探究活動の種を蒔く
–リトマスミルクからブルーベリーミルクへ–
いつも「生物学の新知識」をお読みいただき、誠にありがとうございます。今回は少し趣向を変え、この数年、筆者が小学生から高校の先生方までを対象に行っている広報活動のネタの一部を紹介したいと思います。本記事を見た高校生の方々、高校の先生方、あるいはこれから高校の先生になろうと思っている学生の方々等に活用していただきたいと思います。「自分達もやってみた」から始まり、「こんなふうにアレンジした」、「新しい素材を見つけた」など、今回蒔いた種からはたして花は咲くのか実はなるのか、大変楽しみです。
話題提供の背景
はじめに、私が今回のような話題を提供しようと思った背景を少し説明します。
現行の高等学校の新学習指導要領(以下、新課程)[1]は、2022年4月から導入されました。現在の大学1年生の多くが新課程の1年生に該当します。この新課程では、生徒の資質・能力の育成を目的に、各教科において「課題の把握-課題の探究-課題の解決」を科学的に実践するための活動が重視されるようになりました。なかでも理科においては、あらゆる単元で「授業を観察・実験を中心に探究的に行い、獲得した知識・技能を活用して問題を解決する活動」が強く求められています。学力の3要素のうち特に課題となる探究的な「思考力・判断力・表現力」の育成においては、資料学習よりも観察・実験が思考力をより育成しやすいことから、探究活動を円滑に実施するための教材と学習プログラムの開発が非常に重要な課題となっています。新課程への移行を機に、探究活動に使える実験を開発し紹介することで社会貢献ができないか、私はそう考えるようになりました。
現行の高等学校の新学習指導要領(以下、新課程)[1]は、2022年4月から導入されました。現在の大学1年生の多くが新課程の1年生に該当します。この新課程では、生徒の資質・能力の育成を目的に、各教科において「課題の把握-課題の探究-課題の解決」を科学的に実践するための活動が重視されるようになりました。なかでも理科においては、あらゆる単元で「授業を観察・実験を中心に探究的に行い、獲得した知識・技能を活用して問題を解決する活動」が強く求められています。学力の3要素のうち特に課題となる探究的な「思考力・判断力・表現力」の育成においては、資料学習よりも観察・実験が思考力をより育成しやすいことから、探究活動を円滑に実施するための教材と学習プログラムの開発が非常に重要な課題となっています。新課程への移行を機に、探究活動に使える実験を開発し紹介することで社会貢献ができないか、私はそう考えるようになりました。
探究活動に資するネタとは?
本学理学部で行っている夏休みサイエンス教室に参加された高校の先生方へのアンケートによると、探究活動のネタにおいて何より大切なのが「生徒が興味をもつこと」でした。さらに、実験を伴う場合には、「授業時間内に終わる」、「安全で安価」、「明確な結果が出る」も欠かすことのできない要因に挙げられていました。その気持ち、よーくわかりますが、果たしてそんな都合のよいネタ、そう簡単に見つかるものなのでしょうか?と思いきや、実は割と簡単に見つかりました!
大学入学共通テストは探究ネタの宝庫
みなさんは大学入学共通テスト(以下,共通テスト)をよくご存知だと思います。共通テストの「生物基礎」や「生物」の問題は、実は「そういう目」でみると、高校の教育現場で実際に探究活動として実践できるように構築された問題がたくさん出題されていることがわかります。実際には大学入試センター試験の終盤からその傾向が顕著になり、共通テストプレテスト、そして共通テストへと変遷していく過程において、高校でやってみたら面白いなあという実験ネタがたくさん登場しています。共通テストに出ている実験を自分たちで再現したり応用してみたりすることは、高校生の探究活動の大きなモチベーションになるはずです。探究活動をしっかりやっておくと大学入試にも役立つ、というのは何よりも大きな動機付けになりますね。実際に私が探究活動に向いていると思い、自分で実験してみてその再現性を確認できたものを、いくつか紹介します。
- 缶詰のツナを用いた骨格筋の観察 [2]
- 乳酸菌飲料を用いた乳酸菌の培養とニンニクの抗菌作用の検出 [3]
- オタマジャクシの変態におよぼす化学物質の影響 [3]
- リトマスミルクによる胆汁の作用の観察 [4]
令和5年度共通テスト生物基礎本試験第2問A
