理学部生物学科

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「見える世界と見えない世界」 【2007年2月号】

 ミツバチの活躍を描いたテレビアニメ「みつばちマーヤの冒険」や「みなしごハッチ」は、子供のころの懐かしい思い出ではないでしょうか。赤や黄色の色鮮やかな花々を飛び回るミツバチは、人と同じように花の色が見えていると思いがちです。ミツバチなど昆虫が見ている世界が実際どのようなものか分かりません。しかし、これまでのさまざまな研究から想像することは出来ます。とくに、人には見えない紫外線が重要な役割をしていることが明らかになってきました。それでは、ミツバチの見ている世界を覗いてみましょう。

 今年の冬は例年になく晴れた暖かい日が続いています。代々木公園の南斜面にはもうタンポポが顔を出して、ハナアブが花蜜を集めていました(1月28日撮影:佐藤正樹)。人には黄色に見えるタンポポも、ハナアブには下の写真のようにまったく別の世界に見えています。
見える世界と見えない世界_01
 動物の目には視細胞と呼ばれる光を受容する細胞があります。外界の光はこの視細胞にある光受容物質(視物質)に吸収されます。ある動物が色を見るかどうかは、視物質が虹の7色(光のスペクトル)のどれを吸収するか、また何種類の視物質があるかを調べれば、見ている色がおおよそ分かります。さらに色光に対する視細胞の反応や視細胞に連なる神経細胞のはたらきを詳しく調べれば、見えている色が分かってきます。光が見える(光覚)や色が見える(色覚)は最終的には脳で作られる感覚ですから、脳のはたらきも調べる必要があります。一方、動物の行動を観察して、色を見分けることが出来るかどうかも大事な手がかりになります。このようにさまざまな方法で動物の色覚が調べられてきました。この結果、ミツバチには赤や黄色は見えませんが、緑や青の他に紫外線はよく見えていることが明らかになりました。そこで、人には見えない紫外線を写真に記録できるようにしたカメラでタンポポを写すと、右側の写真のように花弁だけが光って、真ん中が黒いタンポポが現れます。まるでダーツゲームの「的」のようです。これがミツバチの見ている世界だろうと考えられています。

 生き物の究極の使命は子孫を残すことです。植物は動物のように自由に動き回って生殖行動をすることが出来ません。そこで、おしべの花粉を風に任せて飛ばして周囲の花のめしべに受粉させるか、または花粉を虫の体に付けて確実に同じ種類の花まで運ばせるかの2つの方法をとります。後者の「虫媒花」は餌である花蜜のありかを飛んでいる昆虫に教える必要があります。そこで、遠くからでもよく見えるように、紫外線を反射する花弁と吸収する中央部からなる的のような形でアピールするわけです。都合の良いことにまわりの緑色の葉は青色をよく吸収するので、花だけがくっきりと浮き上がって見えます。このように昆虫に花蜜のありかを知らせる印のことを「花蜜標識」(ネクターガイド)と呼びます。最近、このネクターガイドの紫外線を吸収する物質は花粉を運ばないイモムシなど幼虫に対して忌避性があることが分かりました。遠くから昆虫を呼び寄せるネクターガイドは、花粉を運ばない他の動物達を寄せ付けない2重の仕掛けで生存競争に勝ち残ってきたのです。話は違いますが、ホップと呼ばれているセイヨウカラハナソウの球果はビールに独特の苦味を与えます。抗菌性があるためにビールの製造に昔から使われてきたものです。最近、このホップにはネクターガイドの成分と同じ物質が入っていることがわかりました。

 一方、昆虫も巧妙な工夫をしています。木の葉にそっくりのコノハムシや小枝と見間違うナナフシなど、草木や背景とそっくりに似せる擬態(カモフラージュ)は捕食者の目をくらまします。逆に、ハナカマキリはランの花びらに擬態して、花を訪れる昆虫を捕食します。しかし、よく考えてみるとカマキリが無数の花の1つくらいに化けても、それを目がけて飛んでくる昆虫がそれほど多いとは思えません。この素朴な疑問は、最近オーストラリアの女性科学者によって解明されました。彼女はシロギクの白い花弁に擬態をするハナグモを調べた結果、われわれには白く見える腹部はじつは紫外線を反射するので、他の花弁より目立つネクターガイドになっていることを明らかにしたのです。写真のようにハナグモは自らをネクターガイドと偽って、ミツバチを呼び寄せて捕食する一方で、人と同じように色を見分ける鳥など捕食者から白い花弁に紛れて逃れるという2重の擬態戦略で生き延びていました。(写真はhttp://www.bio.mq.edu.au/behaviouralecology/animals/default.htmlより)。
見える世界と見えない世界_02

 このように自然はわれわれ人に見える世界だけではありません。見えない世界でも植物や動物はさまざまな工夫をこらして生存競争をしています。

(神経生物学研究室:大塚 輝彌)

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