理学部生物学科

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フィブリノーゲン 血栓形成の立役者 【2007年12月号】

血液のダイナミックな変化

 血液のゲル化を直接おこなう物質はフィブリノーゲンという血液中のタンパク質です。フィブリノーゲンというと、皆さんはフィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルスの感染を思い出す方が多いかもしれませんね。しかし、このフィブリノーゲンは、出血による血液の流出を防ぐ物質です。ですから、出血のある患者さんにフィブリノゲン製剤が用いられました。不幸にも、その製剤の中にC型肝炎ウィルスが混入していたので、C型肝炎を発症してしまったのです。決して、タンパク質であるフィブリノーゲンが悪いわけではありませんよ。
 ところで、血管外に出た血液は、液体から固体に変化(凝固)することにより、血液の流出を防ぎます。この作用を止血機構と呼びます。この反応には血液中の十数種類のタンパク質(血液凝固因子)が関わり、最終的にはフィブリノーゲンがフィブリンという繊維(線維)を形成して、止血することになります。このフィブリノーゲンが行う血液の凝固の反応について解説します。

液体から固体へ ダイナミックな転換

 血液が血管外に出ると、凝固反応系が活性化され、トロンビンが生じます。このトロンビンがフィブリノーゲンをフィブリンとします。その結果、血液が凝固することとなります。このことを、もう少し説明しますと、トロンビンがフィブリノーゲンに作用するとフィブリノーゲンはフィブリンモノマーとなり、他分子のフィブリンモノマーと結合する準備ができます。その後、フィブリンモノマー同士が重合してフィブリン原線維を形成します。このフィブリン原線維はまだ十分に太くないため、更に、多数のフィブリン原線維が集まって、太いフィブリン線維が出来上がります。このフィブリン線維の網で、血球や血小板を絡め込んだ血栓を形成して、傷口を塞ぐこととなります。下図はフィブリン線維の形成機構と電子顕微鏡写真を示しました。また、損傷部に近接した細胞(血管内皮細胞等)は、このフィブリン等を足場として、増殖し、傷口を再生します。
フィブリン線維の形成機構とフィブリン線維の電子顕微鏡写真

フィブリン線維の形成機構
フィブリン線維の電子顕微鏡写真

固体から液体へ フィブリン繊維の溶解

 血液凝固の結果、生じたフィブリンは体内にいつまでも留まっているのではありません。フィブリン塊(血栓)が血管内に留まっていると、血栓より末端に血液が届かなくなり、酸素や栄養物を組織や細胞に運ぶことができなくなってしまいます。その結果、組織が壊死(梗塞)することとなります。このことが心臓や脳で起これば、心筋梗塞や脳梗塞となってしまいます。ですから、血栓形成が十分となると、このフィブリン塊を溶解(繊維素溶解)するタンパク分解酵素(特にプラスミン)が働き、フィブリンをズタズタに切断して、血栓を消失させます。その結果、血液を再び「固体から液体に」戻し、流動性の保った血液を再現するのです。

 血液は、「液体から固体へ」と「固体から液体へ」とダイナミックな反応を繰り返し、生命の維持に大きく関わっているのです。

(血液生物学研究室:丹羽和紀)

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