これらのうち、「授業時間内に終わる」、「安全で安価」、「明確な結果が出る」の条件をほぼすべて満たしているのが「リトマスミルク」の実験でした。ここで「リトマスミルク」が登場する試験問題を簡単に説明しておきます。詳しくは実際の問題を見てください。
試験問題の概略は、マオさんとナツさんという二人のスーパー高校生がリトマスミルクを使ってリパーゼ並びに胆汁のはたらきを証明するというもので、「ミルクに含まれる脂肪をリパーゼが分解することで生じる脂肪酸(酸性物質)がリトマスの色を変化させる」という仮説に基づいて実験を展開しています。さらに、胆汁がその作用を促進するのではないかと考えた二人は、「リトマスミルク+水(リパーゼの溶媒→対照実験群)」、「リトマスミルク+リパーゼ溶液」、「リトマスミルク+リパーゼ溶液+胆汁」の3種類のサンプルの赤色の度合いを比較し、胆汁の作用の検出を目指しました。ちなみに、共通テストでは「対照実験群」に言及する問題が何度も出てきています。ここにある種のメッセージ性を感じるのは私だけでしょうか。
この問題の場面設定のすごい点は2つあり、「リトマスミルク」という、ほとんどの人は見たことも聞いたこともない、しかし誰もが無理なく想像できるファンタスティックな素材を登場させたことと、教科書でも「脂肪の分解を助ける」という抽象的な表現でしか説明されていない胆汁の作用を明確に表現したことです。
なお余談ですが、共通テストの生物や生物基礎の問題に登場する人物にはその名前や言葉遣いに性別が関係しないような配慮がなされています。こんなところにも時代を感じます。お時間のある人はぜひ共通テストの過去問をチェックしてみてください。
試験問題の概略は、マオさんとナツさんという二人のスーパー高校生がリトマスミルクを使ってリパーゼ並びに胆汁のはたらきを証明するというもので、「ミルクに含まれる脂肪をリパーゼが分解することで生じる脂肪酸(酸性物質)がリトマスの色を変化させる」という仮説に基づいて実験を展開しています。さらに、胆汁がその作用を促進するのではないかと考えた二人は、「リトマスミルク+水(リパーゼの溶媒→対照実験群)」、「リトマスミルク+リパーゼ溶液」、「リトマスミルク+リパーゼ溶液+胆汁」の3種類のサンプルの赤色の度合いを比較し、胆汁の作用の検出を目指しました。ちなみに、共通テストでは「対照実験群」に言及する問題が何度も出てきています。ここにある種のメッセージ性を感じるのは私だけでしょうか。
この問題の場面設定のすごい点は2つあり、「リトマスミルク」という、ほとんどの人は見たことも聞いたこともない、しかし誰もが無理なく想像できるファンタスティックな素材を登場させたことと、教科書でも「脂肪の分解を助ける」という抽象的な表現でしか説明されていない胆汁の作用を明確に表現したことです。
なお余談ですが、共通テストの生物や生物基礎の問題に登場する人物にはその名前や言葉遣いに性別が関係しないような配慮がなされています。こんなところにも時代を感じます。お時間のある人はぜひ共通テストの過去問をチェックしてみてください。
リトマスを溶かせ!
この問題を初めて目にしたとき、「すごい着想!!」と思いました。リトマスミルク、そもそも実在するものなのかとインターネットで検索をかけたら、なんと某試薬会社から販売されていました。ぜひ自分でも実験してみようと思ったところ、残念ながら日本では購入できないとの表示。そこで、自分でリトマスミルクを作ってみようと思い、リトマスの粉末を購入しました。リトマス粉末とは、あのリトマス試験紙の原料と同じもので、リトマスゴケ(Roccella 属:リトマスゴケ科に属する地衣類の総称)から得られます。国内の試薬メーカー数社から購入ができますが、25 gで6千円前後と、少々高額です。単純にミルクに溶かせばよいと思っていたところ、これがなかなか溶けません。ミルクはおろか、水にも有機溶媒にも...。いろいろ調べまくって、最終的にたどり着いたのが、ボイル法。100 mLの三角フラスコに0.3 g/10 mLの割合で水を入れ,ラップをかけて電子レンジでこまめに加熱沸騰を繰り返しましょう。オートクレーブか圧力鍋を持っているなら、それらを使うとずっと便利です。冷却したら濾紙で濾過するか遠心分離を行い、沈澱や残渣を取り除いてください。この濃度の「リトマス原液」を市販の牛乳(1/10量が目安)に混ぜて撹拌すれば、リトマスミルクのできあがりです。リトマス原液は密閉容器に入れ、冷蔵保存してください。
リパーゼも溶かせ!
