理学部生物学科

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「光るタンパク質 - GFPのお話」 【2006年9月号】

 みなさんは、「光る生き物」というと何を想像するでしょうか?ホタルでしょうか?それともウミホタルでしょうか…。ホタルイカなんぞは眺めて良し食してまた良し、ですが、いずれの生き物もとても美しい光を放ちますね。この夏の初めに、私の研究協力者が長崎の対馬まで採集に出向いてくれた折、おみやげにと4匹の蛍を持ち帰ってくれました。以来一週間、蛍たちは激しい恋の想いを光りに託し、やがて燃え尽きました。明滅する蛍の光を見つめつつ、「ああ、今まさに彼らの体の中では、発光素であるルシフェリンが酵素ルシフェラーゼとATPにより酸化され、緑の光を放っているところなのだよ…」と解説などしようものなら、傍らの家内に「だから理系の人って…」とやられる始末。「でもさ、原因もわからずにただ光っているっていう方が余程不気味じゃないの?」と返す私。いつまでも、平行線。

 さて、今回の話題はホタルではなく、実はオワンクラゲ。もっと正確には、オワンクラゲの体内に存在するタンパク質。人呼んで「緑色蛍光タンパク質」(Green Fluorescent Protein)、略してGFP。ホタルとよく似た緑色の光は、しかし全く異なる発光メカニズムに由来します。ホタルやウミホタルの光は、前述の通り、酵素と補因子に依存的に発色基質が酸化することに由来しますが、GFPは分子そのもの自体が光ります。励起光を受けて不安定になったGFPが、過剰なエネルギーを緑の蛍光として発することにより安定な状態に戻るというわけです。この不思議なタンパク質は1962年に初めて発見されました。そしてそのcDNAがクローニングされたのは、それから30年後の1992年のことです。
光るタンパク質 - GFPのお話_01

GFPを発現している細胞
小胞体・ゴルジ体に局在するタンパク質X

 GFP遺伝子のクローニングとこれを組み込んだプラスミドベクターの開発・製品化は、その後の生命科学の研究に爆発的な貢献をすることになりました。何故って、生きた細胞の中でも光るのですから!具体的にいうと、ある特定のタンパク質(Xとしましょう)の遺伝子を、GFP遺伝子を含んだベクターの中に、制限酵素やDNAリガーゼを使って組み込みます(どうぞ高校生物Ⅱの教科書をご参考に!)。こうしてできた遺伝子を、試薬や電気穿孔法などを使って培養細胞に導入します。やがて細胞の中では、この遺伝子の情報に従って、頭はタンパク質X、尻尾はGFP(もちろんその反対でも構いません)というキメラタンパク質(X−GFP)が作られます。この細胞に青い光(励起光)を照射し、蛍光顕微鏡で観察すると、あら不思議、細胞の中が緑色(蛍光)に光ります。もしタンパク質Xがミトコンドリアのタンパク質ならミトコンドリアが、小胞体のタンパク質なら小胞体が、緑色に光るのです。専門用語でいうと、「細胞内局在」が観察できるわけです。正体不明のタンパク質でも、これを使えば細胞内のどこに局在しているのかがわかります。居場所がわかれば、機能の推測もずいぶんと絞れます。ね、便利でしょ!

光るタンパク質 - GFPのお話_02

 GFPのベクターはその後、いろいろな改変を受け、今では緑色だけでなく、赤や黄色の蛍光を発する仲間もできました。顕微鏡の視野の中、GFPは妖しいまでの美しい光で我々生命科学者を魅了します。灯りを落とし、空調を利かせた部屋の中でのGFPの観察は、夏のさなかでも居ながらにして避暑気分を味わえます(って、やっぱり理系的発想かな?)。

光るタンパク質 - GFPのお話_03

タンパク質Y(緑色)と微小管(赤色)の細胞内局在。黄色の部分は両者の局在の一致を示す。

(生体調節学研究室:岩室祥一)

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