理学部生物学科

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脳内の謎の器官? Paraphysis:副生体について

はじめに

 今回の生物学の新知識では、paraphysisという脳内の器官についてご紹介したいと思います。この器官は特に両生類や爬虫類の脳でよく発達している器官で、一見すると脈絡叢に類似しており、脳室周囲器官*1補足の一つと考えられています。1891年にはSelenkaという研究者によって記述されており(文献1)、古くから研究者の間で認識されていました。しかし、現在にいたるまで、十分にその機能が明らかにされているとは言い難い状況です。今回の記事では特に両生類のparaphysisの研究を紐解きながら、今後の研究の展開を少し考えていければと思います。なお、paraphysisの日本語訳についてはほとんど参照できるものがありませんが、内分泌器官のアトラス(1987, 講談社:文献2)にparaphysis:副生体との記載があり、本稿ではそれを採用しています。また、子嚢菌類の側糸もparaphysisと呼びますが、ここで紹介するparaphysisとは全く異なるものです。

Paraphysis:副生体は脳のどこに存在するのか?

 副生体は第三脳室*2補足の上部に位置し、両生類の脳ですと、ちょうど背側から脳を見たときに、大脳と中脳の間隙を覆うように存在しています(図A:赤く示した構造が副生体)。写真はアルデヒドフクシン-アザン染色したイモリ脳切片の光学顕微鏡写真で、中央の器官が副生体です(図B)。オレンジ色の細胞は赤血球ですが、副生体内に赤血球が多く存在することがわかります。これは副生体には毛細血管が発達していることによります。両生類の脳を解剖して背側から観察すると赤い構造が目立ち、副生体の存在はすぐにわかります。
図:イモリ脳の模式図(A)と副生体の光学顕微鏡写真(B)

図:イモリ脳の模式図(A)と副生体の光学顕微鏡写真(B)

副生体と脈絡叢は何が異なるのか?

 副生体は第三脳室の脈絡叢と近い位置に存在しており、また構造的にも類似していますが、図Bに示すように別の器官であることがわかります。では副生体と脈絡叢では機能的には何か違いがあるのでしょうか。脈絡叢については以前2015年11月および2018年7月の記事でも紹介をしましたので、ぜひそちらの記事も参照していただきたいと思います(文献3, 4)。脈絡叢は哺乳類では脳脊髄液の主要な産生器官であり、さらに血液中の成分を選択的に脳脊髄液中に移送する役目を果たしており血液-脳脊髄液関門を形成しています。過去に両生類を用いて血液中に色素を注入した場合、脈絡叢の細胞にはその色素の取り込みが観察されるのに対して、副生体の細胞では色素の取り込みがないこと、分泌腺を刺激する薬剤によって副生体から分泌を示す特徴が現れるが、脈絡叢ではそのような現象は見られないことが報告されています(文献5)。それら結果より、副生体は主として分泌器官であること、脈絡叢は血液中の物質取り込む性質が強いため、血液と脳脊髄液の物質のやり取りに関わっているのではと推測されています。つまり、哺乳類では脈絡叢が脳脊髄液の産生と物質の選択的な移送を一挙に担っていますが、両生類では脳脊髄液は副生体が産生し、脈絡叢が物質の選択的な移送を担っている可能性があります。

副生体の機能を推定するこれまでの知見

 Nelson and Foltz(1983)(文献6)によると、ウシガエル成体の副生体を除去すると、除去後平均で約8日後に四肢の筋攣縮が生じ、2週間以内に全身麻痺となり、その後死亡してしまうことが報告されています。この時、脊髄に存在する運動ニューロンが退縮し、脱落することが観察されており、筋攣縮、全身麻痺の原因は運動ニューロンの脱落によると考えられています。さらに副生体を除去したとき、血液中のカルシウムイオン濃度が正常値の半分程度に低下してしまうことも報告されています。このカルシウムイオン濃度の減少が運動ニューロンの退縮に関わっている可能性も指摘されています。

副成体は副甲状腺の機能に影響を与える?