リパーゼはいろいろな形状のものが販売されています。あらかじめ溶液になっているものが最も使いやすいのですが、高校で実験することを考え、安価で長期保存が可能な「(ブタ膵臓)リパーゼ粉末」を選択しました(25 gで5千円前後します)。そして、これもとにかく溶けない。リトマス粉末以上の難物でした。試行錯誤の末にたどり着いたのは、タンパク質の可溶化に汎用される改変RIPAバッファー。10 mg/mLだと完全には溶解しませんが、リパーゼの作用の検出には十分に使用可能で、1ヶ月くらいなら冷蔵保存ができます。
なお、RIPAバッファーの通常の組成は、「50 mM Tris-HCl (pH7.5), 150 mM NaCl, 1% Nonidet P40かTriton X-100, 0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5%デオキシコール酸ナトリウム」です。ここで注意しなければいけないのは、デオキシコール酸ナトリウムです。この物質は胆汁酸塩の一種なので,後々の実験に支障を来してしまいます。そこで私はデオキシコール酸ナトリウムを含まない改変RIPAバッファーを使うことにしました。
なお、RIPAバッファーの通常の組成は、「50 mM Tris-HCl (pH7.5), 150 mM NaCl, 1% Nonidet P40かTriton X-100, 0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5%デオキシコール酸ナトリウム」です。ここで注意しなければいけないのは、デオキシコール酸ナトリウムです。この物質は胆汁酸塩の一種なので,後々の実験に支障を来してしまいます。そこで私はデオキシコール酸ナトリウムを含まない改変RIPAバッファーを使うことにしました。
胆汁か、それともデオキシコール酸ナトリウムか
胆汁は「(ウシの)粉末胆汁」(25 gで4千円前後)を使用しました。粉末そのものが橙色に着色しているので、色の変化の観察の妨げとなるのが気になる場合は、デオキシコール酸ナトリウム(白色)でも上手くいきます。
百均で買って作れる酸性溶液、アルカリ性溶液
リパーゼの実験をする前に、まずリトマスミルクの色がpHの変化で実際に変わるのかどうかを調べるため、酸性の溶液やアルカリ性の溶液を加えてみました。安全かつ安価な酸性溶液の作製にはクエン酸が適しています。0.1 Mでよいでしょう。あるいは食酢を水で7倍に希釈した液でもOKです。アルカリ溶液は炭酸水素ナトリウム、いわゆる重曹です。4%くらいの濃度でよいでしょう。いずれも食品に使われていますので、危なくありません。また、百均に行けば掃除用のものも買えます。ちなみにリトマスミルクにラムネや塩分チャージのタブレットを入れると、派手に色が変わります。小学生には大ウケでした。
こんなふうになります
まずはリトマスミルクとクエン酸溶液もしく炭酸水素ナトリウムの溶液を、それぞれの加える液量を変えて、混合してみました。中央の紫色の中性条件を挟んで、左側ほど酸性が強く、右側ほどアルカリ性が強くなっています。酸性側では赤く、アルカリ性側では青く、また加えた液量が増えるほど、色が濃くなっているのがわかります。
基質が変われば気質も変わる!
