「血液の神秘」 【2006年7月号】
偉大なる運送屋さん、血液
私たちの身体中の血液量は体重の約1/13をしめます。たとえば、体重が52 kgの人では約4 kgの血液が体内にあることになります。この量は生命維持に重要な器官である脳が約1.5 kg、肝臓が約1.2 kg、心臓に至っては0.3 kgであることを考えると随分と多量だと言えると思います。この多量の血液を流している血管も相当な量になります。身体の至る所に張り巡らされているすべての血管をつなぎ合わせると、その長さはおおよそ10万kmにもなります。10万kmといってもピンとこないかもしれませんね。たとえば、地球を2周以上する距離です。また、著者の愛車(Step W)で10万km走るのに11年間を費やしました。血液はこのとてつもなく長い血管を満たし、身体の組織の細胞に酸素や栄養物等を届けて、二酸化炭素や老廃物を受け取って戻ってくるのです。
液体から固体へ、ダイナミックな転換
血液の物質の運搬についてお話しましたが、血液は血管内を留まることなく、常に流れていなくてはなりません。なぜなら、血液は停滞してしまうと固まってしまうからです。たとえば、心臓や脳の血管内で血液が固まってしまうと、細胞に酸素や栄養物を届けられなくなり細胞は壊死してしまいます。これが心筋梗塞や脳梗塞です。ですから、最近は血液をサラサラにする健康食品などがブームになっているわけですね。しかし、この血液が固まるという現象は悪いことばかりではありません。皆さんがケガをして出血したとき、血液が固まることにより、血液の流出や体内への異物(細菌等)の侵入を防いでいます。この反応は血液の液体成分(血液細胞以外の成分)にある十数種類の凝固因子と呼ばれタンパク質による一連の反応により行われます。この凝固因子が一つでも壊れていると十分な凝固反応は行われません。皆さんがご存じの血友病は凝固因子の一つが壊れている疾患です。
液体の血液が固体へと転換する現象を直接司るのが、フィブリノゲンという凝固因子です。フィブリノゲンは凝固反応が進むと限定分解を受け、フィブリンとなります。そして多数のフィブリンが結合して線維状になり、さらに、このフィブリン線維が網目状に束ねられます。そのフィブリン線維の網で血液細胞をからめて塊を作って止血します。
液体の血液が固体へと転換する現象を直接司るのが、フィブリノゲンという凝固因子です。フィブリノゲンは凝固反応が進むと限定分解を受け、フィブリンとなります。そして多数のフィブリンが結合して線維状になり、さらに、このフィブリン線維が網目状に束ねられます。そのフィブリン線維の網で血液細胞をからめて塊を作って止血します。
血液凝固周辺の最近の話題
フィブリン塊の中では血管内皮細胞が増殖して損傷部を修復します。この細胞の増殖にもフィブリノゲン/フィブリンが促進的に働いています。このフィブリノゲン/フィブリンは血管内皮細胞の増殖作用だけではなく、癌細胞の増殖をも促進することが近年報告されています。また、最近、凝固反応を抑制する作用のあるカイコの繭由来の修飾タンパク質に抗エイズ作用があることが示されました。まだまだ、血液凝固周辺の研究の進展には目が離せない状態が続いております。血液は私たちの体内に存在しながら、まだまだ知られていない機能を持つ未知なる物質であるのです。著者の血液への想いは尽きることがありません・・・・(^o^)v。
(血液生物学研究室:丹羽和紀)