 成体のカエルの副生体を除去すると最終的には死亡してしまうのですが、Nelsonら(1985)(文献7)は、ウシガエルの幼生の副生体を除去した場合には、死亡せずに変態し、成体になることを見出しました。しかし、変態後のカエルでは骨の形成異常が見られ、副甲状腺が肥大化し、その重量は正常の個体の10倍程度になっていることがわかりました。また、骨のカルシウム含量が正常個体と比較して少ないことから、副甲状腺から副甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、骨形成に異常をきたした可能性が考えられています。これら知見から、副生体は体内のカルシウム代謝に重要な機能を持っていると想定されますが、なぜ副生体の除去により、副甲状腺が肥大したのか、そのメカニズムは不明です。なお、副甲状腺については高校の教科書には具体的な言及はほとんどありませんが、おもなホルモンを紹介する表には記載されていますので、確認してみてください。副甲状腺ホルモンはパラトルモンと呼ばれ、血液中のカルシウムイオン濃度を一定に保つ機能を担っています。具体的にはカルシウムイオン濃度が低下した時に骨組織に作用してカルシウムイオンを血液中に放出させたり、腎臓の尿細管に作用してカルシウムイオンの再吸収を促します。

最近の知見

 最近、私たちはイモリの副生体にはアルギニンバソトシン(AVT)の受容体の一つであるV2タイプ受容体が発現していることを見出しました(文献8)。AVTは哺乳類のアルギニンバソプレシン(AVP)のオルソログで、カエルでは腹部皮膚からの水の吸収を促すなど、体液調節や血圧調節に、また生殖活動にも関わることが知られています。V2タイプ受容体は、哺乳類では腎臓の集合管に発現し、水の再吸収に関わります。また両生類では上述の腹部皮膚からの水の吸収にもこのV2タイプ受容体が関わっていることが知られています。AVTの受容体が副生体に発現していることより、AVTが副生体の機能の制御に関わっている可能性が考えられます。また、副生体は先にも述べたように分泌性の性質を有することから、AVTがV2タイプ受容体を介して脳脊髄液の産生に関わっているかもしれません。副生体の機能がホルモンによる制御を受けている報告はまだないため、今後の機能解析が重要となります。
 また、Ringlerら(2019)が、マンガン造影磁気共鳴イメージング法を利用して、カエルが同種の鳴き声を聞いた時に脳内のどの部位が活性化されるかを解析したところ、複数の脳部位が活性化され、そのうちの一つが副生体であったことが報告されています(文献9)。個体間のコミュニケーションや繁殖に関わる情報が入力された時に副生体が活性化するという現象は、副生体が神経系の活性化ともリンクしていることを示唆しており、とても興味深く感じられます。

まとめ

 副生体は100年以上も前の研究者によって既に記述されていながらいまだにその機能について理解が不十分な状況です。しかし、機能解明に向けて示唆に富む研究報告はあり、カルシウム代謝や副生体のホルモン制御、脳の活動との関わりなどは重要な研究のテーマになり得るものです。哺乳類では副生体の原基と考えられる構造は発生途中で退化してしまうようですが、退化する動物と成体でも発達している動物で何が異なるのか、進化的な側面からの解析も重要と思われます。

補足

*1: 脳室周囲器官:脊椎動物の脳で血液脳関門の不完全な部分で、体液成分を感知するために重要な器官である。
*2: 第三脳室:脳内にある脳脊髄液が満たされている空隙を脳室という。間脳に位置する脳室を第三脳室という。

文献

  1. Selenka E, (1891) Das Stirnorgan der Wirbeltiere. Biol. Zbl., 10: 323−326
  2. 小林英司ら,(1987)内分泌学器官のアトラス 脊椎動物・無脊椎動物 講談社
  3. 蓮沼至,(2015)タンパク質性下垂体ホルモンは脳に作用する?プロラクチンの中枢神経系への作用を例に 生物学の新知識
  4. 蓮沼至,(2018)タンパク質性下垂体ホルモンは脳に作用する?その2 プロラクチン の脳内への移送メカニズム研究の進展 生物学の新知識
  5. Kappers JA, (1950) The development and structure of the paraphysis cerebri in urodeles with experiments on its function in Ambystoma mexicanum. J. Comp. Neurol. 92: 93−127.
  6. Nelson SR, and Foltz FM, (1983) Hypocalcemia and motor degeneration in paraphysectomized frogs. Exp. Neurol. 79: 763−772.
  7. Nelson SR, et al, (1985) Occurrence of bone fractures and parathyroid hyperplasia in paraphysectomized frogs (Rana catesbeiana). Anat. Rec. 211: 311−317.
  8. Hasunuma I, et al, (2010) Localization of three types of arginine vasotocin receptors in the brain and pituitary of the newt Cynops pyrrhogaster. Cell Tissue Res. 342: 437−457.
  9. Ringler E, et al, (2019) MEMRI for visualizing brain activity after auditory stimulation in frogs. Behav. Neurosci. 133: 329−340.

生体調節学研究室 蓮沼 至

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