さあ、いよいよ共通テストの実験の再現です。高校生のマオとナツに負けないよう、牛乳(ミルク)とともに、低脂肪乳と乳脂(生クリーム)も試してみました。探究活動っぽいでしょう。それぞれに含まれる乳脂の含有率は、ミルクが3.5%、生クリームが40%、低脂肪乳が0.9%でした。これらにリトマスを加えたものを「リトマス基質」としてあります。実際の試験問題では100℃で処理したリパーゼの作用を調べていますが、私はその部分は割愛し、リパーゼがないときの胆汁の作用を検出するためのサンプルを作りました。
下の図が結果です。まず、「リパーゼの作用の検出」に着目した場合、各リトマス基質の①と②を比べることになります(共通テストっぽいですね)。3つのリトマス基質のいずれも①は青色系であるのに対し、②は明確に赤色系に変化しています。ここで3種類の基質を比較してみましょう。基質である脂肪の含有率が最も低い「低脂肪乳」において、色の変化が最も明確に見えました。
続いて、「胆汁のはたらき」に着目した場合は、各リトマス基質の②と③を比べることになります。④も対照群の一種で、胆汁粉末の作用によりリトマス基質の色が変わらないか、また胆汁粉末のそもそもの色が影響を与えないか、2つの目的を持っています。
結果の解析ですが、中央の「牛乳」が胆汁によるリパーゼの作用をよく助けていることがわかります。クリームでも違いはわかりますが、低脂肪乳は胆汁の助けを借りずとも基質を分解できている印象です。なお、100℃で処理したリパーゼでも実験したところ、オリジナルの問題に示されているのと同じ結果(失活している)ことが確認できましたが、今回は結果の比較をしやすくするため、データは割愛しました。
続いて、「胆汁のはたらき」に着目した場合は、各リトマス基質の②と③を比べることになります。④も対照群の一種で、胆汁粉末の作用によりリトマス基質の色が変わらないか、また胆汁粉末のそもそもの色が影響を与えないか、2つの目的を持っています。
結果の解析ですが、中央の「牛乳」が胆汁によるリパーゼの作用をよく助けていることがわかります。クリームでも違いはわかりますが、低脂肪乳は胆汁の助けを借りずとも基質を分解できている印象です。なお、100℃で処理したリパーゼでも実験したところ、オリジナルの問題に示されているのと同じ結果(失活している)ことが確認できましたが、今回は結果の比較をしやすくするため、データは割愛しました。
ここからが真骨頂
低脂肪乳、牛乳、乳脂の3種類にリトマス液を加えて作ったリトマス基質、いずれもリパーゼによる脂肪の分解を検出できることがわかりました。でも、ここまではほぼ共通テストのトレースに過ぎません。ここから「探究活動」へ発展させていくにはどういうことをやってみたらよいでしょう?皆さん自身で考えてみてください。
ちなみに私が自身の課題としたのは、「より安全で、より安価」でした。というのも、このリトマスミルクの実験を小学生対象のイベントで実施することになったからです。お子さん達が家庭でも実施できるようにするためにはどこをどのようにアレンジしたら良いか、考えました。リトマスの粉末の入手はなかなかハードルが高いし、また手袋着用や吸い込み注意の指示がリトマス粉末の説明書に書かれています。そのため、「酸性とアルカリ性で色が変わり、安全で、安価なリトマスの代用品」を探す必要がありました。ここでヒントになったのが、一緒にイベントを担当してくれた大学院生のSさんの「紫(赤)キャベツがありますよ」の一言でした。確かに紫キャベツに含まれているフラボノイドであるアントシアニンは、pHの違いによって異なる色を呈します。調べてみたところ、ブドウやリンゴ、イチゴ、ブルーベリー等の果実、ナス、シソの赤色や紫色はアントシアニンによるものであることがわかりました[5](ますます探究活動っぽい!)。
ちなみに私が自身の課題としたのは、「より安全で、より安価」でした。というのも、このリトマスミルクの実験を小学生対象のイベントで実施することになったからです。お子さん達が家庭でも実施できるようにするためにはどこをどのようにアレンジしたら良いか、考えました。リトマスの粉末の入手はなかなかハードルが高いし、また手袋着用や吸い込み注意の指示がリトマス粉末の説明書に書かれています。そのため、「酸性とアルカリ性で色が変わり、安全で、安価なリトマスの代用品」を探す必要がありました。ここでヒントになったのが、一緒にイベントを担当してくれた大学院生のSさんの「紫(赤)キャベツがありますよ」の一言でした。確かに紫キャベツに含まれているフラボノイドであるアントシアニンは、pHの違いによって異なる色を呈します。調べてみたところ、ブドウやリンゴ、イチゴ、ブルーベリー等の果実、ナス、シソの赤色や紫色はアントシアニンによるものであることがわかりました[5](ますます探究活動っぽい!)。
