「粘菌という生き物」 【2006年12月号】
粘菌とは?
一方の変形菌の方もハイキング中に森の中で良く見かけます。下の写真は実験室中で寒天の上に飼っているものです。写真の時期は変形体と呼ばれる時期で、これで1つの細胞です。核はたくさんあって分裂して増えるのですが、細胞質が分れないために細胞としては1つです。変形体は黄色だけでなく、種類によっては青とか白、紺色と様々な色をしていています。これが森の中にあって、倒木とかの上にはい上がってきたりするので見つけやすいです。大きいものでは1メートル近くに達するものもあるそうです。これからの季節は結構たくさんの種類が出てきますので、みなさんも注意して探してみましょう。

細胞性粘菌(キイロタマホコリカビ)と変形菌(モジホコリカビ)の写真。(左側)細胞性粘菌は実態顕微鏡で拡大して撮影しています。赤い色は人工の色素で着色した個体です。(右側)変形菌の移動体をシャーレで飼っている様子。濃い黄色い粒は餌として与えたオートミールです。シャーレは直径9 cmで、黄色い変形体の部分は全部1つの細胞です。

細胞性粘菌(キイロタマホコリカビ)の細胞。(左側)水色に見えるのは染色された核内のDNAです。GFPと呼ばれる蛍光タンパク質を細胞質で発現させて蛍光顕微鏡で観察しました。(右側)蛍光で標識した人工の餌を食べさせた細胞を同様に観察したものです。
動物か植物か?
それでは、動物なのでしょうか植物なのでしょうか、それとも菌類なのでしょうか?これに関して、最近になってある程度の答えが出ました。国際的な協力によって、細胞性粘菌の全ゲノムの配列が決定されました。その研究成果から分かってきたことは、粘菌は粘菌であるということです。当たり前かも知れませんが、非常に重要な発見でした。また、この研究からは粘菌が単なる粘菌という変わり種の生き物として放っておくにはもったいない非常に重要な情報をたくさん持っていることが分かってきました。それらについては、また次回以降に述べることにしましょう。

細胞性粘菌(キイロタマホコリカビ)の生活環。1)胞子は楕円形をしています。種によって形が違います。2)胞子から発芽したアメーバ細胞は餌を食べながら増殖します。また、活発に動き回ります。3)餌がなくなった細胞は集合します。4)ナメクジ状の移動体を作り、動き回ります。5)適した場所を見つけて子実体を形成します。
(分子発生生物学研究室:川田健文)