパに行って良かったと思っています。