理学部生物学科

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「特定外来生物」と「外来生物」と「外来種」・・・さて、違いは何でしょう?

はじめに

 某テレビ局で、池の水を全部抜いてみたら・・・、という内容の番組があります。生き物に興味がある人は一度は見たことがあるのではないでしょうか。筆者も見たことあります。ゴミだけでなく外来生物がわんさか出てきますね。だから、というわけではありませんが、筆者は特定外来生物の1つであるナガエツルノゲイトウの研究をしています。「生物」という言葉が付くと動物を思い浮かべると思いますが、「生物」には植物も含まれ、筆者が研究しているナガエツルノゲイトウは植物の1種です(図1)。
図1
図1.特定外来生物ナガエツルノゲイトウ
川の手前に見える植物の群落がナガエツルノゲイトウ。水面を覆うように一面に繁殖している。
 ナガエツルノゲイトウは繁殖力が非常に強く、国内外を問わず大きな問題になっているのですが、その話を始めると本題からずれていってしまうので、ここでは省略します。
 さて、本題に戻って、「特定外来生物」って何か知っていますか?「海外から入ってきた生き物でしょ?」と答える人がほとんどだと思います。では、「外来生物」と何が違うのでしょう?「特定」という言葉がわざわざ付いているくらいですから、「特定外来生物」と「外来生物」はきっと何かが違うのでしょうね。では次に、「外来生物」と「外来種」はどうでしょう?「今度こそ同じもの?」となりそうですが、こちらも両者は少し異なります。これら3つの言葉を正確に使い分けられる人は、この分野に詳しい人だと思います。以下、順番に説明していきましょう。

外来生物とは?

 まず「外来生物」とは何でしょう?漢字から推察できると思いますが、「外来生物」とは「海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物」と法律に定義されています。その法律というのは、「外来生物法」(正式名称は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」)です。
 ここで注意してほしいことが2つあります。まず、条文にある「導入」というのは、意図しようが意図しまいが人為的に、ということです。例えば、コンテナで荷物と一緒にまぎれて国内に入ってきた生物も含まれます。(「人為的に」なので、自然にやってきた渡り鳥や海流で運ばれてきた生物などは対象外です。)
 2つ目は、外来生物法でいう「外来生物」は、あくまでも海外(国外)から日本に入ってきた生物だということです。 

外来種とは?

 では次に、「外来種」とは何でしょう?こちらは、環境省のホームページ1)では「自然分布域(その生物が本来有する能力で移動できる範囲により定まる地域)の外に生育又は生息する生物種」と説明されています。一見、「ん?『外来生物』と同じ?」となりそうですね。でも注意してよく読んでください。「外来生物」の方には「海外から我が国に・・・」というくだりがありましたが、「外来種」の方にはそのくだりはありません。「外来生物」は先に述べたように(人為的に)「海外から」日本に導入された生物であるのに対し、「外来種」はそのような生物だけでなく、もともと国内の他の地域に生息しているけれども、本来は生息していなかった地域に人間の活動によって持ち込まれた生物も含まれるのです。

特定外来生物とは?

 最後に、「特定外来生物」とは何でしょう?環境省のホームページ2)には、「『特定外来生物』とは、外来生物(海外起源の外来種)であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から指定されます」とあります。ですから、外来生物の中の一部ということになります。外来生物法では、特定外来生物を愛がん(ペット)・観賞の目的で飼養等(飼養・栽培・保管・運搬)することは原則として禁止されていますので、注意してください。筆者は特定外来生物の研究をしていると冒頭に書きましたが、勝手に栽培しているわけではなく、環境省から飼養等の許可をもらって栽培しているのです。

最後に

 どうでしょう、「特定外来生物」と「外来生物」と「外来種」の違い、おわかりいただけましたでしょうか。うっかりすると混同して用いてしまいそうですが、含有関係で言うと、「外来種>外来生物>特定外来生物」ということになります。
 アライグマやミシシッピアカミミガメ(通称、ミドリガメ)の話がよくニュースで流れているので、皆さんも外来生物を勝手に自然界に放つのは良くないというのは知っていると思います。しかし、もともと日本にいる生物であっても、むやみに自然界に放つのはやめましょう。自然生息域外に放った場合は国内由来の「外来種」となって、その生息域を人為的に広めてしまうからです。
 では、その生物がいる場所であれば自然界に放ってもよいかというと、実はこれも問題なのです。同じ生物でも、生息している地域によって個体群の遺伝子構成が少しずつ異なるからです。ゲンジボタルの地理的集団の話がわかりやすいので、例にとって説明したいと思います。ゲンジボタルが光るのは知っていると思いますが、その発光間隔が東日本では2秒、西日本では4秒という具合に異なります。さらに遺伝的類縁関係を調べると、日本のゲンジボタルは大きく3つの地理的集団(東本州型、西本州型、九州型)に分けられます3)。そのため、例えば東日本の個体を九州に持ってくると、九州の個体群の中に本来は無かった東日本の個体群の遺伝子が混ざってしまうのです。「遺伝子汚染」、あるいは「遺伝的攪乱(かくらん)」、「遺伝子攪乱」と呼ばれる現象です。
 生物を採取したり購入して可愛がるのはよいですが、その生物がどこ由来のものか、特定外来生物に指定されていないか、など、よく調べてから行動するようにしましょう。

引用文献

  1. 環境省ホームページ
    https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/yougo.html
  2. 環境省ホームページ
    https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/outline.html
  3. Kato D., Suzuki H., Tsuruta A., Maeda J., Hayashi Y., Arima K., Ito Y. and Nagano Y. (2020) Evaluation of the population structure and phylogeography of the Japanese Genji firefly, Luciola cruciata, at the nuclear DNA level using RAD-Seq analysis. Scientific Reports 10:1533.

植物生理学研究室 高橋 秀典

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