理学部生物学科

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実は多様なヘビの捕食行動 ①

はじめに

動物の餌の食べ方はとても多様です。その中でも、ヘビの食事は一際ユニークです。ヘビは自分の頭よりもはるかに大きな餌を呑み込むことができます。ここでは、ヘビの捕食行動の多様性について紹介します。

ヘビは餌を丸呑みにする

 ヘビが大きな餌を呑み込むことができるのには、特殊な頭の構造が関係しています。ヘビの頭はたくさんの骨で構成されており、とても柔軟にできています。また、ヘビの顎は右側と左側の骨が完全に分離しており、左右の下顎骨の間が大きく広がります(文献1)。これにより、大きな餌を頭で包み込むようにして呑み込むことができます(写真1)。餌を呑み込むとき、ヘビは左右の顎を片側ずつ交互に動かします。これにより、片側の顎で餌を保持したままで、頭の逆側を前進させることができます(文献1)。このように、ヘビは形態や行動の特殊化によって、自分の頭よりも大きな餌を呑み込むことができるのです。その一方で、特殊化の代償として、ヘビは餌をかみ切ったり、咀嚼したりすることができません。ヘビがもつ柔軟な顎や針のように細い歯は、餌をかみ切ったり、強い咬合力を生み出すのには不向きだからです。ヘビは、グループ全体としては、大きなシカから棘のあるヤマアラシまで、非常に多くの動物を食べることができますが、それらはほとんどすべての場合、丸呑みにされます。
写真1 写真1.大きなヒキガエルを丸呑みにするヤマカガシ

カニをバラバラにして食べるヘビ

 ミズヘビの仲間は、東南アジアやオーストラリア北部のマングローブ湿地帯や干潟に生息する半水棲のヘビです。ミズヘビは魚類を主食とする種の他に、カニを餌とする種がいます。これらのカニ食のミズヘビは、他のヘビとは異なる方法で餌を食べます。カニの身体をバラバラにしてから食べるのです。ある種のミズヘビは、カニの脚をもいで一本ずつ食べます。また、別の種のミズヘビは、脱皮直後の柔らかいカニだけを好んで食べ、カニの脚をもぐだけでなく、胴体を引きちぎって呑み込みます。このような珍しい行動により、これらの種は、ヘビにおける進化的な制約を打ち破り、丸呑みできない大きさの餌を利用することができます(文献2–4)。この発見は、権威ある学術誌Natureに掲載されるほど驚くべきものでした。

シロアリの頭を切り落とすヘビ

  メクラヘビの仲間は、世界の熱帯・亜熱帯地域に分布する半地中棲のヘビです。メクラヘビはアリやシロアリを主食にしており、そのような小さな餌を口の中にかき込むようにして、一度にたくさんの数を食べます。日本には在来のメクラヘビはいませんが、ブラーミニメクラヘビという種が海外から人為的に持ち込まれ、温暖な地域に定着しています。共同研究者と私は、ブラーミニメクラヘビが奇妙な餌の食べ方をすることを明らかにしました(文献5)。ブラーミニメクラヘビのシロアリに対する捕食行動を観察したところ、ほぼ必ず、シロアリの腹の方に食いつき、後ろ向きに呑みはじめました。そして、シロアリの頭だけが口から出る状態にし、そこから顔を地面にこすりつけるようにして、シロアリの頭を切り落としました。そして、シロアリの頭を残して胸と腹だけを呑み込んだのです(写真2)。必ず頭を切り落とすというわけではなく、約半数のシロアリは後ろ向きに丸呑みにされました。
写真2 写真2.シロアリの頭を切り落とすブラーミニメクラヘビ(腹面から見た様子)。
 先述のミズヘビの場合とは異なり、メクラヘビはシロアリを丸呑みにすることができます。それでは、なぜメクラヘビはシロアリの頭を切り落とすことがあるのでしょうか? 私たちは、①餌をより速く呑み込むため、②頭は消化できないため、③頭は有害な化学成分を含んでいるため、という3つの可能性を考えました。①について検討するため、呑み込み時間の測定を行いました。200回以上の捕食で2回だけ、シロアリを頭から呑み込んだケースがありました。これらの例外的なケースでは、腹から呑み込んだ場合よりも、速く呑み込みが完了することがわかりました。つまり、メクラヘビは速く飲み込むために餌の頭を切り落とすのではなく、むしろわざわざ余分な時間を使って腹から呑み込み、頭を切り落としていると考えられます。次に、②について検討するため、メクラヘビの糞の中にシロアリの頭が残っているかを調べました。その結果、メクラヘビが呑み込んだシロアリの頭のうち、26〜100%が未消化の状態で糞の中から見つかりました。このことから、メクラヘビはシロアリの硬い頭をあまり消化できないことがわかりました。③については、シロアリの頭はさまざまな防御物質を含むことがあることから、有力な仮説であると考えられました。私たちは、メクラヘビは、消化しづらく有害な部位を取り除くために、シロアリの頭を取り除いているのではないかと結論づけました。
 文献を精査したところ、ブラーミニメクラヘビの属するメクラヘビ科とは異なる系統であるホソメクラヘビ科において、よく似た行動が報告されていたことがわかりました。互いにかなり遠縁なホソメクラヘビ科でメクラヘビ科でシロアリの頭を切り落とす行動が見つかったことから、このような行動はメクラヘビの仲間で広く共有されているのかもしれません。

おわりに

 ミズヘビやメクラヘビを含め、多くのヘビはなかなか人目に触れることがありません。そのため、ヘビの餌の食べ方の多様性は過小評価されていたのかもしれません。実際に、ブラーミニメクラヘビに関する私たちの報告の後にも、さまざまな系統のヘビで、餌を分解してから体の一部だけを食べる行動が報告されています。これらの発見により、ヘビの採餌行動はかつて考えられていたように画一的ではなく、むしろ生態や形態と関連して柔軟に進化してきたことがわかってきました。最近の発見については、また次回以降にご紹介したいと思います。
児島 庸介(東邦大学理学部生物学科 動物生態学研究室)

参考文献

  1. Cundall D, Greene HW (2000) Feeding in snakes. In Feeding: Form, Function, and Evolution in Tetrapod Vertebrates (ed. K. Schwenk). pp. 293–333. Academic Press, San Diego.
  2. Shine R, Schwaner T (1985) Prey constriction by venomous snakes: a review, and new data on Australian species. Copeia 1985, 1067–1071.
  3. Voris HK, Murphy JC (2002) The prey and predators of Homalopsine snakes. Journal of Natural History 36, 1621–1632.
  4. Jayne BC, Voris HK, Ng PKL (2002) Snake circumvents constraints on prey size. Nature 418, 143.
  5. Mizuno T, Kojima Y (2015) A blindsnake that decapitates its termite prey. Journal of Zoology 297, 220–224.

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