ブルーベリーミルクの誕生
ということで、アントシアニンがリトマスの代用になるかを確かめることとし、冷凍ブルーベリーを使ってみました。冷凍品なので季節を選ばず、安価だからです。
この実験も試行錯誤の連続でした。子供達に使わせるため、危なくない方法で色素の抽出を大前提にしました。最初は、ブルーベリーに水を加えてミキサーで破砕し、遠心分離して得た上清を試してみましたが、これは大失敗でした。というのも、ブルーベリーの実に含まれている糖(多分ペクチン類)も一緒に抽出されてしまったため、まさに「ブルーベリージャム」になってしまったからです。そこで、皮だけを剥がして試したところ、だいぶ改善されましたが、それでもジャム状になってしまう現象は避けられませんでした。何か「アントシアニンが溶けて糖が溶けない溶媒」が必要です。やはり有機溶媒がよさそうです。
そこで試したのは、アセトンでした(妥協しました)。併せて、ブルーベリーの皮を凍結乾燥して水分を飛ばしてから使用する、という一工夫も加えました。これは大成功でしたので、アセトンをできるだけ気化させたのち、ミルクに加えて、いわゆる「ブルーベリーミルク」を作ってみました。これにクエン酸、水、または重曹を加えてpHを変えてみたところ、見事に色が変わりました。送風により気化させやすいことを考慮しアセトンを選択しましたが、100%エタノールでももちろん可能です。
ここまでくればもうあと一歩。ブルーベリーミルクでもリパーゼの作用や胆汁の作用が検出できるか、試してみました。胆汁粉末の代わりにデオキシコール酸ナトリウムを使いましたが、結果はバッチリ!でした。
この実験も試行錯誤の連続でした。子供達に使わせるため、危なくない方法で色素の抽出を大前提にしました。最初は、ブルーベリーに水を加えてミキサーで破砕し、遠心分離して得た上清を試してみましたが、これは大失敗でした。というのも、ブルーベリーの実に含まれている糖(多分ペクチン類)も一緒に抽出されてしまったため、まさに「ブルーベリージャム」になってしまったからです。そこで、皮だけを剥がして試したところ、だいぶ改善されましたが、それでもジャム状になってしまう現象は避けられませんでした。何か「アントシアニンが溶けて糖が溶けない溶媒」が必要です。やはり有機溶媒がよさそうです。
そこで試したのは、アセトンでした(妥協しました)。併せて、ブルーベリーの皮を凍結乾燥して水分を飛ばしてから使用する、という一工夫も加えました。これは大成功でしたので、アセトンをできるだけ気化させたのち、ミルクに加えて、いわゆる「ブルーベリーミルク」を作ってみました。これにクエン酸、水、または重曹を加えてpHを変えてみたところ、見事に色が変わりました。送風により気化させやすいことを考慮しアセトンを選択しましたが、100%エタノールでももちろん可能です。
ここまでくればもうあと一歩。ブルーベリーミルクでもリパーゼの作用や胆汁の作用が検出できるか、試してみました。胆汁粉末の代わりにデオキシコール酸ナトリウムを使いましたが、結果はバッチリ!でした。
低脂肪乳がいい感じ!
リトマスを用いた実験では、低脂肪乳がリパーゼの作用の検出への適性があることが示されましたので、ブルーベリー低脂肪乳でも試してみました。加えるリパーゼの濃度を統一しつつ、ブルーベリーのアセトン抽出物と基質の比を変えたものを用意し、反応開始から30分後と90分後の色の変化を比較してみました。低脂肪乳、いい感じです。
「ご家庭でもできます」を実現するために
凍結乾燥したブルーベリーの皮からアセトンで抽出したアントシアニンはリトマスの代用となることがわかりました。残る課題は「ご家庭でもできます」の実現です。ブルーベリーの皮は簡単に入手できますが、凍結乾燥は機械がないとできないので、「気にしない、あるいは剥がした皮を乾かして水分を飛ばす」でよいでしょう。また、アセトンの代用となるとてもよいものも見つけました。新型コロナウイルス感染症の流行の名残で、あちこちにまだ手指消毒用のアルコールがあると思います。このうちアルコール分が70%以上のものを使うと非常に上手くいきます(ジェルタイプでも問題なし)。凍結乾燥したブルーベリーの皮をペットボトルのキャップに入れ、ここに消毒用アルコールを数プッシュ分、加えてあげると、みるみるうちに色素が抽出されてきます。適宜、ブルーベリーの皮を新しいものに交換することで、下の写真のような色濃いアントシアニン溶液ができます。この溶液を水で薄めて、周りにある酸性の液体やアルカリ性の液体を加えれば色が変化しますので、小さなお子さんでも楽しめます。
「はじまり」は結末から考える
