理学部生物学科

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形態測定学: 体の大きさの自然法則

はじめに

 本連載では、生物形態を定量化する手法として形態測定学の紹介を行っている。前回は、体サイズの変量を説明した。本連載3回目となる今回は、体サイズ変量として用いられることも多い「重さ」を題材に、動物の体と脳の大きさの関係を紹介する。

動物の体と脳の重さ

 図1は、動物園などで一般的な動物の体と脳の重さの関係を表している。縦軸、横軸、ともに、1、2、3、・・・と目盛りがついているが、これらは重さの常用対数を表す。常用対数とは10を何乗するかのことで、常用対数の1は10(=101)、2は100(=102)、3は1,000(=103)に等しい。例えば、この図ではチーターの体と脳の重さが4.8と2.1付近に示されている。これは、体の重さが6,300(=104.8)g、脳の重さが125(=102.1)g程度であることを示している。注目してほしいのは、多くの動物の体の重さと脳の重さの関係が、直線的に並んでいる点である。きれいに並んでおり、体の重さと脳の重さは、何か決まったルールに従っているようにもみえる。
図1
図1 食肉目や偶蹄目の体と脳の重さの関係。赤は食肉目、緑は偶蹄目に主に分類される生物種を示す。値は常用対数として示されている。

大型動物と小型動物の体と脳の重さ

 もっと大型あるいは小型の動物であれば、どうなるだろうか。ゾウとネズミのなかまを加えた体と脳の重さの関係を図2に示した。アジアゾウの体重は2,700kgであるのに対し、ハツカネズミの体重19gと、両者の体重は100,000倍以上異なる。しかし、極端に体重が異なる動物に関しても、体と脳の重さの関係が同じ直線の延長上に並んでいることがわかる。
図2
図2 大型動物と小型動物を含む動物種の体と脳の重さの関係。緑は食肉目、赤は偶蹄目、黄は齧歯目、藍は長鼻目に主に分類される生物種を示す。値は常用対数として示されている。

サルやイルカの体と脳の重さ

 さらにサルやクジラのなかまを加えた場合の関係を図3に示した。ヒトを含むサルのなかまは、これまでの動物と比べ、体に対して脳が重い傾向が見られる。例えば、ヒトとチーターは体重が大きく変わらないが、脳の重さはヒトの方が10倍以上重い。イルカも同様に脳が重いことがわかる。しかし、これらの動物を加えたとしても、体と脳の関係は、右上がりの直線関係から極端にずれるわけではない。
図3
図3 霊長目やクジラ目を含む動物種の体と脳の重さの関係。赤は食肉目、緑は偶蹄目、黄は齧歯目、藍は長鼻目、茶は霊長目、青はクジラ目に主に分類される生物種を示す。値は常用対数として示されている。

哺乳類の体と脳の重さ

 哺乳類に含まれる他の動物を加え、その回帰直線を見積もったものを図4に示した。やはり大部分の動物が、この回帰直線に沿って並んでいる。これは、多くの動物の体と脳の大きさが、ある一定の法則に従っている可能性を示唆している。何らかの自然の法則のもと、動物の大きさは進化しているのかもしれない。例えば、この図の上方向への進化は、「体の大きさは変化せず脳の大きさだけが巨大化するような進化」を示している。しかし、そのような進化は発生的または遺伝的な理由で進化しにくいのかもしれない(Gould 1975; Maynard Smith et al. 1985; Klingenberg 2008)。このように生物進化を制限するメカニズムを一般的に「制約」という。生物は、いかなる形態にも進化できるわけではなく、発生的または遺伝的に制約を受ける。逆に言えば、制約が小さい形態進化は生じやすい。上記の例で言えば、図4の直線に沿って体と脳が一緒に変化するような進化は生じやすいと考えられる。生物形態の進化しやすさを考えることが、進化の方向性を予測する上で重要といえる(Schluter 1996)。
図4
図4 哺乳類の体と脳の重さの関係。赤は食肉目、緑は偶蹄目、黄は齧歯目、藍は長鼻目、茶は霊長目、青はクジラ目、紫は翼手目、薄青は有毛目、薄茶は真無盲腸目に主に分類される生物種を示す。直線は、体の重さをx、脳の重さをyとした回帰直線を示す。値は常用対数として示されている。
 以上のように、動物の体と脳の大きさは、一本の直線状に並ぶわけだが、この法則は3/4乗則とよばれている。これは、回帰係数が0.75(=3/4)に従うことに所以し、体の大きさと代謝率で同様の関係を見出したクレイバーにちなみクレイバーの法則ともよばれている(Kleiber 1961)。なぜ2/3ではなく、4/5でもなく、3/4なのかという問題は、自然に隠れた数理を考える上でも興味深い。また、このような法則性は、生物進化におけるアロメトリー(Klingenberg 1996)の意義を考える上でも重要だろう。
 本記事で用いた結果は、Tsuboi et al. (2018)のデータを使って解析した。より広範囲で卓越した結果がこの先行研究で議論されているので、興味がある読者は参照してほしい。

引用文献

  1. Gould, S. J. 1975. Allometry in primates, with emphasis on scaling and the evolution of the brain. Contrib. Primatol. 5: 244–292.
  2. Kleiber, M. 1961. The Fire of Life: An Introduction to Animal Energetics. John Wiley & Sons, New York.
  3. Klingenberg, C. P. 1996. Multivariate allometry. In Advances in morphometrics (pp. 23-49). Springer, Boston, MA.
  4. Klingenberg, C. P. 2008. Morphological integration and developmental modularity. Annual review of ecology, evolution, and systematics 39: 115-132.
  5. Smith, J. M., Burian, R., Kauffman, S., Alberch, P., Campbell, J., Goodwin, B., Raup, D. and Wolpert, L. 1985. Developmental constraints and evolution: a perspective from the Mountain Lake conference on development and evolution. The Quarterly Review of Biology 60: 265-287.
  6. Schluter, D. 1996. Adaptive radiation along genetic lines of least resistance. Evolution 50: 1766-1774.
  7. Tsuboi, M., van der Bijl, W., Kopperud, B. T., Erritzøe, J., Voje, K. L., Kotrschal, A., Kara E. Yopak, K. E, Collin, S. P., Iwaniuk, A. N., and Kolm, N. 2018. Breakdown of brain–body allometry and the encephalization of birds and mammals. Nature Ecology & Evolution 2: 1492-1500.

地理生態学研究室 小沼 順二

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