「こうよう」と「こうよう」解こうよ! 【2007年11月号】
柿食えば・・・
「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」 「秋深し(き) 隣は何を する人ぞ」・・・みなさんも一度は聞いたことがある句だと思います。それぞれ、正岡子規、松尾芭蕉の作です。柿を食べたら法隆寺の鐘が鳴ったのか。ふぅん。隣人は何を生業としているのだろうと秋に思ったのか。ふぅん。たったそれだけ!? たったそれだけにもかかわらず、秋の名句であるというのは、そこが子規の子規たる、そして芭蕉の芭蕉たるゆえんでしょう。門外漢の筆者には名句たる理由を説明できませんが、それでもなんとなく今の季節にぴったりの句には思えます。(だからこそ、名句なのかもしれませんね。)
そう、今、季節はまさに秋。今年は紅葉が全国的に遅れてはいるものの、着実に紅葉前線は南下中です。では、なぜ毎年紅葉は北から始まるのでしょうか。
「こうよう」と「こうよう」
紅葉には、気温の低下が密接に関係しているからです。1日の最低気温が8℃以下になると紅葉が始まり、5~6℃以下になるとさらに紅葉が進むといわれています。鮮やかに紅葉するには、①昼夜の気温差が大きいこと、②空気が澄んで葉に日光がよく当たること、③大気中に適度な湿度があり葉が乾燥しないこと、などが必要ですが、中でも①が最も重要です。
ところで、秋に見られる葉の色の変化を指す言葉としてこれまで「紅葉」の字を用いてきましたが、同じ発音で「黄葉」という字もあるのをご存じでしょうか。こちらも秋の葉色の変化を指す言葉で、文字通り葉が黄色になる現象、あるいは黄色くなった葉を意味します。しかしこれら2つの言葉の発音は同じでも、紅葉と黄葉の仕組みは全く異なります。ではどのように違うのでしょう?
黄葉の仕組み
黄葉する植物の代表はイチョウです。漢字は「銀杏」と書くのはもちろんですが、「鴨脚」とも書くのをご存じですか? イチョウの葉とカモの水かきの形を考え合わせれば、なるほど!!ですよね。黄葉は、秋になると葉で黄色の色素が合成されて黄色になるわけではありません。もともと葉にはカロチノイドと呼ばれる黄色の色素があったのですが、光合成の盛んな夏場は緑色のクロロフィルという色素が大量に存在していて、黄色が隠されています。それが秋の訪れと共にクロロフィルが分解し、より安定なカロチノイドが残るので黄色が現れてくるのです。
ちなみに、黄葉もやがて茶色になりますが、これはカロチノイドもやがては分解されてしまい、同時に柿の渋としても有名なタンニンから褐色の色素が合成されてくるためです。
紅葉の仕組み
では、カエデのように赤く色づく葉では赤い色素が残るから紅葉するのか、というと、そうは問屋がおろしません。紅葉する植物でも秋の訪れと共にクロロフィルが分解して緑色が消え、カロチノイドが残るところまでは黄葉と同じです。しかし紅葉の過程ではさらにアントシアニンと呼ばれる赤い色素が大量に作られるため、赤く色づくのです。紅葉した葉でも一枚の中に赤色と黄色の部分が混在していることがありますが、これはアントシアニンの分布に偏りが生じたために一部でカロチノイドが相対的に多くなり、そのような部分が黄色に見えるのです。
紅葉の意義
秋になり気温が下がってくると、葉の光合成能力も低下し始めます。すると、光が当たってもその一部しか光合成に使うことができず、余分な光エネルギーが細胞内に蓄積します。過剰の光エネルギーは細胞に損傷をもたらしますが、そうなっては植物にとって一大事です。落葉前に葉にある栄養分を少しでも多く回収して、来春に備えないといけないのですから。ここでナイス・プレーをしてくれるのが、紅葉時に蓄積するアントシアニンです。アントシアニンは、光合成でクロロフィルがよく吸収する青色光を吸収してくれるので、過剰な光エネルギーが生まれるのを防ぐことができるのです。こうしてアントシアニンを蓄積することで、葉は少しでも長く光合成できるようになると考えられています。美しく紅葉するためには日光がよく当たることが必要といいましたが、「日光がよく当たる=過剰な光エネルギーが生まれやすい」、ということになりますので、そのような場所にある葉では光による障害から細胞を守るためにアントシアニンが蓄積し、美しく紅葉する、というのも納得いくところです。
業平も愛でた「こうよう」
(植物生理学研究室:高橋秀典)