探究活動はもとより、各種の実験を行ううえであらかじめ綿密な準備をしておかねばならないことは何だと思いますか?私は、その結末、つまりは実験廃棄物の処理についてがとても重要だと考えています。今回の記事も「家庭ゴミとして処理できること」を念頭においています。ではみなさんは使用済みのミルクや乳脂肪をどう処理しますか?私は新聞紙など吸水性のよい紙に吸わせたのち、適宜乾燥させてから、可燃ゴミとして廃棄をしています。環境を汚さないためにはどうしたらよいか、まずはしっかり準備をしてから、実験をしてください。
終わりに
今回の記事はいかがだったでしょうか?高校現場で使うなら、低脂肪乳が案外優れものであることがわかりました。飲料用に使うわけではないので賞味期限切れでも問題ありません。リトマスの代わりにブルーベリーも使えることもわかり、それだけでもコストが2/3以下になりました。まだまだ工夫や改良の余地があり、私自身も研究室の学生さんたちと一緒に探究活動を続けています。
今回はリトマスミルクの話で終わりにしますが、そもそもの題材となった大学共通テストの問題にはさらに続きがあり、マオとナツは、「胆汁は脂肪を乳化させることで、リパーゼによる脂肪の分解を助けている」という仮説の証明に挑んでいます。二人は、食用油に水を加えたものと、さらにこれに胆汁を加えたものとを用意し、激しく撹拌してから放置したところ、前者(胆汁を加えていないもの)では水と食用油の2層に、後者(胆汁を加えたもの)では乳化した食用油の層が加わり3層に、それぞれ分離することを見つけました。そこで二人は乳化した食用油と乳化していない食用油の層を取り出し、リトマスを溶かしたリパーゼ溶液を加えて反応させ、両者の色の違いを比較する実験をしました。二人の仮説が正しければ、「乳化した食用油は、乳化していない食用油よりも、赤くなる」はずです。私もオリーブ油を使ってチャレンジしてみたところ、仮説を支持する実験結果を再現することができました。胆汁の働きを具体的に示す実験として、まずリトマスミルクで原理を紹介し、さらにその具体的なメカニズムを示すために食用油を乳化させる実験を組んでいます。マオさん、ナツさん、すげー!あなたたちは本当に高校生なのでしょうか?
このように、令和5年度共通テスト生物基礎本試験第2問A、何度見返しても、入学試験問題としてだけでなく、その後も探究活動の題材として活用できるような様々な工夫をこらした素晴らしい問題であると思います。この問題を作られた方々の教育に対する熱意と心意気に深く敬意を表する次第です。よろしかったら「ブルーベリーミルク」も試験問題のネタに使ってくださいね。
今回はリトマスミルクの話で終わりにしますが、そもそもの題材となった大学共通テストの問題にはさらに続きがあり、マオとナツは、「胆汁は脂肪を乳化させることで、リパーゼによる脂肪の分解を助けている」という仮説の証明に挑んでいます。二人は、食用油に水を加えたものと、さらにこれに胆汁を加えたものとを用意し、激しく撹拌してから放置したところ、前者(胆汁を加えていないもの)では水と食用油の2層に、後者(胆汁を加えたもの)では乳化した食用油の層が加わり3層に、それぞれ分離することを見つけました。そこで二人は乳化した食用油と乳化していない食用油の層を取り出し、リトマスを溶かしたリパーゼ溶液を加えて反応させ、両者の色の違いを比較する実験をしました。二人の仮説が正しければ、「乳化した食用油は、乳化していない食用油よりも、赤くなる」はずです。私もオリーブ油を使ってチャレンジしてみたところ、仮説を支持する実験結果を再現することができました。胆汁の働きを具体的に示す実験として、まずリトマスミルクで原理を紹介し、さらにその具体的なメカニズムを示すために食用油を乳化させる実験を組んでいます。マオさん、ナツさん、すげー!あなたたちは本当に高校生なのでしょうか?
このように、令和5年度共通テスト生物基礎本試験第2問A、何度見返しても、入学試験問題としてだけでなく、その後も探究活動の題材として活用できるような様々な工夫をこらした素晴らしい問題であると思います。この問題を作られた方々の教育に対する熱意と心意気に深く敬意を表する次第です。よろしかったら「ブルーベリーミルク」も試験問題のネタに使ってくださいね。
出典・参考資料
- [1] 文部科学省高等学校学習指導要領(平成 30 年告示、令和3年8月一部改訂)解説理科編理数編
- [2] 平成30年実施第2回試行テスト生物第1問A
- [3] 令和4年度共通テスト生物基礎追試験第2問A及びB
- [4] 令和5年度共通テスト生物基礎本試験第2問A
- [5] 津田孝範、「植物色素アントシアニンのサイエンス-化学、機能と活用-」、一般財団法人食品分析センターホームページ、http://www.mac.or.jp/mail/151001/01.shtml、2025年9月18日アクセス。
岩室 祥一(生体調節学研究室)



